【86点】A.ランゲ&ゾーネ / サクソニア・アニュアルカレンダー

FEATUREスペックテスト
2010.11.29

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便利なゼロリセット機構により、リュウズを引き出すと同時に
秒針がゼロにジャンプし、正確な時刻合わせが簡単に行える。

ハンドエングレービングが施されたSAX-0-MATほど、自動巻き機構と伝統が見事に融合したキャリバーは数少ない。カレンダー機構は文字盤のすぐ下に格納されている。

待ち望まれた成果

ニュファクチュール、A.ランゲ&ゾーネは、すでにいくつもの複雑機構を時計に搭載している。レパートリーは、アウトサイズデイトからムーンフェイズ表示、ワールドタイム機能、クロノグラフ、そして、トゥールビヨンや永久カレンダーに至るまで幅広い。また、チェーンフュジーによる駆動、分積算計のラトラパント針、瞬転数字ディスクによる時・分表示といったA.ランゲ&ゾーネならではの特殊機構も数多い。だが、多彩なラインナップの中で唯一、欠けていたのが年次カレンダーなのである。

永久カレンダーなら、A.ランゲ&ゾーネはすでにランゲマティック・パーペチュアルで搭載している。サクソニア・アニュアルカレンダーは、このモデルと著しく類似した自動巻きキャリバーであるにもかかわらず、657万3000円というランゲマティック・パーペチュアル(18KPGケース+クロコダイルベルト)の価格の半分に少々プラスした金額で手に入る(371万7000円)。サクソニア・アニュアルカレンダーに対するランゲマティック・パーペチュアルの付加機能は、閏年表示とデイ・ナイト表示である。もちろん、カレンダーを修正する回数が圧倒的に少なくて済むのは、永久カレンダーの最大の利点だろう。永久カレンダーは閏年になっても2月の日数を間違えない。そのため、我々が使用しているグレゴリオ暦の規則に従って閏年が省略される次の世紀年、つまり、2100年まではカレンダーを修正しなくてもよいのだ(グレゴリオ暦では世紀の変わり目となる年を100年ごとの世紀年と定め、その年の閏年を省略することで暦のずれを調整する。ただし、400で割り切れる年は例外として閏年となる)。

年次カレンダーでも永久カレンダーと同様に、日数が30日の小の月と31日ある大の月は正しく切り替わる。12月から1月、7月から8月のように、大の月が連続する場合も問題ない。ただ、小の月でも日数の少ない2月は認識されずに30日と見なされてしまうため、1年に1回、2月末日から3月1日に切り替わる時だけは手動で修正しなければならない。それでも、普通のカレンダーでは1年に5回、手動修正が必要なことを考えれば、年次カレンダーの優位性は明らかである。その点を考慮すると、永久カレンダーの最大の長所は少々色褪せて見えてしまう。年次カレンダーも永久カレンダーと同じように、曜日や月、ムーンフェイズを表示できるからだ。そればかりか、サクソニア・アニュアルカレンダーはきわめて高精度のムーンフェイズをランゲマティック・パーペチュアルから受け継いでいるので、ムーンフェイズに1日の誤差が生じるのは122年に1度だけである。

いずれにしても、サクソニア・アニュアルカレンダーは、デザインの面ではランゲマティック・パーペチュアルよりも成功していると言えるだろう。月を表示するサブダイアルの下端にあった針付きの小さな閏年表示と、曜日表示の内側にあった針付きのデイ・ナイト表示を廃したことで、レイアウトはすっきりとまとまり、完璧にシンメトリックな文字盤構成が実現した。また、4面すべてにファセットを施したバーインデックスやふくらみを持たせたランセット型(披針形)ハンド、ムーンフェイズディスクに出現する完璧に磨き込まれた月など、ディテールへのこだわりも随所に見ることができる。
サクソニア・アニュアルカレンダーのデザインは、非常に調和が取れている。しかし、まさにこの点がゆえに、ランゲ1やランゲ・ツァイトヴェルクの並外れたデザインのような独自性をあまり感じられないのも事実である。

シンプルなデザインの副産物として、サクソニア・アニュアルカレンダーは良好な視認性を実現することができた。ブルースティールの針は、シルバー無垢の文字盤とのコントラストが抜群である。A.ランゲ&ゾーネ特有のふたつの窓で表示するアウトサイズデイトによって、日付はひと目で読み取ることができ、月表示は奇数月を省略したことで、かえって視認性が向上した。曜日と月については、英語表示だけでなく、ドイツ語版のバリエーションも用意されている。だが、曜日と月のサブダイアルの場合は、表示情報を即座に読み取るというわけにはいかない。また、夜光塗料が使用されていないので、夜間は文字盤も暗いままだ。
サファイアクリスタルの風防も視認性に貢献している。ガラスがあることがほとんど見えないくらいに無反射加工のクォリティが高く、一瞬、組み立て時に風防を付け忘れてしまったのではないかと疑うほどである。

修正可能なカレンダー

わずかな欠点を挙げるとすれば、日付が完全に切り替わるのに午後11時55分前から午前0時25分まで、30分かかることだろう。時計を長期間、着用しなかった場合は、カレンダー表示をケース側面にある埋め込み式プッシャーで修正することができる。アウトサイズデイトは10時位置、曜日は9時位置、ムーンフェイズは8時位置、そして、月は3時半の位置にある埋め込み式プッシャーで修正する。この時、滑ってケースを傷付けないように、修正用のピンが同梱されている。これらの修正用プッシャーは、作り込みの秀逸なケースのサテン仕上げの胴にうまく埋め込まれているので、外観はほとんど害されていない。リュウズは容易に引き出して回すことができる。リュウズを引き出すと、特許技術の秒針位置合わせメカニズム、ゼロリセット機構によってテンプが止まるだけでなく、秒針が瞬時にゼロの位置にジャンプする。リュウズを押し込めば、秒針は再び動き出す。この便利な機構は、クロノグラフ機構と同じように4番真(秒針軸)に取り付けられたハートカムによって作動する仕組みで、時刻を時報や電波時計と完璧に同期させることができる。
装着感を高める