【80点】ジン / 144.TI.DIAPAL

2010.11.29

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ドライ・ムーブメント。テンプの右下で回転するのは、
注油を必要としないコーティングが施された黒いガンギ車である。

当初のオイルフリー化実験では、アンクルのツメ石をダイヤモンド製に換えたが、満足な結果を得ることはできなかった。だが、この実験により、ジンの技術に“ディアパル"という名称が与えられた。

独自のテクノロジーが導いた安全地帯

イルと潤滑剤をまったく必要としない時計を作ることは、あらゆる時計師にとって大きな夢である。適正に注油された時計がどれほど正確に作動したとしても、潤滑性能は時間とともに低下し、特に脱進機では摩擦が発生するようになる。その結果、精度が著しく低下し、場合によっては時計が止まってしまう。フランクフルトを本拠とする時計メーカー、ジンは、完全にオイルフリーの時計こそまだ開発していないものの、オイルフリー脱進機によって、時計の機構で最も重要な部分の注油問題を解決した。

人工ルビー製のアンクルのツメ石とガンギ車のスティール歯の間には、摩擦が発生する。通常、この部分には注油が必要なのだが、ここは特にオイルが乾燥しやすい箇所でもあり、6~7年も経てばテンプの振動幅、すなわち、振り角が半分にまで落ち込んでしまう。これにより、精度が著しく悪化し、メンテナンスが必要になるのだ。

ジンは1995年以来、注油問題の解決に取り組んできた。“ディアパル"という名称は、ツメ石をルビー製からダイヤモンド製に換えて行った初期の実験で生まれた略語である(訳注:Diamantpaletten=ダイヤモンド製ツメ石の短縮形)。この名称は、以後も使われることになる。ダイヤモンドとスティールを組み合わせることで、注油しない状態でも作動特性はかなり改善されたが、注油した脱進機の振り角にはまだ及ばなかった。オイルフリーで、かつ精度の落ちない脱進機の実現には、ガンギ車にナノコーティング技術を応用した今日のディアパル・テクノロジーを待つことになる。この技術を採用することで、アンクルのツメ石には従来と変わらずルビーを使用することができた。こうして完成した脱進機はまず、2001年にブランド創立40周年記念モデルとして発表されたゴールドのファイナンシャルウォッチに搭載された。756および757・DIAPALに続き、今年は103および144シリーズでもオイルフリー脱進機がバリエーションとして採用されている。

144シリーズのディアパル搭載モデルは、ブラックカラーの積算計を装備したチャコールグレーの文字盤によって、ひと目で見分けることができる。曜日の代わりにセカンドタイムゾーンを12時間式で表示するETA7750も、全モデル共通で搭載されたムーブメントである。ムーブメントはトランスパレントバックを通して観賞することができる。よく見れば、コーティングで黒色になったガンギ車も認識できるはずだ。それ以外にも、コート・ド・ジュネーブやペルラージュ、ブルースクリューなどが目を楽しませてくれる。

良好な精度

もちろん、こうした機能的な時計では、ムーブメントの装飾よりも精度が重視される。それを裏付けるように、144・TI・DIAPALはなかなかの精度を見せてくれた。ウィッチ社製の最新式歩度測定器、クロノスコープX1を使用したテストでは、とりわけ力強い振り角が観察され、脱進機の摩擦係数は注油した脱進機に劣らなかった。全姿勢の平均日差はプラス5秒/日と、安全な数値であり、7秒という最大日差も良好な結果である。これらの数値はクロノグラフ作動時にもあまり変化せず、クロノグラフの作動による振り落ちがごくわずかだったのも喜ばしいことである。