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ゼニス / パイロット ビッグデイト スペシャル(1/1) 2012年09月号(No.42)

ZENITH PILOT BIG DATE SPECIAL

さじ加減ひとつで、マニアックにも小粋にもなるのがパイロットウォッチ。ゼニス定番のエル・プリメロに新たな工夫が加えられ、ナビゲーションウォッチの高揚感が満喫できそうだ。

アレクサンダー・クルプ: 文 Text by Alexander Krupp
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・美しく表面装飾が施されたマニュファクチュールムーブメントを搭載
・ディテールの組み合わせが工夫されている
・安定感のある精度
・仕上がりと価格のバランスがよい

point
・大型日付表示のよさが生かしきれていない
・ストップセコンド機能がない
・尾錠の作りが全体に見合っていない

上昇気流に乗って

20世紀初頭、パイロットウォッチは飛行においてなくてはならないナビゲーションツールだった。1909年7月25日、飛行士のパイオニアであったルイ・ブレリオは、自身の飛行機「ブレリオ11号」による約37分間の連続飛行の際、ゼニスのインナー回転ベゼル付き腕時計を腕に巻いて臨んでいる。その後ほどなくして、コクピットに組み込まれた計器が登場し、パイロットウォッチは次第に必要不可欠なものではなくなっていく。そんな中、ゼニスが製造していたのは、とりわけ高性能の計器だった。ゼニスは30年代から40年代には、温度変化に強く、磁気に対する防御力を備えたボードクロックで成功を収めている。

今日のパイロットウォッチとは、何よりもデザインの一ジャンルであることは間違いない。そして、もちろん趣味で操縦する飛行愛好家にとっては、緊急時に役立つツールであることにも変わりはない。職業パイロット仕様のクラシックなデザインのものにファンは多く、パイロットウォッチの吸引力は、いまだ衰えを見せていないのが現状だ。このほどゼニスから登場した「パイロット ビッグデイト スペシャル」は、歴史的なデザインを踏襲し、パイロットウォッチの各機能を強調しつつまとめ上げられている。照り返しのないつや消しの黒文字盤や夜光の表示など、ナビゲーションツールとしての典型的な要素を堂々たるサイズのサテンケースに包み、白いステッチ付きのカーフストラップが寄り添う。

注目すべきは、文字盤のデザインにおいて、古典的であることに縛られ過ぎていない点だ。このモデルには、クラシックスタイルのパイロットウォッチには見られない微細な目盛りが盛り込まれ、逆に12時位置からは、典型的なふたつのドット付き三角形が外されている。中でも長針・短針の形状が特徴的だ。先端の幅が、目盛りと目盛りの間に渡るほどの広さになっていることからも、全体のデザインに力点が置かれたことがうかがえる。

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自動巻きクロノグラフの草分け的存在であるエル・プリメロ。それだけに、ローターの仕上げはひときわ手が掛かっている。サファイアクリスタルはムーブメントと同寸のため、隅々まで眺めることが可能だ。

各機能を強調

このモデルは、トラディショナルなパイロットウォッチと正統派ナビゲーションツールとの緊密な結び付きから一歩引いたスタイルになってはいるが、同時に各機能が力強く語りかけるものになっている。基本の時・分表示、秒表示、積算計、テレメーター、そして、大型の日付表示のそれぞれが、個々にすっきりと主張している印象だ。このうちテレメーターは、現在地から遠隔地までの距離を測定するのに使用される。例えば、稲妻が走った時にすぐにクロノグラフを作動させ、雷鳴が聞こえた時に停止させると、クロノグラフ秒針が落雷地点までの距離を指し示してくれる。もっとも、この目盛りは文字盤の縁ぎりぎりに非常に小さく置かれていることもあり、機能としての重要性はごく低い。

それよりも、着けてみる前から興味をそそられるのは、特許取得のビッグデイトだ。通常は12時間積算計が置かれる6時位置に、日付の窓が据えられている。ふたつのディスクを接近させて設置することにより、狭いスペースを有効利用しているのだが、これは通常左側に置かれる10の位のディスクを右側に置いた設計に特徴がある。このディスクに四角い穴を設けて、下に重なる1の位のディスクの数字が見えるようになっているのだ(図版参照)。省スペースの巧妙な構造だが、2枚重ね式の従来の問題点は解消されてはいない。段差がつくために、角度によっては1の位に、はっきり影が差してしまうのだ。ちなみに、ゼニスの他のモデルの大型日付表示では、2枚のディスクを重ねず水平に並べた構造になっている。残念なのは、このパイロット ビッグデイト スペシャルの日付表示の数字が、窓の端にほとんど触れそうなほど四角いスペースいっぱいに描かれていて、黒い文字盤に吸い込まれているかのように見えてしまうことだ。加えて、今回のテストモデルでは1の位の数字の位置がまっすぐではなく、常に若干傾いていた。そして、時表示のフォントと日付表示のフォントが釣り合いよく見えないことも、愛好家にとってはマイナスポイントに映るかもしれない。

このモデルの最も重要な付加機能は言うまでもなくクロノグラフだ。搭載ムーブメントのベースであるエル・プリメロは、世界最初期の自動巻きクロノグラフとして、つとに知られた存在だが、このパイロット ビッグデイト スペシャルには12時間積算計が置かれていない。その代わり、このモデルには大型日付表示が搭載されている。3時位置に30分積算計があるのは変わらず、その視認性はパーフェクトだ。しかし、ストップウォッチ機能を使用する際の、秒の読み取りはこうはいかない。秒間の目盛りの幅が狭いため、さっと見て理解するのは厳しいだろう。もっとも、ハイビートの長老的ムーブメントのエル・プリメロが搭載された時計にとって、この微細な秒間の目盛りの表示こそが要だとも言える。テンプの振動は5Hz(10振動/秒)。現在、4Hz(8振動/秒)のムーブメントが主流だが、エル・プリメロは10分の1秒まで計測できる当代随一のクロノグラフムーブメントとして、量産され続けているのだ。

通常の時刻の読み取りについても、パーフェクトとまでは言えない。ルテニウムメッキが施された細身の針は、つや消しの黒文字盤の上で十分に浮き上がって見えるほどのメリハリが明らかに足りない。ところが、周囲が暗い場合は、がぜんくっきりとしてくる。サブダイアルは暗さに同化してしまうが、文字盤中心から伸びる3本の針とアワーインデックスの数字は、ひと晩中一定の明るさでグリーンに輝く。

すべての針の細やかなサテン仕上げ同様に、アワーインデックスのディテールにも注目したい。夜光塗料は高く盛り上がって置かれている。しかし、塗料は段差のあるサブダイアルの際ぎりぎりのところでぴたりと止まっていて、窪みには垂れ落ちていない。その境界の鮮やかさが文字盤の立体感をうまく表現している。さらに注視すると、ぱっと見には気付かないほど細かな溝が同心円状に幾重にも付けられたサブダイアルが、とりわけ丁寧な仕上がりであることも分かるだろう。

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特許取得の大型日付表示は他社と異なり、穴開きの10の位のディスクを右に、1の位のディスクを左に置いた逆の配置。これによって省スペースが実現された。

手作業の特徴が出たディテール

文字盤の素晴らしい出来には及ばないものの、力作なのがケースだ。ケース本体だけでなく、面取りされ、鏡面に磨かれたプッシュボタンや、つまんで引き出しやすいよう、ケースに接する側にわずかな角度が付けられたリュウズなど、全体の設計がしっかりしている。ケース本体はサテン仕上げになっているが、ラグ間の内側は鏡面仕上げである。コントラストがついてはいるが、この点は統一感がないと感じる向きもいるだろう。いずれにせよ、加工しづらい箇所だけに、鏡面仕上げのほうが幾分か作業しやすいのかもしれない。
それに対して、ラグのエッジに丸みを付けるのは簡単にはいかないはずだ。ラグの根元のエッジから先端にかけて角を落としていき、着用時の不快さがないように配慮されている。テストモデルでは、各箇所の仕上げの調子が若干均一さに欠けるように感じたが、それはやはり手作業ゆえだろうか。しかし、ラグジュアリーウォッチには、そういった些細なことも重要な意味を持つことを付け加えておきたい。

プッシュボタンの押し心地は軽やかだが、残念ながら、クロノグラフ計測スタート時に見逃せないほどの針飛びが起きることもあった。反対に、リセット時は完璧な動きを見せる。リセットボタンを押すと、きっちり正確に垂直状態に帰零するのは頼もしい。その上、30分積算計の針はずれることなく、インデックスをピシリと指してくれる。
ヘッド側面に大きく溝を付けられたリュウズは、前述のようにケース本体に接するところに角度が付けられている。ことさら爪を立てずに引き出せ、針合わせにも便利だ。エル・プリメロは、通常のムーブメントとは違ってリュウズを引き出した1段目で針合わせを行い、日付修正は一番外側で行うようになっている。これにはすぐに慣れるだろう。残念なのは、ストップセコンド仕様になっていないことだ。リュウズを引いても9時位置のスモールセコンドが止まらないため、秒単位で正確な時刻に針合わせをすることができない。

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これは、カーフストラップの代わりにステンレススティール製のミラネーゼブレスレットを装備したモデル。無骨な印象のカーフストラップモデルに比べ、すっきりしたイメージだ。

各種表面装飾でローターを象徴的に演出

さて、時計を裏返してみよう。裏蓋にはムーブメントと同じサイズのサファイアクリスタルが嵌められ、4カ所でビス留めされている。今回、協力を得たロイトリンゲンの時計宝飾店デッペリヒからは、この4個のビスもパッキンのOリングも、十分な防水性を発揮できるとお墨付きが与えられた。ビスで留め付ける箇所は、ラグにぴったり添うようにフライスされていて、これによって確実にケースと一体化させることができるのだ。

トランスパレントバックを通して見られるエル・プリメロの輪列は、メカファンを魅了するものだ。このモデルではキャリバー4010の名も持つエル・プリメロは、コラムホイールを採用した水平クラッチ式クロノグラフである。緩急調整は、確実に作動させられる偏心ネジ付きの長い緩急針で行う。ムーブメント全体に、さまざまな表面装飾がたっぷりと施されているのも見所だ。コート・ド・ジュネーブやペルラージュ、溝を黒く着色して際立たせたエングレービング、青いネジは、レバー、緩急針、香箱のヘアラインと相まって、目にも愉しい。その中でも、ローターは数種類の装飾の組み合わせになっている。自動巻きのクロノグラフという、このムーブメントの原点とも言える特徴を象徴するローターに自ずとスポットライトが当たるようにしているところにも、ゼニスの力の入れようが伝わって来る。惜しむらくは、全パーツのエッジを面取りし、鏡面に磨き上げる加工にしていないところか。

しかし、外観よりも目を引かれたのは精度であった。歩度測定機にかけたところ、日差は平均してわずか3・2秒の進みを見せた。最大姿勢差も4秒と極めて少ない。その安定性は着用テストでも期待を裏切らず、日差+3・5秒という結果となった。クロノグラフ作動時も平常時とほぼ同じようなデータが出ている。また、振り角落ちもわずかな範囲に留まった。これは設計からして必ずしも当たり前というわけではなく、各パーツが十分に機能を果たせるだけの高水準の加工が施されていることにほかならない。

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手縫いのカーフストラップに比べて、打ち抜きのバックルはやや釣り合わない印象。だが、フラットに抑えた形状で、装着感はよい。

要改良点はあれど個性が凌駕

さて、腕時計を評価するならば、やはり時計本体だけではなく、全体像と各ディテールを見てこそだ。このモデルで目立つのは、パイロットウォッチ華やかなりし往時の雰囲気が醸し出されるストラップである。白いステッチが入った焦げ茶のカーフストラップは、あたかも長年使い込まれたような風合いだ。手縫いでステッチが入れてあり、汗ばむ肌に接する裏面はラバー仕上げになっているので、ストラップの持ちはカーフのみのものとは明らかに違うだろう。表面は非常になめらか。厚みはあるが、頑丈なバネ棒でケースにしっかりと取り付けられている。
だが、裁ち切られた縁の側面は、ラッカーの塗りが浅いのが気になるところだ。テストモデルでは、テスト開始の数日後にはラッカーが剥がれ落ち出した。これに関しては、かなり以前のゼニスにも見受けられたため、同社の弱点であるように思われる。

一方、満点とは言えないものの手間の掛かったストラップの仕上がりに比べて、尾錠のバックルが平易なのは否めない。この部分については工程を簡略化したのは目に明らかだ。ツク棒についても大差はない。本来、パイロットウォッチには反射が御法度というセオリーから言えば、ここはやはりサテン仕上げかサンドブラスト仕上げなどの、全面つや消しが似合うのだが。
このように、細かな点では完璧とまでは言えないものの、着け心地は上々である。ストラップはがっしりしていても、しなやかな肌当たりで、尾錠もフラットに抑えられ、収まりがいい。
総括すると、パイロット ビッグデイト スペシャルはお薦めの一品である。細かい弱点やら、ぜひとも改善してほしいところはややあれど、わくわくさせるディテールが満載なのを目の当たりにするとたまらない。加えて、このコストパフォーマンス。マニュファクチュールムーブメント搭載のクロノグラフで、大型日付表示のある他ブランドのモデルの価格と比べると、気分まで軽やかに上昇しそうだ。

技術仕様
ゼニス/パイロット ビッグデイト スペシャル

製造者: ゼニス
Ref.: 03.2410.4010/21.C722
機能: 時、分、日付表示
ムーブメント: キャリバー エル・プリメロ4010、自動巻き、3万6000振動/時、31石、耐震軸受け(キフ使用)、調整用偏心ネジ付き緩急針、グリュシデュール製テンワ、パワーリザーブ約50時間、直径30mm、厚さ7.65mm
ケース: SS製、ボックス型サファイアクリスタル風防(両面無反射コーティング)、ねじ込み式トランスパレントバック(サファイアクリスタル使用、裏蓋は4カ所をビス留め)、5気圧防水
ストラップとバックル: カーフストラップ(手縫い)、SS製尾錠
サイズ: 直径42mm、厚さ13.8mm、重量91g
価格: 61万9500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時     /    クロノグラフ作動時
文字盤上 +5 +5
文字盤下 +2 +2
3時上 +2 +1
3時下 +4 +6
3時左 +5 +3
3時右 +1 +3
最大姿勢差: 4 5
平均日差: +3.2 +2.3
平均振り角:
水平姿勢 283° 269°
垂直姿勢 264° 245°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 7pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 11pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 9pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 80pt.

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