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パネライ / ルミノール 1950 スリーデイズ-47MM(1/1) 2012年07月号(No.41)

PANERAI LUMINOR 1950 3 DAYS 47MM

新型の自社開発手巻きキャリバーP.3000を搭載し、歴史的モデルの風貌を細部まで生かしたPAM00372。そこには人間が培ってきた経験と知恵が、箴言のごとく表れている。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
マルクス・クリューガー:写真 Photographs by Marcus Krüger
市川章子:翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・巧妙なデザイン
・最高の視認性
・ロングパワーリザーブの自社開発キャリバーを搭載

point
・プレキシガラス風防に傷が付きやすい
・精度がやや引き締まりに欠ける

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ケースサイドに入れられた一筋の“エッジ"はこの“ルミノール 1950"ケース最大の特徴。オリジナルモデルを解析し、プロトタイプを何度も修正して再現された精密な形状を持つ。エッジとエッジをケースの角でぴたり と交わらせ、研磨の際にもそれを崩さないのが難しかった点だという。歴史的な意匠を現代の加工技術で再現した造形美のひとつの到達点。また、ケースサイド の6時側にはケースナンバーが刻印される。

簡素は美なり

国に旅に出たり、歴史的なものを見聞きしたりする機会があると、物事の簡素さについて感じ入ることが時折ある。少ない要素で事足らせ、幸福たらしめるというのは一種の才能ではないだろうか。そうした事柄に触れると、日々の細々した悩み事など、よく考えればたいした問題ではないとさえ思える。往々にして、シンプルなものには純然たる美が存在する。それは、例えば木製の櫂や陶器の碗、古い蛇口などからも感じ取ることがで
きる。
パネライもよりシンプルなスタイルへと回帰しはじめた。2011年に登場したPAM00372は、手巻きで日付表示も秒針もない。50年以上前に作られた歴史的なモデルのリバイバルで、簡素であるがゆえの美しさが力みなく伝わってくる。このモデルには、オリジナルのシンプルさと細部にかける愛情が、丁寧に丁寧に再現されているのだ。

ここでパネライの歴史を少し振り返ってみよう。それは19世紀中期、ジョヴァンニ・パネライとイタリア海軍特殊潜水部隊との関係から始まった。1849年、ジェノバに海軍潜水学校が創立され、その11年後にジョヴァンニ・パネライはフィレンツェに時計店を開店する。20世紀に入り、店はめきめきと評判を上げ、第一次世界大戦中にはイタリア海軍にさまざまな機器を納品している。
そして1938年、特殊潜水部隊への時計の納品が始まった。この時の時計はロレックス製ではあったが、文字盤はパネライが自身で開発したラジウム臭素化合物をもとにした夜光塗料付きの高い視認性を確保するものが取り付けられていた。

直径47mmのクッションケースの形は、今日のラジオミールの原型になっている。3時、6時、9時、12時に夜光の数字を置いた現在のパネライに典型的な文字盤(秒針なし)スタイルも、この時期にすでに確立されていたものだ。そして、時は進んで50年代初頭、ロレックスはパネライに優れた防水性の頑強なケースを納品する。ラグはハンダ付けではなくケースと一体化した作りとなった。さらに、55年からパネライはケースを修正。かの有名なリュウズガードが登場し、防水性も向上した。文字盤も変更され、夜光塗料は放射性物質のより少ないトリチウムを使用したものになった。文字盤を重ねたサンドイッチ構造が採り入れられたのもこの頃だ。夜光塗料を塗った文字盤の上に、アラビア数字とバーインデックスをくり抜いた文字盤を重ねる方式になった。

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独特のカーブを描き、大きく分割されたブリッジ。新型キャリバーP.3000の堅牢さが表れている。フリースプラングの新型自社開発キャリバーは3日巻きのパワーリザーブを備え、優れた構造を持つ。堅牢な印象で、ブリッジの形状もこの時計によく合っている。

ディテールを細やかに再現

なんといってもこのモデルの見どころは、ディテールの再現ぶりだ。文字盤ひとつとっても見甲斐がある。アルファベットはプリントではなく彫り込み。針はオリジナルでは真鍮製だったが、色目を合わせつつ金メッキ仕上げになっている。かつてのパネライは、ケースナンバーを裏蓋ではなくケースサイド6時側のラグの間に刻印していた。Ref.6152でもそうなっていたが、このモデルでもそれを踏襲している。また、ケースサイド12時側のラグの間にはリファレンスナンバーが刻印されている。夜光塗料の色は、パネライのいくつかの歴史的モデルに見られるベージュ色。ほとんど他ブランドでは見られない色合だが、基になった往時のモデルよりかなりダークな色調になっている。リバイバルという目的からはいささかやり過ぎた感は否めないが、新品でもヴィンテージのように見えるのは、この場合はうれしいとこ
ろだ。

表示を時、分のみに絞ったのもオリジナル通り。当時はロレックスの手巻きキャリバー618を使用していたが、今作では新開発の手巻きキャリバーP.3000を搭載。ムーブメントサイズは16 1/2リーニュ(37・2mm)と、ほぼオリジナルに近く、自社開発ムーブメントとしては10番目に当たる。パネライは最初の自社開発ムーブメントを発表したのが2005年だったにもかかわらず、その数はすでに10種類に達しているのだ。現在、キャリバーP.3000はヌーシャテルのファクトリーで組み立てられている。今年のS.I.H.H.ではスモールセコンドとパワーリザーブ表示の付いたキャリバーP.3001(裏側にパワーリザーブ表示付き)とキャリバーP.3002(文字盤にパワーリザーブ表示付き)が早くも登場した。さらに、2針に日付表示が備えられたバージョン(キャリバーナンバーはP.3000のまま)も加わった。

このムーブメントの厚さは5・3mm、フリースプラングを採用し、緩急調整は調整ネジで行う。テンワの直径は13・2mm、がっしりとした両持ちのテンプ受けの下では2万1600振動/時で脈打っている。テンプ受け以外のブリッジは大きく、輪列はわずかしか見えないが、とても魅力的だ。ロイトリンゲンの時計宝飾店デッペリヒでアトリエチーフを務めるマイスター時計師マルティン・トームは、この大きなブリッジの分割について以下の点を評価している。まず、これだけ大きなムーブメントの輪列に十分な安定性を持たせている点、そして、各ブリッジは、その下で駆動する機能のエリアごとに分けられている点。ブリッジのひとつが輪列を押さえ、もうひとつはふたつの香箱を押さえている。コハゼを制御するバネの張力を調整する際も、作業しやすい箇所にひとつ穴が開けられ、難なく行うことができる。これらを構成するパーツは合計160個、うち21個はルビーである。

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パネライの代名詞的存在のリュウズガードにはサテン仕上げ、ケースには鏡面仕上げが細やかに施される。盛り上がったプレキシガラスがヴィンテージ感を一層高めている。

時計全体と調和した
ムーブメントの仕上げ

弓のようなカーブを描いたブリッジのフォルムもモダン過ぎず、このモデルに似つかわしい。ムーブメント全体の仕上がりが、時計全体のキャラクターに合っているのだ。最も目を引くのは、3つのブリッジのサテンが同じ方向に揃えられている点だ。ネジの頭やルビーが収まる穴の縁も、エッジは面取りされていて、加工の細やかさを感じる。キズ見を使って観察すると、面取りされた箇所は鏡面に磨かれているのではなく、非常に正確にフライスで切削されていることが分かるだろう。機能面にも目を向けると、ストップセコンド仕様になっていないが、2針なのでさしたる問題にはならない。

さて、性能面はどうだろうか。歩度測定機にかけた結果、さまざまな傾向が見られた。全姿勢の平均日差はプラス2・5秒と、良い数値が出ている。もっとも各姿勢を見ると、プラス8秒からマイナス5秒まで開きが出て、最大姿勢差は13秒という結果になった。しかし、振り角に関しては、垂直姿勢で236度だったので、まずまずといったところか。
次に操作性をチェックすると、ストップセコンド仕様にはなっていないものの、オリジナルと比較すると、ちょっとした改良点がある。リュウズを1段引きすると、時針のみを単独で合わせられる機構になっているのだ。分針を1周させることなく素早く針合わせできるため、時刻をセカンドタイムゾーンやサマータイムに設定する時なども重宝する。

3日間に及ぶパワーリザーブも評価すべきポイントだ。かつてのロレックス製ムーブメントではパワーリザーブは約36時間。後にアンジェリュス製ムーブメントでは8日巻きになっていたものの、初代に比べて雰囲気を踏襲しつつも技術改良が行われたのは喜ばしい。
ムーブメントの造形からも当時の雰囲気が伝わってくる。キャリバーP.3000のブリッジは、アンジェリュス製ムーブメント同様、3分割されている。生産性を考えれば1枚で済むはずだが、美観を重視して、パネライはあえてブリッジを分けた。厳密に言うと同じではない。しかし、ブリッジに与えられた曲線を描く造形などは、昔のアンジェリュスをよく模している。
加えて、オリジナルとは異なり、このモデルの裏蓋はトランスパレント仕様となった。しかも、ディテールに凝るパネライらしく、サファイアクリスタルを取り巻くリングのエングレービングはかつてと同様、“OFFICINE PANERAI BREVETTATO"と刻印されている。その刻印の末尾を飾るのは登録商標である。

ところで、今年2012年は、“ルミノール 1950”ケースを持つPAM00422もアンジェリュス製ムーブメントへのオマージュとして発表された。もっとも、こちらは今回のテストウォッチほどは昔日の薫りを漂わせてはいない。というのも、かつてのものはスモールセコンドが9時の右脇に置かれていたのだが、新作では9時位置に据えられているからだ。
尾錠も歴史的デザインに則りつつ進化している。昔のモデルでは、現在のように尾錠がカーブを描かず、ストレートな形状であった。当時のユーザーの多くは、自分自身で尾錠を曲げてフィット感をよくし、手首回りに余分な遊びがないようにしていたものだった。今作ではあらかじめ尾錠にカーブを持たせ、デザインを崩さずに着用性を向上させている。同様に、幅広にフライスされたツク棒は、かつてと同じくサテンで仕上げられているが、ストラップ穴に通す時にストラップへのダメージが少ないよう、若干のカーブが加えられた。また、ケースも尾錠と同じようにフライスに手間を掛け、最高の仕上がり具合を愉しむことができる。

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PAM00372の尾錠。オリジナル発表当時の雰囲気を尊重しつつ、緩くカーブが付けられた尾錠と、同じく曲げられたツク棒によって着脱がしやすく、厚みのあるストラップでも着用の際に折れ曲がって傷付かないように配慮されている。

快適な着け心地

この時計は実際に着けてみると、驚くほど快適だ。この手のサイズの外見からは、ちょっと想像できないほど心地よい。これは何よりもぐいっと下向きになっているラグの形状によるところが大きい。ストラップを取り付けるのはバネ棒ではなくビス留め式。パイプのようなしっかりした棒が、幅広のストラップを保持し、頑丈さが安心感を添える。

赤みがかった茶色のストラップと明るい色のステッチのコントラストも、ヴィンテージ感を醸し出している。縁は裁ち切りでラッカー塗装はなく、厚みも堂々たるものだ。見るからに硬い印象だが、着けてみると快適なのが興味深い。ちなみに、収縮させてなめした、やや明るめのストラップも用意されているが、こちらのほうが格段にしなやかさがある。PAM00372にはストラップ付け外し用のドライバーが備えられている。これがあれば自分でストラップの付け替えができるというわけだ。最初に付けられているストラップも上質のものではあるが、この時計の魅力をより一層満喫するために、ストラップに選択肢が用意されているのはありがたい。

パネライは先頃、価格の見直しを行い、PAM00372は現在、88万2000円。一見すると、日付表示と秒表示のない手巻きでプレキシガラス風防の時計としては、結構な金額と思われるかもしれない。それでもすべてのパーツが高いクォリティで作り出され、整然と組み立てられた自社開発ムーブメントを見ると、見合った金額と言えるだろう。
このPAM00372は歴史的モデルにかなり近い、パネライに今までなかったタイプであるということも大きな魅力だ。そして、日付もスモールセコンドも排除した簡潔さにもかかわらず、完璧なまでの調和を見せる。やはり歴史は、“簡素は美なり”と教えてくれているのだ。

技術仕様
パネライ/ルミノール 1950 スリーデイズ-47MM

製造者: オフィチーネ パネライ
Ref.: PAM00372
機能: 時(単独調整可能)、分
ムーブメント: キャリバーP.3000、手巻き、2万1600振動/時、21石、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、パワーリザーブ約72時間、直径37.2mm、厚さ5.3mm
ケース: SS製、無反射加工ドーム型プレキシガラス風防、リュウズガード、ねじ込み式トランスパレントバック(サファイアクリスタル使用)、10気圧防水
ストラップとバックル: ブラウンのレンジャーカーフ(標準装備)とヴィンテージゴールドカーフ(交換用)の2種類、SS製バックル
サイズ: 直径47mm、厚さ16.5mm、重量144g
バリエーション:
価格: 88万2000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時    
文字盤上 +7
文字盤下 +3
3時上 +5
3時下 -3
3時左 -5
3時右 +8
最大姿勢差: 13
平均日差: +2.5
平均振り角:
水平姿勢 264°
垂直姿勢 236°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 6pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 83pt.

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