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ジラール・ペルゴ / ヴィンテージ 1945 XXL(1/1) 2012年05月号(No.40)

GIRARD-PERREGAUX VINTAGE 1945 XXL

四角い文字盤、円形のスモールセコンド、三角形のラグ。2次元を象徴する幾何学的図形が、立体感豊かな3次元ケースによって調和する。異なる要素の融合に、老舗ならではの個性が発揮されている。

アレクサンダー・クルプ: 文 Text by Alexander Krupp
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

point
・マニュファクチュールならではのハイレベルな仕上がり
・文字盤とケースのデザインが小粋
・驚くほど快適な装着感

point
・分の読み取りに慎重さを要する
・精度の安定感が今ひとつ

次元を行き来する快楽

計の美しさとは何が決まりごとなのか、時々これぞと定義し難くなる。必須なのは各エレメントが配置よく収まった整いのよい文字盤か、肝心なのは吟味された色の組み合わせか、いや、それよりトータルバランスのよさこそが主体か? などなど、考えは尽きない。
それでいくと、ヴィンテージ 1945 XXLに関して言えば、色遣いの妙味というのは当てはまらないだろう。ステンレススティールらしく引き締まった色調の銀色の文字盤の上にあるのは、スモールセコンド針のブルーと、そのサークル内にある数字の“60"の赤のみ。ぱっと見ると、そのふたつの差し色以外は、2010年のS.I.H.H.での発表作とさして変わらないと思ってしまうほどだ。だが、2011年の新作は、実は異なる要素のコンビネーションが見どころなのだ。基本デザインの角形ケースの流れを汲んだ四角い文字盤、ケースの延長上に続くラグはほぼ三角形、そして、円形のスモールセコンドが形成しているのは対極という美の姿だ。そして、角で構成された中、スモールセコンドの丸い形のみが自然と強調されるというだけではない。文字盤との段差が均一ではないところにもすぐに目が行く。円の下側はかなり浅くなっているが、上に行くほど傾斜がつけられ、深さがあるのだ。

このように手の込んだ作りは随所にあり、サイドから見た時にはさらに特色が分かるだろう。ケースと文字盤、風防は大きくカーブし、縦方向のみならず横方向も曲面を描いて、中心が盛り上がっているのだ。スモールセコンドとともに、フラットではない手法がバランスよく展開されている。2次元を代表する四角形、三角形、円形の競演が、奇をてらわず、ピュアな美観を形成する一方で、極度に湾曲し、膨らんだケースは3次元そのもの。実用性を意図しているのは明らかだ。それでこそ、このモデルは意義があると言えるだろう。というのも、縦36mm(ラグは含まず)、横35mmというサイズは、フラットケースではとても着けられたものではないはずだ。四角い箱状ならば、たいていの腕上にはいかにも荷物のごとく載っているような感じになりがちで、スルッとシャツの袖口にすんなりと滑り込まずに煩わしい。

実際、ヴィンテージ 1945 XXLは腕が細かろうが太かろうが、素晴らしい着け心地だ。しかし、それが曲面構成のケースのせいではないのには驚かされる。快適な装着感は、ケースの縦方向の勾配よりも、ケースからスウッと続くラグの形が担っているのだ。これがストラップとケースの間に余分な遊びを作らず一体感を取り持ち、最大限のフィット感を実現している。

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ムーブメントにサイズをぴったり合わせた窓を設けたトランスパレントバック。ムーブメントの細やかな仕上げと躍動感を隅々まで堪能できる。

足跡にアイデアあり

優れた装着感と締まりのある外観に加え、この曲面構成のケースには、さらに見逃せない点がある。それは完全にオリジナリティ溢れるデザインだということだ。角形ケースというと、まずジャガー・ルクルトのレベルソや、タグ・ホイヤーのモナコを思い浮かべる向きも多いだろう。しかし、ケースサイドを見ると、どちらもジラール・ペルゴのヴィンテージ 1945 XXLのような有機的なスウィングはない。

歴史をひもとくと、このモデルのルーツは、ジャガー・ルクルトとタグ・ホイヤーのベストセラーの間に誕生している。レベルソの初出は1931年、モナコの発表が1969年、そしてヴィンテージ 1945のベースモデルは1945年に登場した。もちろん、当時は今回テストで取り上げたXXLよりも小さなサイズで作られ、ディテールにもいくつか異なっているところがあるが、異なる図形の取り合わせとカーブをつけた膨らみのあるケースというコンセプトは、この時にまとめ上げられている。

ベースモデルと比較してXXLをよりエレガントに感じさせるのは、サテン仕上げの文字盤と曲線で構成されたアラビア数字のアプライドインデックス、そして、とりわけドーフィン針が効いているからだろう。1940年代にスポーティーで現代的な雰囲気をもたらした、先が細いバー状の夜光針を中心に据えたデザインよりも、伝統的な要素を採り入れつつシックな印象だ。

時針と分針は緩やかに傾斜がつけられ、ソフトな立体感を持たせることで、3種の図形の集合体という2次元の平面的なイメージが出やすくなりがちなところをうまく取りまとめている。
ジラール・ペルゴは、このモデルで何気ない立体感の実現に力を注いでいるのだ。曲面に作り上げるのが難しいのは特徴的なケースだけではない。縦横に湾曲した風防も同じだ。多くのブランドが、こうした場合にプレキシガラスなどの人工素材を使用している中、ジラール・ペルゴではサファイアクリスタルを採用している。高価な品物なのに傷が付きやすくなることが後々問題にならないよう、あえて手間の掛かる手法を取っているのだ。
風防と同様に、縁に丸みを持たせて丁寧に磨き上げたケースと、通常のものより多くの工程が必要な文字盤の、細やかな仕上がり具合も完全無欠。これなら決してリーズナブルではない価格ではあっても、時計愛好家は許せると思えるはずだ。

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デザインの基盤は1945年のモデル。平面からフワッと浮き上がらんとするかのような“スウィングした"シェイプと、四角、三角、円の組み合わせに、ジラール・ペルゴならではの風格が漂う。

丸ごと見える爽快感

いささか強気な価格のもうひとつの理由は、自動巻きのマニュファクチュールキャリバーGP3300にもあるのだろう。温度変化に強いグリュシデュールテンプを使用し、ムーブメントの厚さは極限まで抑えられ、たったの3・2mm。ブリッジを駆使した伝統的な設計だ。センセーショナルな構造ではまったくないが、それだけに繊細な加工が映える。ローターには年輪状に装飾研磨が入り、エングレービングされた文字は金色に彩られている。自動巻き機構のブリッジには細やかなペルラージュが施され、隣のブリッジはコート・ド・ジュネーブ仕上げ。さらに、地板もペルラージュで埋め尽くされている。ムーブメントをケースに固定するネジを除いて、外周沿いのネジはすべて青く加工されている。とはいえ、ネジ頭部のスリットまでは青くなっていないのだが。そして、ほとんどの縁は面取りの上、艶やかに磨かれている。

なんといっても、それらがトランスパレントバックゆえに眺められるのがうれしい。完璧なまでにきっちりとサイズを合わせたサファイアクリスタル製の窓のおかげで、ムーブメントが丸ごと見られる。また、裏蓋の両サイドに傾斜をつけているところからも、ゴツゴツしない感触に細心の注意を払っていることがうかがえるだろう。
さて、精度はどうだろうか。歩度測定機にかけた結果、長所と短所の両面が現れた。テストした個体の平均日差はプラス2・8秒。これはほとんどパーフェクトと言って差し支えないだろう。通常、およそ2秒程度は進み寄りに調整しておくことが多いからだ。一方、“文字盤下"と“3時上"の最大姿勢差は10秒というデータが出ている。この開きの大きさは手放しでは評価し難い。これだけの差が出たということは、少なくとも理論上、着用状況によっては、ある程度安定したデータにはならない可能性もあるということになる。

しかし、着用テストでは最大姿勢差は4秒にとどまった。夜、時計を外して、構造上不自然のない置き方である“3時上"にしておくと、毎日コンスタントに4秒の遅れが見られた。逆に、“3時下"にしてタンスに置いていた場合は、電波時計でチェックして分かる差はまったく出ていない。それとはっきり同じ結果となったのは、抜群の装着感にあやかって夜間も腕に巻いたままにしてみた時だった。

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アリゲーターストラップとフォールディングバックルは、ごくシンプルな仕上がり。ケースやムーブメントなどの充実感に比べると、もの足りなさもあるものの、着け心地は快適そのもの。

シンプルさは長所か短所か

ところで、ヴィンテージ 1945 XXLの優れた装着感について語る時、忘れてはならないのは、あっさりした作りのフォールディングバックルだ。ごつさがなくスマートには見えるが、半面、着用した際に極めて頑丈だと実感することもない。押しボタンによるワンタッチの着脱方式ではなく、押し込み式である。“GP"のロゴはバックルの表側にレーザーで表面的に入れてあるのみ。今回のテストにご協力いただいたウルムの時計宝飾店ケルナーのマイスター時計師ライナー・メラートは、このモデルのケースや文字盤、ムーブメントが非常に良い出来なだけに、バックルがそれに見合う作りになっていないと言う。

整いはいいものの、地味な感じがするのはストラップも同じだ。サイドは断ち切りラッカー塗りの仕様で、表革と裏革がぴったり平たく縫い合わせてある。ミシン縫いのためか針穴がぷつぷつとはっきりしていて、アリゲーターの優美な斑には不釣り合いな気もしないでもない。
ここで視線をストラップからリュウズに移してみよう。堂々たるケースの体躯に比べて華奢にさえ感じるリュウズは、爪で簡単に引き出せる。針合わせにも問題はなく、ストップセコンド機能が備わっているので、時報に正確に合わせることが可能だ。もっとも、針についてはひとつだけ惜しいことがある。分針は毎時間、ごくわずかな間しかインデックスの外側のトラックに届かない。詳しく言うと、11分から19分までと41分から49分までは鉄道時計のように何時何分とはっきり分かるが、それ以外の時は、分針の先端が目盛りから離れたところにあるので、慎重に時刻を読み取る必要がある。

つまり、時刻を知りたい時だけでなく、針合わせの時点で感じるのは、ヴィンテージ 1945 XXLは実直な計測機という堅物の存在とは違うということだ。それは文字盤や針、インデックスが同色でまとめられ、コントラストが弱いことからも理解できる。
しかし、この過去の歴史にインスパイアされたクラシックでエレガントなたたずまいにひとたび惹かれてしまうと、視認性などさして騒ぐほどのことではない(ように思える)。単に視認性を上げようとするならば、文字盤の構成を変えれば済む。例えば、コントラストを意識した色遣いにしたり、夜光塗料を針に載せたりすれば簡単だ。だが、それではこのモデルの大胆な取り合わせながらも調和の取れた印象が損なわれてしまうだろう。2次元と3次元を行き来しつつ、優雅に時と向き合うことを愉しむ。これこそ、ヴィンテージ 1945 XXLの自己主張であり、醍醐味なのだ。それは人生において、質の良いものを日常の中で味わうという充足感にほかならない。

技術仕様
ジラール・ペルゴ/ヴィンテージ 1945 XXL

製造者: ジラール・ペルゴ
Ref.: 25880-11-121-BB6A
機能: 時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)
ムーブメント: 自社製キャリバーGP3300、自動巻き、2万8800振動/時、32石、耐震軸受け(キフ使用)、グリュシデュール製テンワ、パワーリザーブ約48時間、直径26.2mm、厚さ3.2mm
ケース: SS製、曲面サファイアクリスタル風防(内側のみ無反射コーティング)、トランスパレントバック(サファイアクリスタル使用、裏蓋は4カ所をビス留め)、3気圧防水
ストラップとバックル: アリゲーターストラップ、SS製フォールディングバックル
サイズ: 縦36mm×横35mm、厚さ10.8mm、重量77g
バリエーション:
価格: 94万5000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

文字盤上 +6
文字盤下 +8
3時上 -2
3時下 +3
3時左 -1
3時右 +3
最大姿勢差: 10
平均日差: +2.8
平均振り角:
水平姿勢 285°
垂直姿勢 257°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 7pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 15pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 11pt.
合計 80pt.

>>ジラール・ペルゴ のモデル一覧はこちら

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