【82点】ノモス / チューリッヒ・ワールドタイム

FEATUREスペックテスト
2011.01.29

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フラットで軽いケースは、柔らかく肌なじみの良い
コードバンストラップとともに、優れた装着性に貢献している。

より幾何学的に。1点に向かってクロスするように設計されたラグの側面。8時位置のケースサイドには、ホームタイムを設定するための埋め込み式修正ボタンが装備される。

ディテールの良質なケース

それに引き換え、ケースの作り込みは極めて上質である。リュウズの取り付け部やボタンガードなどのディテールは、美麗であると同時に機能性も備えている。 これらの措置により、リュウズは通常のものよりも楽に引き出すことができ、ボタンは衝撃から守られる。直径約40mmのケース径は、時計としては理想的な サイズではないだろうか。その上、美しくカーブしたサファイアクリスタルを備えているのにケースの厚さは約11mmに抑えられ、薄くエレガントである。

ギリシャ文字のクロスワードパズル

サイズを抑えた構造は、新たに設計されたワールドタイム機構によってもたらされたものである。自動巻きベースキャリバーε(イプシロン)は、ワールドタイ ム機構が追加されてもわずか1・4mmしか厚くなっていない。こうして誕生したキャリバーξ(クシー)は現在、ヴェンペのために開発、製造されるトゥール ビヨンを除けば、ノモスの中で最も複雑なキャリバーである。ノモスのキャリバーにはこれまで、ギリシャ文字が順番に付けられてきたが、デイト付き自動巻き キャリバーζ(ゼータ)、キャリバーξ、そして、キャリバーεの間には、アルファベットのブランクがいくつかある。ノモスの創業者、ローランド・シュヴァ ルツナー氏によれば、これらのブランクのギリシャ文字は、現在開発中のキャリバーに冠されるそうで、クロノグラフキャリバーの開発までほのめかしていた。 η(エータ=Eta)の文字は商標権の理由から使用できないので飛ばされるとしても、新たに命名される新開発キャリバーにも期待が持てそうだ。社内ではす でに、懐中日時計の話も出ているようである。
キャリバーξのためのワールドタイム機構は、1年もかからずに時計師のミルコ・ハイネ氏の手によって開発され、量産体制が整えられた。ノモスは、このムー ブメントのために投資した各種の設備によって大きな利益を得ることになる。追加導入したCNCフライス盤と、昨年、駅のアーケードに新設した旋盤加工所の 恩恵により、ノモスはプロトタイプ用の部品を迅速に自社製造できるようになったからである。また、ワールドタイム機構に必要な23点の部品をすべて内製で きるようになったため、量産体制も早々に整えることができた。

ブラック・ビューティー

チューリッヒ・ワールドタイムのキャリバーは、タンゴマットGMTのものとは少し異なる外観を持つ。地板と受けには、チューリッヒのレギュラーモデルと同 じようにブラックゴールド仕上げが施されており、スティールカラーのローターは、ダークグレーのムーブメントとのコントラストが美麗である。また、ムーブ メントの受け表面とローターにはグラスヒュッテ・ストライプが施され、地板にはペルラージュ、角穴車にはグラスヒュッテ・サンバースト模様、そして、バネ やレバーなどのスティールパーツにはヘアライン仕上げが施されるなど、模様彫りも十分に目を喜ばせてくれる。エッジの一部は面取りされているがポリッシュ 仕上げは施されていない。ネジの多くは青焼きされ、ネジ頭にはポリッシュがかけられている。

このムーブメントには構造の上でも説得力があり、手巻きのベースキャリバーETAプゾー7001の面影はあまり残っていない。ノモスはすでに、ストップセ コンド、グラスヒュッテ式ゼンマイ逆回転防止装置、トリオビス緩急調整装置、そして、4分の3プレートを搭載した手巻きキャリバーを、かなり力を入れて改 良してきた。それに加えて、地板や受け、そして、歯車とカナは、すべて自社製造している。自社開発した自動巻きキャリバーは、切り替え車を介して両方向に 巻き上げるローターを搭載し、ETAプゾー製ムーブメントをかろうじて想起させるのは輪列の配置ぐらいである。
ノモスがムーブメントを全6姿勢で調整しているのも、大いに評価できる点である。クロノメーター級のキャリバーでさえ、めったに行われることではないから だ。当然、これに見合った喜ばしい精度を見せてくれた。着用時には、一定してプラス2秒/日という精度で、編集部にある歩度測定機、ウィッチ製クロノス コープX1でも、すべての姿勢で日差0秒からプラス5秒/日と、似たような精度が観察された。計算上の平均日差はプラス2・5秒/日である。従って、すべ てがクロノメーター級の数値であることになる。テンプが振動する幅である振り角も、十分高かった。

チューリッヒ・ワールドタイムは3400ユーロと、チューリッヒのレギュラーモデル(日本価格36万7500円)よりもさらに1000ユーロ高い。これま では、2800ユーロの「チューリッヒ・デイト」(日本価格40万9500円)がノモスの中では最も高額なスティールモデルであった。今や、ノモスも新し い価格帯に進出しつつあるのだろうか。チューリッヒ・ワールドタイムと同じムーブメントを搭載したタンゴマットGMTは2690ユーロ(日本価格未定)だ が、この価格差はタンゴマットよりも手の込んだチューリッヒのケースに起因するものである。しかし、この価格帯なら、他の部品にも、もっと高い品質を求め たいところだ。尾錠が簡素であるばかりか、針も袴座に向かって湾曲してしまうほど薄いのだ。
一方、この価格では、自社製自動巻きキャリバーを搭載したワールドタイム表示付きの時計が手に入らないのも事実である。チューリッヒ・ワールドタイムは、 他のノモス・ウォッチのようにコストパフォーマンスがずば抜けて優秀とは言い難いものの、まだ良心的な価格設定である。当然のことながら、デイト付き3針 時計よりもワールドタイム機能を必要とするユーザーは少ない。そのため、金型代も少人数で負担しなければならないのだろう。