MEMBERS SALON

IWC/ポルトギーゼ ヨット・クラブ・クロノグラフ(1/1) 2011年05月号(No.34)

IWC PORTUGUESE YACHT CLUB CHRONOGRAPH

1960年代の有名なモデルネームが、ポルトギーゼでよみがえった。IWCはヨット・クラブによって、海をテーマとするポルトギーゼ・ファミリーのスポーティーな性格を強化した。そして、自社製クロノグラフムーブメントが、ついにポルトギーゼ・コレクションにも搭載された。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
OK-Photography:写真 Photographs by OK-Photography
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・抜群の視認性
・良好な作り込み
・素晴らしいデザイン

point
・日付の切り替わりが遅い
・防水性が低い

スポーティーな帆走

IIWCが初代ポルトギーゼを世に送り出したのは、今から70年以上も前の1939年のことである。注文したのはふたりのポルトガルの商人である。彼らが所望したのは、当時流行の上品な小ぶりの腕時計ではなく、あくまでも高精度と高い視認性を重視した腕時計だった。ポケットウォッチムーブメントをそれにふさわしいサイズのケースに搭載し、マリンクロノメーターの様式を踏襲したスモールセコンド付きの非常にクリアな文字盤を備えた腕時計は、彼らの要求を見事に満たしていた。だが、当時はまだ時代のほうがこの時計に追いつかず、続く数年間では数百本しか売れなかった。限定モデルが発表された93年や、自社製ムーブメントを搭載したポルトギーゼ・オートマティックがリリースされた2000年になってから、ようやくポルトギーゼは脚光を浴びるようになる。ポルトギーゼ・ファミリーがIWCで最も成功を収めたラインのひとつに成長するまでには、それほど時間は掛からなかった。コレクションは常に拡張され、ミニッツリピーターやトゥールビヨンなどの複雑機構も搭載されるようになった。ケースが大きいという理由だけではなく、ポルトギーゼのエレガントな外観が複雑機構を搭載するのに特にふさわしかったことから、拡充のこうした方向性は理にかなっていたのだろう。

ヨット・クラブは、セーリングをテーマとするコレクションに爽やかな風を送り込むと同時に、当コレクションのスポーティーな性格を強化することにも貢献している。この点において、ポルトギーゼ・コレクションに加わった新型ヨット・クラブは、1967年に発表されたヨット・クラブの遺伝子を受け継いでいると言えるだろう。かの有名なヨット・クラブは当時、IWCで最も成功したモデルのひとつであった。同じようにスポーティーで高額なロレックスのデイトジャストもそうだが、当時はデイト付き自動巻き3針時計の多くがステンレススティール製ブレスレットで着用するものだった。

ヨット・クラブという名称やIWCの自社製自動巻きキャリバーを搭載していること、そして、スポーティーな時計たる矜持以外では、新型ヨット・クラブとそのヴィンテージモデルとの間に共通点はない。いずれにしても、ポルトギーゼは航海というテーマと密接なつながりを持つラインである。したがって、スポーティーなモデルに有名なモデルネームを冠するのは、当然の結果なのだろう。だが、どちらかと言えば、ポルトギーゼ・ラインの他のモデルのほうが、ヨット・クラブのヴィンテージモデルよりも強い結びつきを感じさせる。アラビア数字や針のフォルム、レイルウェイトラックの分目盛り、文字盤外周に配された秒と4分の1秒の目盛りの付いた薄いメタルリングは、ポルトギーゼ・コレクションでよく知られた要素である。

spec121109iw670_420b.jpg

ポルトギーゼ ヨット・クラブ・クロノグラフは
極めて精度が高い。1秒未満という平均日差は、
クロノグラフを作動させても変わらない。

1960年代の有名なモデルネームが、ポルトギーゼでよみがえった。IWCはヨット・クラブによって、海をテーマとするポルトギーゼ・ファミリーのスポー ティーな性格を強化した。そして、自社製クロノグラフムーブメントが、ついにポルトギーゼ・コレクションにも搭載された。トランスパレントバックからは、 衝撃を吸収する曲がりくねったローターブリッジを確認することができる。

海をテーマとしたデザイン

係船柱(訳注:船をつないでおくために桟橋や波止場などに設置された杭)を想起させるリュウズガードとプッシュボタンは、海を意識した新しいデザインだ。また、白い目盛りと赤いクロノグラフ秒針というスポーティーなカラーリングや、ポルトギーゼでは今まで使用されたことのない夜光塗料も、新しい要素である。ヨットとヨットハーバーを思わせる風貌は、全体的に調和が取れた説得力のあるデザインだ。ただし、3時位置に配された日付表示窓はインデックスにかなり近接しているため、最適なポジションとは言い難い。

これとは異なり、作り込みのクリーンなケースは十分に納得させられる仕上がりだ。上に向かって広がるようなベゼルを上から取り付けたケースは、サテン仕上げの側面とポリッシュ仕上げの上面のコンビネーションが美麗である。45・4mmというケース径の恩恵により、直径が40mmを超える巨大なサイズの文字盤が実現した。文字盤上では、白い夜光塗料を塗布したシルバーカラーの時・分針と黒文字盤の明確なコントラストによって、卓越した視認性が確保されている。インダイアルに描かれた繊細な線と文字も、視認性を損なうことはない。暗所では、時・分針と小さなアワーインデックスが発光する。12時はインデックスが2本になっているので、時計の向きを確認するのも簡単だ。ただ、ゆっくりと切り替わる日付表示だけが、唯一残念な点である。午後11時を過ぎるとディスクが動くのがはっきりと認識できてしまう。

IWCが完全自社開発し、2007年に発表したクロノグラフキャリバー89360がポルトギーゼのラインに搭載されるのは、ヨット・クラブが初めてである。キャリバー89360には他のクロノグラフムーブメントとは一線を画する利点がある。時積算計と分積算計が12時位置のインダイアルに同軸積算計としてまとめられているのだ。さらに、30分ではなく60分のミニッツカウンターが搭載されているため、あたかも第2タイムゾーンの時刻を読み取るように、計測時間を容易に把握できる。これは、計測時間が長い場合に特に有益な機能である。

spec121109iw670_420c.jpg

ヨット・クラブにはフライバック機能が搭載されている。
クロノグラフの作動中に、停止、リセットという過程を経ずに、
直ちに新たな測定を再開することができる。

ヨット・クラブのバリエーション。左から、シルバーホワイト文字盤のSSモデル、18Kレッドゴールドモデル。

プッシュボタンとリュウズガードは、ヨットを港に係留する係船柱を想起させる

IWCは、このキャリバーのために、同社独自のペラトン自動巻き機構をベースとした新型の自動巻きダブル・ラチェット機構を開発した。巻き上げ用の大小ふたつのコハゼが2対装備されており、合計4個の爪が“押す"と“引く"という動作を交互に行って主ゼンマイを巻き上げる。2対のコハゼは、ハートカムで制御されるのではなく、自動車のエンジンに例えると、クランクシャフトのような原理で作動し、ローターの動きが小さくても十分な巻き上げ効率を得られるように配置されている。巻き上げ効率が従来よりも約30%向上した結果、ローターを軽量化でき、摩耗を軽減することが可能になった。パワーリザーブは約68時間と、十分な長さが確保されている。

このほか、IWCの歴史に依拠した特筆すべき点は、衝撃を吸収する曲がりくねった形状のローターブリッジで、ローターが支えられていることだ。ローターブリッジの形状はコンピューターで正確に算出され、キャリバー89360ではより最適化されている。緩急針ではなく、テンワに取り付けられた微調整ネジで行われる緩急調整は、高級機たる証である。このキャリバーのハイライトは何と言っても、コラムホイールでエレガントに制御されるクロノグラフ機構だろう。
フライバック機能が搭載されていることから、クロノグラフの作動中でも、リセットボタンを押せば針が瞬時にゼロに戻り、直ちに新たな測定を再開することができる。高い技術力を必要とするこの付加機構は、通常であればモデルネームに現れるものだが、IWCはこの点で、自らの功績を過小評価したのだろう。モデル名にこの機能を謳うことを避けている。また、ミニッツカウンターは、クロノグラフを作動させている限りジャンプせず、常に計測を続けるように設計されている。

精度もなかなか優秀である。ヨット・クラブのテストウォッチは、着用テストでマイナス1秒/日という精度を見せた。歩度測定機によるテストでも同じような結果を得ることができ、全姿勢の計算上の平均日差は、クロノグラフ停止時ではマイナス0・8秒/日、作動時ではマイナス0・3秒/日だった。クロノグラフの停止・作動にかかわらず、最大姿勢差は4秒であった。ただ、クロノグラフ作動時の振り角が垂直姿勢で210度まで落ちるのは、少し低すぎる感がある。

spec121109iw670_420d.jpg

ポルトギーゼ ヨット・クラブ・クロノグラフは
極めて精度が高い。1秒未満という平均日差は、
クロノグラフを作動させても変わらない。

ヨット・クラブの美しいフォールディングバックルには、IWCの“PROBUS SCAFUSIA"という紋章がはめ込まれている。

秀逸な加工のフォールディングバックル

ヨット・クラブは、その巨大なサイズにもかかわらず、平均的な太さの手首でも快適に着用できる数少ない時計のひとつである。細めの手首ではラバーストラップの末端部が反対側のラグまで届いてしまいそうになるが、時計はしっかりと固定され、手首へのなじみは良好である。ラバーストラップの裏側には十字形の模様が入っており、汗を大量にかいても不快感が生じにくくなっている。ストラップの表側には美しい布目模様が施されている。ラバーストラップは手縫いのレザーストラップよりも生産方法が単純とはいえ、今回のラバーストラップは時計の高級感を少しも損なっていない。

秀逸な加工のフォールディングバックルは堅牢でしっかりと留まり、かつ、簡単に開くことができる。フォールディングバックルにも、ケースと同じようにサテンとポリッシュのコンビ仕上げが施され、原則としてIWCで長く採用されてきた構造が踏襲されているが、バックル部分には“PROBUS SCAFUSIA"の紋章がはめ込まれている(訳注:プローブス・スカフージア=“シャフハウゼンからの良いもの"という意味で、“シャフハウゼンの優秀な、そして、徹底したクラフツマンシップ"というIWCのモットー)。
ラバーストラップにはヨット・クラブをよりスポーティーに演出する効果があるが、スポーツウォッチとしてはもう少し高い防水性を期待したかった。60mの防水性では水中スポーツには不十分である。先代モデルは40年前ですでに100mの防水性を備えていたのだから、なおさらである。

価格はどうだろうか? 127万500円という価格は、ステンレススティール製クロノグラフとしては同セグメントの機種の中でもハイクラスに位置するだろう。一方で、ポルトギーゼ・オートマティック(SS)も117万6000円と、ヨット・クラブに比べて大幅に安いわけではない。このように、ヨット・クラブ・クロノグラフのコストパフォーマンスは、IWCの他のモデルと比較してみると、かなり良いほうではないだろうか? IWCの保持する高いブランドイメージと、今後も安定した価値が見込まれることを考慮すれば、高額かもしれないが、相対的には正当と言えるだろう。このほか、ヨット・クラブには特に大きな弱点は見当たらない。
ヨット・クラブ・クロノグラフは、ポルトギーゼ・ファミリーの一員であることを明確に主張するスポーティーでエレガントな外観と、海をテーマとする数々のデザイン的特徴によって、実際に身に着けて帆走することを楽しみにさせてくれる時計なのだ。

技術仕様
IWC/ポルトギーゼ ヨット・クラブ・クロノグラフ

製造者: IWC
モデル: Ref.IW390204
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付、60秒・60分・12時間積算計を備えたフライバック・クロノグラフ
ムーブメント: キャリバー89360、2万8800振動/時、40石、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、テンワの微調整ネジによる緩急調整、直径30mm、厚さ7.5mm、パワーリザーブ約68時間
ケース: SS製、ドーム型サファイアガラス(両面無反射コーティング)、サファイアガラス製トランスパレントバック、ねじ込み式リュウズ、60m防水
ストラップとバックル: ラバーストラップおよびSS製フォールディングバックル
サイズ: 直径45.4mm、厚さ14.5mm、総重量134g
バリエーション: シルバーホワイト文字盤+SS製ケース(127万500円)、18Kレッドゴールド製ケース(235万7250円)
価格: 127万500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時 クロノグラフ作動時
文字盤上 +2 +2
文字盤下 -2 0
3時上 -2 -2
3時下 -1 1
3時左 0 0
3時右 -2 -2
最大姿勢差: 4 4
平均日差: -0.8 -0.3
平均振り角:
水平姿勢 282° 247°
垂直姿勢 248° 210°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 18pt.
精度安定性(10pt.) 8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 11pt.
合計 83pt.

>>IWCのモデル一覧はこちら

前の記事

オメガ/シーマスター アクアテラ

次の記事

タグ・ホイヤー/カレラ 1887 クロノグラフ

おすすめ記事

pick up MODEL

正規時計販売店

正規時計販売店

高級時計を取り扱う全国の正規時計販売店をご紹介。各店が行うフェア情報やニュースもお届けします!

時計ランキング

時計ランキング

その年の新作モデルや、機構、仕上げの完成度など、毎回決められたテーマの中から、優れた10本を時計ジャーナリストたちが選出します。

スペックテスト

スペックテスト

クロノスドイツ版の人気連載「TEST」の翻訳記事。腕時計のデザイン、機能などをポイント性によって評価します!

基礎からの時計用語辞典

基礎からの時計用語辞典

時計の部品、機構、ブランド名など、基礎から専門用語まで、広範囲にわたって解説します。時計の知識を深めるための用語辞典です。

PAGE TOP