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ジャガー・ルクルト/マスター・コンプレッサー・ダイビング・オートマティーク・ネイビー・シールズ(1/1) 2011年09月号(No.36)

JAEGER-LECOULTRE / MASTER COMPRESSOR DIVING AUTOMATIC NAVY SEALS

マスター・コンプレッサーのラインが誕生して以来、ジャガー・ルクルトは堅固なスポーツウォッチを作るメゾンとしても知られるようになった。米海軍のエリートダイバー集団“U.S. NAVY SEALS”との提携により誕生したのは、まさにプロフェッショナル仕様のダイバーズウォッチである。

アレクサンダー・クルプ:文 Text by Alexander Krupp
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・必要な要素がすべて揃ったダイバーズウォッチ
・いかなる条件下でも確保される良好な視認性
・暗所でも強い発光力が持続する蓄光塗料
・快適な装着性

point
・ラグの角がとがっている
・姿勢差誤差が大きい
・レザーストラップの形状がケースに合わない

水中こそ我が住処

転式の角型ケースを特徴とするジャガー・ルクルトのレベルソは、今年誕生80周年を迎えた。今年の3月に刊行されたクロノスドイツ版編集によるレベルソ特集号では、時を刻み続けるこのアイコニックピースのさまざまな側面を知ることができる。レベルソ・スクアドラのクロノグラフを除けば、レベルソの幅広いポートフォリオに欠けているのは本格的なスポーツウォッチである。2種類のバリエーションが用意されているレベルソ・スクアドラ・クロノグラフも、レベルソのラインにしてはどちらかと言えばニッチなモデルだ。とはいえ、レベルソのラインにスポーツウォッチがひとつもなかったかと言えば、そうではない。レベルソ・グラン・スポールがあった。

だが、人気が伸び悩んだことから生産は段階的に打ち切られてしまった。同時期、レベルソ・グラン・スポールよりもはるかに大きな成功を収めたスポーツウォッチ・コレクションが、ラウンドケースで発表されたマスター・コンプレッサーである。このモデルの特徴は、外側に張り出した存在感あふれるリュウズである。マスター・コンプレッサーにはこれまでに数多くのバリエーションが加わり、今日ではジャガー・ルクルトの主要なラインにまで成長している。

スポーツウォッチにおいては、さまざまなブランドがこぞってスポーティーな要素を強調することに注力してきた。ジャガー・ルクルトも例外ではなく、ここ数年、マスター・コンプレッサーの性能を存分に示してきた。しかしながら、いかに性能が高くても、信頼できる証拠がなければ評価が持続することはない。その点、米海軍の特殊部隊「U.S.ネイビー・シールズ」がパートナーであれば、負荷試験によって時計の性能が常に試されている何よりの証拠になる。陸、海、空、すべての領域がU.S.ネイビー・シールズの任務範囲であり、この特殊部隊の装備品は極めて頑丈で、かつ、いつでも正確に機能しなければならない。つまり、時計を持続的にテストして、さらに改善するには理想的な環境なのだ。

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自社製キャリバー899は信頼性が高く、外部からの影響に強い堅牢なベースムーブメント。
Cal.899の微調整はテンワに取り付けられた4本のバランスウエイトで行う。ローターは片方向巻き上げ式である。

より深く、より速く、さらに遠くへ

マスター・コンプレッサーを使用したU.S.ネイビー・シールズの隊員たちは、ジャガー・ルクルトとの提携が始まるとすぐに、設計について感想を伝えてきた。例えば、回転ベゼルとケースが光を強く反射するため、時計の表面をよりマットに仕上げてほしい、といった意見である。さらに、U.S.ネイビー・シールズが過酷な訓練と任務を続ける中で、ベゼルがケースから外れてしまうこともあり、ベゼルの構造をもう一度、見直す必要があった。ムーブメントについても、ジャガー・ルクルトがル・サンティエの本社工房で再度、分析し、弱点を取り除いた。現在、店頭に並ぶ1500本限定のマスター・コンプレッサー・ダイビング・オートマティーク・ネイビー・シールズは、これらの結果を受けて、過酷な環境に耐える正真正銘のスポーツウォッチに仕上がっている。300mの防水性を備えているので水中でも問題なく着用可能で、まさに“苦楽をともにする”ことができるのだ。

日常的にも特殊な環境でも使用できるダイバーズウォッチで、耐久性と絶対的な信頼性に並び、最も重視される観点は、視認性である。この点、ジャガー・ルクルトの業績は称賛に値する。文字盤と針の組み合わせに、これ以上の調和を求めるのは不可能だっただろう。無反射コーティングがサファイアクリスタル製風防の両面に施されていないにもかかわらず、マットブラックと白のコントラスト、明確なタイポグラフィー、そして、針のフォルムの恩恵により、いかなる条件下でも時刻を確実に読み取ることができる。ネイビー・シールズの文字盤は、インデックスと針に塗布された蓄光塗料によって、暗所において長時間発光するのが便利である。この時計を見ると、蓄光塗料のスーパールミノヴァも常に進化を続けてきたことがよく分かる。スーパールミノヴァは、セラミックス製ベゼルにある小さなトライアングルマーカーにも塗布されている。1分刻みでクリーンに噛み合う回転ベゼルは、噛み合う音にも重厚感があり、数多くの回転ベゼル付きの時計で見受けられるような安っぽい音はしない。

ステンレススティールケースの表面には、全体的にヘアライン仕上げが施されている。この繊細な線彫り模様は美しいばかりではなく、時計にテクニカルな外観を与え、さらに、光の反射を抑える効果も併せ持つ。ラグの下端がとがり過ぎている感があるのが、ケースで唯一の難点である。また、ラグに取り付けられたレザーストラップとケースとの遊びも、もう少し正確に仕上げてほしかった。手首に着けると、ケースの形状に合わせて加工されたレザーストラップの端部とケースサイドとの間に不愉快な隙間が空くのだ。自動車ジャーナリストであれば、隙間寸法についてクレームをつけたくなるだろう。レザーストラップをもっとケースに密着させていたら、ストラップ全体がたわみにくくなっていたかもしれないが、数日も経てば柔らかくなっただろうし、隙間もよりクリーンに仕上がっていたに違いない。フォールディングバックルを廃したことは賢い選択である。ピンバックル(尾錠)のほうが安全で、ストラップの長さを調節しやすいからだ。テストウォッチのレザーストラップは品質が高く、撥水性を備えているが、これでも十分ではないというユーザーのために、ネイビー・シールズにはラバーストラップも用意されている。ストラップを替えると、時計の表情はがらりと変化する。

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SS製スリーピース構造、4カ所ネジ留め式ケースバック、ねじ込み式リュウズ。
ラグ下端のややとがった部分を除けば、ステンレススティールケースの作り込みには非の打ち所がない。セラミックス製ベゼルは品質が高く、クリーンにしっかりと噛み合う。

良好だが気まぐれなエンジン

黒いガルバニック仕上げの文字盤の下では、ジャガー・ルクルト製キャリバー899が時を刻んでいる。これは、定評のある名高いキャリバー889/2がさらに進化した基幹ムーブメントである。キャリバー889/2は、ジャガー・ルクルトの時計にはすでに搭載されていないが、例えば、クロノグラフモジュールのベースキャリバーとしてオーデマ ピゲが手を加えた上で、ロイヤル オーク オフショアにおいて同社のキャリバー3120とともに今でも採用されている。テンプの振動数が異なることが両者の違いで、キャリバー3120は2万1600振動/時なのに対して、ジャガー・ルクルトのキャリバー889/2は2万8800振動/時である。ネイビー・シールズに搭載されているキャリバー899も2万8800振動/時だ。先代のキャリバー889/2に比べ、キャリバー899はさまざまな点が改良されている。

セラミックス製ボールベアリングで支持されたローターはメンテナンスフリーで注油の必要がなく、片方向に巻き上げる。ローター回りの輪列は新たに開発され、特殊な形状に歯切りされた歯車には作動時の摩擦を抑える効果があり、巻き上げ効率も向上した。また、香箱のサイズが大きくなり、基本輪列も設計し直された。歯形が最適化されたことでエネルギーの伝達効率が向上し、バックラッシュも小さくなったために動力の伝達ロスも減少した。パワーリザーブを約43時間に延ばすことができたのは、その恩恵によるものだ。微調整はテンワに取り付けられた4個のバランスウエイトで行われ、ヒゲ持ちとヒゲゼンマイはレーザー溶接されている。これらの改良点が結集すれば、これまでになく高い信頼性と安定した精度が実現しているはずである。その上、他のマスター・コンプレッサーと同様に、今回のテストウォッチもジャガー・ルクルトが独自に行う1000時間コントロールテストをクリアしているとなれば、いやが上にも期待感は高まる。

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ピンバックルの長所は、安全でストラップの長さを調節しやすいことである。
レザーストラップは加工が良好。ヘアライン仕上げのバックルは時計との相性も良く、扱いやすく安全。

結論を言えば、良い評価をつけるしかない

だが、予想に反して、ウィッチ製電子歩度測定機で行ったテストでは、テストウォッチのキャリバー899は期待通りの結果を見せてくれなかった。フル巻き上げ時でも24時間経過後でも、水平姿勢と垂直姿勢の振り角の差(T0で50度、T24で45度の差)がかなり大きかったことも気になった。12秒という最大姿勢差(フル巻き上げ時)も決して褒められる値ではない。

この個体が例外かどうか確認するために、クロノスドイツ版編集部のアドバイザーであるマイスター時計師、ミヒャエル・ベルナシェク氏に、キャリバー899搭載モデルをさらに2本、テストしてもらった。だが、結果は似たり寄ったりで、大きな最大姿勢差がここでも観察された。それにもかかわらず平均日差は悪くなく、1日数秒というごくわずかなプラス傾向は着用テストでも証明された。

結論を言えば、マスター・コンプレッサー・ダイビング・オートマティーク・ネイビー・シールズにはやはり、良い評価をつけるしかない。他で多く見られるスタイル性重視のダイバーズウォッチとは異なり、ネイビー・シールズは本物のダイバーズウォッチになくてはならない、あらゆる属性を有しているからである。特に、良好な視認性は高く評価できるし、ネイビー・シールズの控えめな外観は極めて好感度が高い。ネイビー・シールズは旅行やバカンスで使うのにぴったりの時計であり、ダイビングを楽しむユーザーも十分納得できる完成度を備えている。
同名の米海軍特殊部隊との提携は、ジャガー・ルクルトにとって実りあるものだったに違いない。モデル名を与えられたばかりか、時計の開発にも価値ある恩恵がもたらされたのだから。

技術仕様
ジャガー・ルクルト/マスター・コンプレッサー・ダイビング・オートマティーク・ネイビー・シールズ

製造者: ジャガー・ルクルト
モデル: Ref.Q2018470
機能: 時、分、センターセコンド(ストップセコンド仕様)、日付
ムーブメント: ジャガー・ルクルト製キャリバー899、直径26.6mm、厚さ3.3mm、32石、4個の調整用バランスウエイトを備えたテンワ、自動補正平ヒゲゼンマイ(ニヴァロックス1使用)、2万8800振動/時(=4Hz)、耐震軸受け(キフ使用)、拘束角48°、22Kゴールド製分銅付き片方向巻き上げ式ローター、シングルバレル、パワーリザーブ約43時間、部品点数219点
ケース: SS製スリーピース構造、4カ所ネジ留め式ケースバック、ねじ込み式リュウズ、サファイアクリスタル(片面無反射コーティング)、300m防水
ストラップとバックル: レザーストラップおよびピンバックル
サイズ: 直径42mm、厚さ14.2mm、ラグ22mm、総重量102g
バリエーション:
価格: 84万円(1500本限定モデル)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

フル巻き上げ時(T0) 24時間後(T24)
文字盤上 +7 +2
文字盤下 +8 +4
3時上 -2 -1
3時下 +3 -1
3時左 +2 -1
3時右 -4 -5
最大姿勢差: 12 9
平均日差: +2 0
平均振り角:
水平姿勢 320° 261°
垂直姿勢 270° 216°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 12pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 10pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 84pt.

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