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セイコー/グランドセイコー メカニカルハイビート36000(1/1) 2013年03月号(No.45)

SEIKO GRAND SEIKO HI-BEAT 36,000

昨年、ようやくドイツ上陸を果たしたグランドセイコー。丁寧な作りで抑制の利いた魅力をたたえ、使い勝手が良く高精度。ドイツでも通好みされるロングセラーシリーズの新作に、果たして何か不足しているものはあるのだろうか。

アレクサンダー・クルプ: 文 Text by Alexander Krupp
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

 
point

・仕上げ加工が完璧
・自社キャリバーの設計が秀逸
・精度の安定性が非常に高い
・装着性と操作性に優れている

point

・デザインに独創性が見られない
・文字盤上のコントラストが弱い

日出づる処の実直な堅者

ランドセイコーは、1960年に発売が開始されたロングランシリーズだ。長らく日本国内のみで販売されてきたが、先頃ついに待望のドイツ上陸を果たした。セイコーは多くのモデルバリエーションがあり、ドイツでも通好みするブランドとして愛好家は少なくない。同社のラグジュアリーラインのグランドセイコーも、ファン層の熱い支持がある。我々編集部も、ドイツ上陸の報告の際には若干浮き足立っていたようだ(日本版編集部注/2012年、ドイツ版『03・2012』号ではグランドセイコーの特集があった)。しかしその後、ひょっとしたら我々としたことが、褒めちぎり過ぎてポジティブな判断しかできていなかったかもしれないと、少々冷静になってきた。評価が正しかったか否かを知るには、やはり毎日使って分析するに尽きるだろう。だが、今の段階で言えるのは、グランドセイコーは事実上、日本の時計製造技術の粋を極めたものである、ということだ。少なくとも今回取り上げる高振動バージョンの「グランドセイコー メカニカルハイビート36000」については、その評価に間違いはないと思われる。だが、ここはやはり、慎重に見るべきだろう。そのために、データを手堅く収集・検証していきたい。

最大限の機能性を追求し、釣り合いよく装飾された自動巻きキャリバー9S85。構成パーツはヒゲゼンマイに至るまですべて自社製だ。

重視すべき点は何か

良い時計というものは、1日中着けていることが前提となる。それはモトクロスのプロドライバーやプロダイバーのように、秒単位の時間計測が必然的な人々以外でも変わらない。そして、時計着用時に求められるのは、雨天や手洗い時の水しぶきのほか、整備されていない道をクルマや自転車で走る時の振動のような、普段の生活の中でさまざまな状況に耐え得るタフさだ。グランドセイコー メカニカルハイビート36000は、こうした要求にすんなり応えてくれる。まず、防水性は10気圧。悪天候下や汗だく時の着用による風防内の曇りや、水分のムーブメントへの浸入からもガードされる。加えて、この時計は、発車しそうなバスに乗るべく、間に合ったためしもないのに猛然とダッシュしたり、遅れを取り戻そうと自転車をしゃかりきになって漕いだりするような、暮らしの中でよくあるノーマルではない振動の環境下においても、目立って害を及ぼさなかったのだ。着用時の歩度への影響はわずかで、日差はマイナス2秒からプラス4秒の間であった。平均日差はプラス1・5秒、最大姿勢差は3秒。これはほぼパーフェクトな数値と言えるだろう。

これらの結果から、テストウォッチはグランドセイコーの高い精度基準をクリアしていることが分かる。グランドセイコー規格では、平均日差はマイナス3秒からプラス5秒の間に収まっていなければならない。ちなみに、スイスの公式クロノメーター検査機関であるC.O.S.C.の基準では、平均日差はマイナス4秒からプラス6秒以内とされている。今回のテストでは、歩度だけでなく振り角でも優秀さが証明された。水平姿勢と垂直姿勢の差は17度のみ。これは加工精度の高いパーツによって、摩擦が抑制されているからなのだろう。

要するに、搭載される自動巻きキャリバー9S85は卓越したムーブメントだと言えよう。しかも、外部からの供給を受けない純然たる自社製造である。主ゼンマイは自社独自の合金「スプロン530」を使用し、パワーリザーブは約55時間。巻き上げは、諏訪精工舎(現セイコーエプソン)が1959年に発明した両方向巻き上げ方式の「マジックレバー」ではなく、ローターの微小な動きを追随できるため、動作が小さくても巻き上げ効率に優れる切り換え伝え車方式を採用している。ヒゲゼンマイも自社でまかなわれ、素材にはセイコーのオリジナルの合金「スプロン610」を使用。4本アームのテンワにセットされ、振動数は3万6000振動/時。一般に、高振動は優れた精度を導き出すと言われているが、このモデルではそれが理論上の話だけではなく、実際に有利に働いているのだ。緩急調整は、ヒゲゼンマイの有効長を変えられる緩急針と、偏心ネジで行われる。これは革新的ではないものの効果的な手法で、ETAのロングセラームーブメントのキャリバー2824と2892にも同様のシステムが見られる。だが、テンプの見た目に関しては、やはりチラネジ付きのほうがエレガントであろう。ムーブメントの設計段階で機構にひと工夫しようと思うと、厚みが出てしまうものだ。このモデルのムーブメントの厚さは堂々6・0㎜。ケースの厚さは13㎜に達するほどの恰幅のよさだ。しかし、中3針で日付表示付きの時計として、ムーブメントの厚さが6㎜というのはかなり厚い。もう一度、ETAキャリバーを引き合いに出すと、2824は厚さ4・6㎜、2892は3・6㎜だ。この点に、薄型化で優美さを狙うよりも実用性と精度の安定性をより重視する、日本の典型的なやり方がよく表れているようだ。

セイコーは基本的にムーブメントに関して、古典的な美観よりも機能性とその効果の高さに重きを置いている。とはいえ、グランドセイコーのムーブメントは、仕上げ加工にかなり手が掛けられていて、セイコーのほかのシリーズとは差別化されたものであることが分かる。ストライプやペルラージュなどの装飾研磨、個性的な形状のローター、ゴールドカラーのエングレービング、鏡面に磨かれたネジの頭と角穴車など、全体的に見事な出来栄えだ。スイスのトップクラスのムーブメントと比較しても、欠けているのは鏡面仕上げのパーツの面取りと、フラット仕上げのネジ頭くらいなものだろう。

右:スイス公式クロノメーターC.O.S.C.の基準では、5姿勢における平均日差が-4秒~+6秒以内とされているが、グランドセイコーにはさらに厳しい独自の基準が設けられている。6姿勢における平均日差-3秒~+5秒以内など、それらの基準を満たして初めて「グランドセイコー規格検定合格証明書」が発行される。
左上:キャリバー9S85が搭載するテンプ。ヒゲゼンマイには「スプロン610」が採用される。通常のヒゲゼンマイに対し、約2倍の対衝撃性と約3倍の耐磁性を備える。
左下:キャリバー9S85が搭載する香箱。中には主ゼンマイ「スプロン530」を内蔵する。1980年代に開発されたニッケル、クロム、モリブデンを含むコバルト系合金「スプロン510」を改良し、バネ力を約6%、持続時間を約5時間向上させた。

ボリュームがありながらも快適な装着性

ところで、日常使いの時計には、堅牢さと高精度以外に、快適な使用感が必要不可欠だ。これに関しても、このモデルはよい持ち札を備えている。つまみやすいリュウズは、段ごとに引き出すのも回すのもスムーズ。誇らしげな151gの重さと、前述の分厚さにもかかわらず、装着感は心地よい。装着性の高さは、内側が滑らかに仕上げられた丁寧な加工のブレスレットと、フラットな形でもしっかりしているシンプルなフォールディングバックルが担うところが大きい。バックルは留める時はかっちりロックがかかるが、外す時はふたつのプッシュボタンでさっと開く。ブレスレットのバックル両端に接する箇所にはハーフピースのコマが入れてあり、ブレスレットの長さが調整しやすい。バックルはがっしりしていながらも、上面にはグランドセイコーのロゴのレリーフが入っているのが綺麗だ。一見、装飾的な要素としか見えないレリーフではあるが、これが結構バックルの磨耗をガードするのに役立っているようだ。というのも、2週間の着用テストの後、傷付きやすそうなこの箇所に、ごく細かい引っかき傷すら見当たらなかったのだ。バックル上面は、ほかのどの箇所よりも何かに頻繁に接触しやすいだけに、この事実は驚異的であろう。

しかし、実用性におけるはっきりした欠点もひとつある。文字盤と時分針のコントラストが極めて弱く、これが視認性を著しく低下させているのだ。例えて言えば、日が落ちた頃に薄明かりの照明の店で席に着いた時、隣のテーブルに座った年配者がこの時計を腕に巻いていたら、「眼鏡なしでは何時か分からん」とつぶやく声が聞こえて来そうなくらいなのだ。時刻だけでなく、日付の読み取りも完璧とは言い難い。ダークシルバーのディスクに黒い数字の組み合わせは、明るい色の文字盤とは調和していない。文字盤にちょっと影が差してしまうと、もう判読しづらくなってしまうほどだ。
ちなみに、日付表示の切り替わりは、テストウォッチでは22時55分から0時8分までかかった。瞬時にチェンジするのではなく、深夜に時間をかけて交代終了となる。
視認性は申し分なしとは評価できないが、針が完璧な長さであることと、秒針がくっきりと見分けがつく青仕立てになっているのは明らかに長所だということも付け加えておこう。

バックルに入ったロゴのレリーフ。装飾的な意味だけではなく、引っかき傷を防御する効果も持っている。

華々しくはなくとも実直さが魅力

もちろん、時計で一番重要なのは、見て気に入るかどうかという点だ。どんなメリットがあろうが、外観が気に入らなければ意味がない。グランドセイコー メカニカルハイビート36000は、飾り立てないシンプルな気品に包まれているのが大きな魅力だ。シリーズとして、1960年以来の歴史を持ち、クラシックかつ実直なデザイン、飾り立てるものはなくともディテールは美しい。ことにセンターではなく縁に面取りを施した60年代風のドーフィン針の仕上がりはパーフェクトだ。文字盤上ではシルバーの色目との組み合わせにはメリハリがないが、微細に入った放射状のサンレイ装飾との対比はなかなかである。また、アプライドインデックスの片端は、文字盤中心に向けて傾斜が付けられており、日付表示にはきちんと面取りが施された窓枠が備えられている。このモデルはすべてのディテールが優美な域に達しているとまでは言えないが、何かほかの時計とはまったく違う独特のものを持っているのだ。その雰囲気は、男女を問わず人間のファッションモデルになぞらえることができるかもしれない。非の打ち所のない見た目でありながら、漠然と何かが足りないように感じてしまうのだ。

では、何が外観上の弱点なのか、具体的に指摘するとなると、これがまた難しい。ラグに穿たれたバネ棒の穴と、ブレスレットのそれが平行していて、機能的に見えないせいもあるかもしれない。バネ穴の凹みがこうはっきりとしていて、武骨なバネ棒の存在を外から感じさせるようでは瀟洒とは言えまい。とはいえ、ケース中心部の膨らみがサイドのシャープさを際立たせつつも、サテン仕上げは繊細という一面もある。立体感あふれるベゼルも、センターを独立ピースにしたケースとブレスレットの間を埋めるエンドピースも、部分的に鏡面に磨かれていて手間のかかった印象を与える。

このように、時計の内側からも外側からもチェックした結果、グランドセイコー メカニカルハイビート36000は、断罪できるほどの決定的な弱点がほとんど見つからないという結論に至った。個性的なもので他人と差をつけたいならば話は別だが、ぐっと抑制の利いたおとなしいデザインを好む向きには、これ以上望む事柄はないはずだ。第一、これだけの優秀さを持ちながら、えらく高価というわけではないのは大きな魅力だ。そして、極東という異国情緒がありつつ、欧州のクォリティに乖離していないときては、コレクションに加えない手はないだろう。

ケース、ブレスレット、バックルは、ほとんど申し分ない作り。それだけにバネ棒の穴が目立ってしまうのは惜しいところだ。

技術仕様
セイコー/グランドセイコー メカニカルハイビート36000

製造者: セイコーインスツル
Ref.: SBCH001
機能: 時、分、秒(センターセコンド、ストップセコンド仕様)、日付表示
ムーブメント: 自社製キャリバー9S85、両方向巻き上げ式自動巻き、3万6000振動/時、37石、偏心ネジ緩急システム、耐震軸受け(ダイアショック)、パワーリザーブ約55時間、直径28.4㎜、厚さ6.0㎜
ケース: SS製、内面無反射コーティング加工のドーム型サファイアクリスタル製風防、トランスパレント・スクリューバック(サファイアクリスタル使用)、10気圧防水
ブレスレットとバックル: SS製ブレスレットおよびフォールディングバックル
サイズ: 直径40.2㎜、厚さ13㎜、重量151g
   
価格: 57万7500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差  秒/日、振り角)

   平常時         
文字盤上 +2  
文字盤下 +2  
3時上 +1  
3時下 +3  
3時左 +1  
3時右 0  
最大姿勢差: 3  
平均日差: +1.5  
平均振り角:    
水平姿勢 290°  
垂直姿勢 273°  

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 11pt.
視認性(5pt.) 2pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 10pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 82pt.
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