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オーデマ ピゲ/ロイヤル オーク 復刻モデル(1/1) 2012年09月号(No.42)

AUDEMARS PIGUET ROYAL OAK EXTRA-THIN

40年前に誕生したオーデマ ピゲ不朽のアイコン「ロイヤル オーク」。その最新モデルには、オリジナルモデルへのオマージュが込められている。外観の美しさは果たして、ムーブメント部品の裏側にまで継承されているのだろうか?

イェンス・コッホ:文 TText by Jens Koch
ニック・シェルツェル、マルクス・クリューガー:写真 Photographs by Nik Schölzel, Marcus Krüger
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto


point
・素晴らしいデザイン
・卓越した加工品質
・精巧なムーブメント

point
・精度がやや期待外れ
・高額

アイコンの全貌に迫る

計の世界で“偉大なデザイン”を見つけるのは、それほど簡単なことではない。“偉大なデザイン”とは、瞬時にそれと見分けることのできるモデルを言う。1970年代初頭にデザイナー、ジェラルド・ジェンタがオーデマ ピゲのためにデザインしたロイヤル オークも、こうしたモデルのひとつである。ロイヤル オークは、スポーティーなスティール製ラグジュアリーウォッチという、今日もなお続くひとつのトレンドを生み出した。当時、ロイヤル オークに与えられたキャッチフレーズは、“鋼へのオマージュ”であった。

この時計と同じ価格を支払えば、ゴールド製ドレスウォッチを手に入れることができたほどの高額な価格設定にもかかわらず、あるいは、まさにそのためかもしれないが、ロイヤル オークはオーデマ ピゲという名門メゾンにとって最も重要なラインへと成長し、年月とともに数多くの派生モデルが誕生、堅固なスポーツライン「ロイヤル オーク オフショア」まで登場している。今年、ロイヤル オークは誕生から40周年を迎え、ディテールにさらなる改良が加えられた。最新作「ロイヤル オーク 復刻モデル」は、初代ロイヤル オークの伝統をしっかりと受け継いだモデルであり、ケースサイズも39mmと、オリジナルモデルを踏襲している。39mmという直径は、72年当時、初代ロイヤル オークが“ジャンボ”の愛称で呼ばれたほど、他を圧倒するサイズだったが、今日では過不足のない、程よいサイズと言えよう。

初代モデルでは白かった日付ディスクは、復刻モデルではダイアルカラーと同色になっている。また、オーデマ ピゲのブランドロゴにも、当時は別の字体が使用されていた。だが、これらの点を除けば、復刻モデルとオリジナルモデルは瓜ふたつである。“AP”のブランドロゴは、他のロイヤル オークで見られるように、12時位置に置かれてインデックスとして機能するのではなく、復刻モデルではオリジナルモデルと同様に、文字盤6時位置のバーインデックスの上に配されている。また、ロイヤル オークの他の現行モデルではインデックスと針の形状がより複雑で、エッジが斜めにカットされているが、復刻モデルでは先端に丸みを持たせることで、オリジナルモデルのディテールが再現されている。文字盤の表面も、“プチタペストリー”と呼ばれるモチーフで装飾され、より洗練された仕上がりになっている。このモチーフも、古い機械を使用し、ローレリーフ(訳注:浅浮き彫り)と呼ばれる技術によって再現された。この作業では、文字盤に複数の模様を重なり合うように付けていく。真鍮製の文字盤にこの模様を施す作業だけでも、機械を使用して1時間もかかるそうだ。

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ローレリーフ(訳注:浅浮き彫り)と呼ばれる技術を駆使した文字盤の複雑なモチーフ“プチタペストリー”は、ルーペで見て初めて真の姿を明かす。これぞ微の極みだ。

巧緻を極めた作り

いずれにしても、ロイヤル オークでは数多くの要素が極めて精巧に加工されている。ケースも例外ではなく、サテン仕上げの面と、面取りをしてポリッシュで仕上げた部分の変化が美しい。その上、さまざまな幾何学模様の組み合わせも目を楽しませてくれる。八角形のベゼルには、初代ロイヤル オークから受け継がれているホワイトゴールド製の六角形ビスが配され、ケースとブレスレットの移行部は、横から見ると45度の角度を形成している。ブレスレットはケースとの一体感が完璧だ。復刻モデルでは、ケースとブレスレットの厚さがまったく同じになるように、ケースへの移行部の設計に工夫が凝らされている。

労を惜しまないものづくりの姿勢は、バックルに向かって徐々に細くなるブレスレットにも見て取ることができる。ブレスレットのコマにはひとつとして同じものがなく、さらに、中ゴマもそれぞれのコマに合わせてサイズが異なっている。これらのパーツを製造するには、当然のことながら、相応数の金型を用意しなければならない。ブレスレットの部品はネジで固定されていないことから、動きが非常に滑らかで、なおかつ遊びは極端に小さい。ブレスレットがどのように組み立てられるのかは、一見すると謎である。オーデマ ピゲの写真を見て初めて、中ゴマを留めるためのバネ棒の存在が明らかになる。バネ棒は薄い工具で押し縮められ、コマに接合される。その後、中ゴマが挿入され、バネ棒が正しい位置で保持される。

フォールディングバックルは、内側のパーツが以前は薄いプレートで出来ていたが、新作では削り出し加工されており、仕様もトリプルブレードフォールディングバックルになった。ふたつのセーフティーボタンは、横から見るとブレスレットのコマと同じフォルムを持ち、エッジはきちんと面取りされ、ポリッシュがかけられている。左右対称の美しいバックルは、フライス加工された“AP”のロゴで飾られている。コマとコマが隙間なく設計されたブレスレットと同様に、薄く、裏面の滑らかなバックルも快適な装着感に大きく貢献している。

復刻モデルでありがたいのは、ケースがモノコック構造であるにもかかわらず、オリジナルモデルとは異なり、ケースバックがトランスパレントになっている点である。トランスパレントバックを通して観察できる自動巻きキャリバー2121は、オリジナルモデルに搭載されていたものと同機種である。キャリバー2121は、センターローター搭載ムーブメントの中で最も薄い自動巻きムーブメントに数えられており、今日もさることながら、当時からロイヤル オークの極めて薄い仕上がりに寄与していた。

キャリバー2121は、もとはと言えばジャガー・ルクルトがオーデマ ピゲや他のブランドのために開発したムーブメントである。今日もなお、ヴァシュロン・コンスタンタンがこのムーブメントをキャリバー1120(デイト表示なし)として搭載している。また、パテック フィリップも、ロイヤル オークへのリベンジとして、76年のノーチラスでキャリバー28-255C(デイト表示付き)として採用したのは興味深い。だが、このムーブメントを今も製作し続けているのは、唯一、オーデマ ピゲだけである。
我々は、ケースの構造とムーブメントをより詳細に観察するため、ハンブルクの時計宝飾店、ヴェンペの時計修理工房で、この時計を分解することにした。

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トランスパレントバックからは、美しく装飾されたキャリバー2121を見ることができる。まさに芸術品である。

興味深い構造

ケースの構造は極めて興味深い。ケースバックのネジは、ベゼルの六角形ビスまで届くスリーブチューブにねじ込まれている。ケースバックのネジを緩めると、六角形ビス、風防、パッキン、薄いメタルリングもろとも、順次、ベゼルまで取り外すことができる。その後、分割構造の巻き真とともにリュウズを引き出せば、ムーブメントを文字盤や針とともに文字盤側に取り出すことができる。取り外してみて感心するのは、外側からも見えるパッキンがかなり大きく、六角形ビスがスリーブチューブで完全に覆われていることである。そのため、たとえベゼルのビスの上から水が入り込んだとしても、ムーブメントまでは決して浸入しない。構造的には、かなりの部分でオリジナルモデルを踏襲している様子がうかがえる。

復刻モデルでは、トランスパレントバックを通してムーブメントのローター側から美しい装飾を観賞することができる。スケルトナイズされたサテン仕上げのピンクゴールド製ローターには、ポリッシュ仕上げの“AP"のブランドロゴが配されており、外周の錘部分には文字盤と同じ“プチタペストリー"のモチーフが再現されている。ブリッジはコート・ド・ジュネーブで飾られ、ネジや受け石のエッジや溝は面取りしてポリッシュがかけられており、ネジ頭にはポリッシュ仕上げが、歯車にはサークラージュ仕上げが施されている。ケースがステンレススティール製であるにもかかわらず、オーデマ ピゲにおけるムーブメント装飾のレベルの高さは、パテック フィリップのような名門ブランドに勝るとも劣らず、栄誉を受けるに値する。
針を専用ツールで取り外し、ネジで固定された文字盤の“足"を地板から緩めれば、文字盤も取り外すことができる。

ムーブメントを文字盤側から眺めると、ペルラージュ模様やサテン仕上げのスティールパーツ、ポリッシュ仕上げのネジ頭、そして、放射状に曲線を描く香箱のサンレイ(ソレイヤージュ)仕上げなどの数々が、人目に触れない部分にまでこだわった意匠への意気込みを物語っている。だが、日付切り換え機構のためのレバーのいくつかが、薄いシートメタルから打ち抜き加工されており、一部ではあるものの、小さな引っかき傷が認められた。そのため、これらのレバーが精緻さに今ひとつ欠けるのは残念である。日付ディスクはルビーで出来た4個の石の上に乗っている。香箱は片側だけで支持されるフライングタイプで、これは、薄いムーブメントを実現するために払わなければならなかった小さな犠牲である。

だが、わずか3・05mmという薄さを実現するために設計師たちが編み出さなければならなかったトリックは、これだけではない。まず、ローターの支持にはボールベアリングではなく、スライドベアリングが採用され、ローターはブリッジと接触することがないよう、リング状のレールにネジで固定されている。このレールはムーブメントをぐるりと囲む形になっており、4個の小さなルビーベアリングの上を滑るように設計されている。ルビーベアリングはそれぞれ、専用のブリッジで支持されており、レールがその上を滑ると独特なノイズを発するが、ノイズ自体はそれほど大きいものではない。

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目に飛び込んでくる美しさ。ムーブメントのすべての部品は裏面まで手を抜かずに装飾されている。ルーペで見ても、鮮やかさを失わない。ムーブメントは文字盤側の見えないところに至るまで、きちんと装飾されている。オーデマ ピゲはムーブメント装飾において、最高のレベルを発揮する。

秘められた装飾

ムーブメントの部品は基本的にすべて、裏面まで装飾されている。ローターも例外ではなく、裏側にもペルラージュ模様が施されている。また、テン真だけでなく、ガンギ車の軸にも両側に耐震軸受け(キフ)が装備されている点にも注目だ。
微調整は、テンワに取り付けられた6個のバランスウェイトで行われる。そのため、ヒゲゼンマイは自由に抵抗も少なく振動することができる。テンプの振動数は、1時間に1万9800振動という珍しい設定だ。

ローターの下には、自動巻き機構とガンギ車のためのブリッジが取り付けられており、ローターの伝え車には、セラミックス製のボールベアリングが装備されている。ローターの巻き上げ方向の切り換えは、2個の歯車を備えたスイッチングロッカーで行われ、回転方向に応じて、いずれかの歯車が噛み合うようになっている。
見た限りでは、このムーブメントは極めてクリーンに組み立てられており、軸受け部にも十分注油されている。ただ、日付が午前零時の1分半前には切り換わってしまうのが残念だ。ここは、もう少し厳密に調整してほしかったところである。

これは、微調整にも当てはまる。精度の調整はやや甘く、とりわけ、最大姿勢差にかなりの開きが観察された。ムーブメントの厚さを抑えた構造が理由となっている部分もあるとは言え、すべての責任をそこに転嫁することはできないだろう。このモデルには秒針が装備されていないので、ストップセコンド機能がないことはそれほど大きな問題ではない。だが、日付早送り機能が装備されていないのは、極めて遺憾である。日付を合わせるのに、時針を20時30分と零時30分の間で、何度も前後に動かさなければならないのだ。そのため、例えば日付を20日分、進めたい場合などには、かなりイライラさせられる。リュウズが六角形という変わったフォルムであるにもかかわらず、快適に操作できるだけに、日付合わせの手間は以前も批判の対象となっていた。

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もはやブレスレットは、芸術性豊かに細部まで作り込まれたマスターピースと言っても過言ではない。

高額な価格設定

もうひとつ、当時と変わらないことがある。スティールウォッチにしては、価格が並外れて高いことである。今日でも、183万7500円を支払えば、自社製ムーブメントを搭載したゴールド製のドレスウォッチを手に入れることができる。だが、ステンレススティールは機能的で、ゴールドのように容易に傷が付いたりしないので、むしろゴールドよりも優れた素材と見なされることもある。また、今日であっても、ディテールに富み、加工品質の完璧なスティールウォッチの魅力から逃れるのは難しいことだ。もちろん、デザインが秀逸で作り込みが精巧であることが必須条件となるのは言うまでもない。

洗練されたゴールドウォッチなら、他の選択肢を恐れる必要はない。だが、ロイヤル オーク 復刻モデルの場合はどうだろうか。キャリバー2121よりも新しい自社製自動巻きキャリバー3120を搭載したロイヤル オークの別モデルのほうを選ぶべきかどうか、逡巡する愛好家もいることだろう。この「ロイヤル オーク オートマティック」(Ref.15400ST)は、何といっても復刻モデルより47万2500円も安く、秒針を搭載している。また、厚さが9・8mmあるとはいえ、まだまだ薄いほうだ。2012年にマイナーチェンジされたばかりのこのロイヤル オーク オートマティックの先代モデル(Ref.15300ST)も、今ならまだ手に入るのではないだろうか。新作は直径41mmと、サイズアップされているが、この先代モデルは直径39mmで、今回のテストウォッチと同じサイズである。針とインデックスだけは、先代モデルよりも新作の方がややモダンな仕上がりとなっている。

こうして見ると、復刻モデルでは薄いムーブメントがゆえにかなりの追加プライスが生じていることになる。だが、初代モデルのオリジナルデザインが抗しがたい独自の魅力を備えていることは確かである。この魅力に圧倒され、かつこの金額を工面することができる愛好家にとっては、まさに夢の時計と言えるだろう。

技術仕様
オーデマ ピゲ/ロイヤル オーク 復刻モデル

製造者: オーデマ ピゲ
Ref.: 15202ST.OO.1240ST.01
機能: 時、分、日付表示
ムーブメント: キャリバー2121、自動巻き、1万9800振動/時、36石、耐震軸受け(キフ使用)、グリュシデュール製テンワ、バランスウェイト付きフリースプラングテンプ、パワーリザーブ約40時間、直径28.4mm、厚さ3.05 mm
ケース: SS製、サファイアクリスタル風防、モノコックケース、トランスパレントケースバック(サファイアクリスタル使用)、50m防水
ストラップとバックル: SS製ブレスレット、セーフティーボタン付きSS製トリプルブレードフォールディングバックル
サイズ: 直径39mm、厚さ8.1mm、総重量111g
バリエーション:
価格: 183万7500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時    
文字盤上 +7
文字盤下 +7
3時上 -13
3時下 +3
3時左 +2
3時右 -13
最大姿勢差: 20
平均日差: -1.2
平均振り角:
水平姿勢 315°
垂直姿勢 280°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 10pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 10pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 17pt.
精度安定性(10pt.) 4pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 11pt.
合計 85pt.

>>オーデマ ピゲのモデル一覧はこちら

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