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ジャガー・ルクルト/マスター・メモボックス(1/1) 2010年09月号(No.30)

JAEGER-LECOULTRE MASTER MEMOVOX

これほど心地良い目覚めをもたらしてくれる時計がマスター・メモボックス以外にあるだろうか。目にも耳にも本物の喜びを与えてくれる新作を検証する。

アレクサンダー・クルプ:文 Text by Alexander Krupp
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik SchÖlzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・美しいクラシカルなデザイン
・隅々まで良質な作り込み
・秀逸な設計の自社製ムーブメント
・理にかなった操作

point
・バックルが扱いづらい
・マイナス寄りの精度

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天才的なアラーム機構の設計。裏蓋の内側に固定されたゴングの中心から突起するジャーナル(軸)が、ローターベアリングを貫いてムーブメントまで達している。ローターの下では、ハンマーの尖端が、ベアリングに入れられた切り欠き部分からジャーナルを叩き、それがゴングを振動させ、アラーム音を響かせる。

静寂への招き

ドレスウォッチの愛好家なら、今年の1月に発表されたマスター・メモボックスにひと目で魅せられてしまうだろう。非の打ち所がない仕上がりのピンクゴールドケースは、ダークブラウンのクロコダイルストラップと同様、シルバー文字盤とよく調和している。クロコダイルストラップを腕に留めるフラットでエレガントなダブルフォールディングバックルは、時計全体に漂うシンプルな気品を強調している。
文字盤の加工精度の高さは、申し分のないサンバースト仕上げ、ごく薄くプリントされたブランドロゴや文字、そして丁寧に面取りされたアワーマーカーにはっきりと見て取ることができる。ケースも素晴らしい出来栄えである。段のある複雑な形状のベゼルは、裏側から4本のネジで固定されており、ファセットが施されたラグを持つ胴はポリッシュ仕上げが完璧で、ケースバックの美しいエングレービングには深い感銘を受ける。だが、裏蓋中央に配された美しいモデルロゴの外側の彫金は、均等な間隔でエングレーブされていないため、ケースバックの外周部が3分の1ほどブランクになってしまっている。

古くて新しい駆動系

極めて堅牢なケースバックの内側では、マニュファクチュール・ジャガー・ルクルトが177年の歴史の中で開発してきた1000を超える機械式キャリバーのひとつであり、かつ現行モデルに搭載されている約40種のムーブメントのひとつが時を刻んでいる。自動巻きキャリバー956は2年前、アラーム機能を搭載したダイバーズウォッチ、メモボックス・トリビュート・トゥ・ポラリスのエンジンとして導入されたものだ。
キャリバー956の先祖は、60年前に誕生した手巻きキャリバー489である。1949年に開発が始まったこのキャリバーは、51年にスイス時計展(現バーゼルワールド)でデビューしたメモボックス1号機に搭載されていた。この時計で注目すべき点は、木製のサイドテーブルなど、堅いものの上に置いたほうが、腕に装着しているときよりも大きな音が鳴るという構造にあった。これは、ほかのアラーム機能付きの腕時計に比べて付加価値が高いとして、今日のモデルにも採用され、さらに開発が進められてきた特徴である。

2010年のマスター・メモボックスも、腕から外して平らに置いておけば、どんなに深い眠りに就いていたとしても起こしてくれるに違いない。日中は腕の上でミュートされるため、アラーム音はかなり小さい。したがって、オフィスでアポイントメントを思い出すのにアラーム機能を使用したい場合でも、隣席の同僚がアラーム音に驚いて受話器や筆記用具を落とす危険はないだろう。
また、アラーム特有の金属音や不快な金切り音は、ジャガー・ルクルトにとっては過去の話である。マスター・メモボックスが生み出すのは騒音ではなく、響きなのだ。マスター・メモボックスのアラーム音は古い電話の呼び出し音によく似ているが、呼び出し音のような間隔はなく、18秒間鳴り続ける。他ブランドの名高いアラーム機構と比べても、平均的な長さである。また、実際にアラームが鳴る時刻とアラームの設定時刻に1分から2分の差があるのも、この種のアラーム機構でよく見られる誤差である。

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細部にまで気品を保つ。フラットなフォールディングバックルは、時計の印象によく似合う。

自社製キャリバー956の起源は1949年に遡る。
その先祖は音の大きな手巻きキャリバー489だ。

ただし、アラーム時刻は、他ブランドが出しているアラーム時計やジャガー・ルクルトの別のモデルのほうが、もっと詳細に設定することができる。多くのモデルでは12分刻み(5分の1時間)や10分刻み、またはその半分の長さでも設定できるのに対し、マスター・メモボックスには4分の1時間(15分)を示すアラームインデックスしかない。そのため、ユーザーはアラーム時刻を最小7・5分単位で設定することでよしとしなければならない。いずれにしても、目覚まし用に使用するならばこの間隔でも十分である。しかし、ビジネスシーンでスケジュール管理に使用する場合には、アラームを少し早めに設定しておいたほうが賢明だろう。そうすれば、かえって時間にも余裕ができるだろう。
アラームインデックスは、調和の取れたトータルデザインを壊さないよう、やや遠慮がちに控えている。文字盤中央には回転ディスクが装備され、その外周部にある三角形の蓄光アローがアラーム時刻を指し示す。時刻はいつでも快適に読み取ることができ、アワーマーカーに溶け込むように文字盤外周部に配された日付も、視認性は完璧である。
残念ながら、時・分針の蓄光面は極めて細く、この部分にあらかじめ光を当てておかないと、暗所ではアワーマーカーを補足するポイントインデックスとアラーム時刻を示す三角マーカーしか光らず、夜間など時刻を読み取ることができない。

自動巻きと手巻き

ジャガー・ルクルトのアラーム機能搭載ムーブメントに自動巻きローターが載せられるようになったのは、1956年からである。アラーム機能付きの初代自動巻きキャリバーは815と呼ばれ、ローターが半回転しかしないバンパー式自動巻き(ハーフローター)機構であった。今では両方向に回転するローターが主流だが、そもそもローターの役割は今日も当時と変わらず、ムーブメントにエネルギーを供給する主ゼンマイを巻き上げる以外にない。アラーム機構には専用の独立した香箱があり、2時位置にある第2のリュウズを使用して手で巻き上げる。巻き上げ終わったら、リュウズを引き出し、手前に回すとアラーム時刻を、反対方向に回すと日付を合わせることができる。両者の回転方向を間違えないように、リュウズには日付を意味する“D”の文字と、日付設定時の回転方向を示す矢印が付いている。シンプルだが、非常に合理的な解決方法である。間違った方向に少しでも回してしまうと、アラーム時刻ならまだしも、日付の場合はもとの数字に戻すまで1カ月分、回し続けなければならないからだ。

日付早送り機構は極めて正確に噛み合う。そのため、日付表示は瞬時切り替え式ではなく、日付が替わるのに時間がかかる。真夜中に2時間もの間、日付ディスクが斜めになった状態で日付窓からのぞいても、日付表示の正確さゆえ、その点を大目に見ることができるだろう。4時位置にあるリュウズは、停止した時計を再び動かしたい場合に、ムーブメントを手で巻き上げるのに使用する。引き出しポジションは1段しかなく、時針と分針はこのポジションで合わせる。
マスター・メモボックスの操作は理にかなっており、覚えるのも簡単だ。ただ、ふたつのリュウズを引き出す操作だけは、快適とは言い難い。刻み目がケースに近い側に付いているため、爪を使って引き出さなければならないからだ。

こうして操作するムーブメントは、ジャガー・ルクルトならではである。モダンで機能的、トリックに富んだ設計で、装飾も魅力的だ。テンプの振動数が4Hzで、補正ネジと自由振動ヒゲによるフリースプラング方式を採用したのは時宜にかなった選択といえる。機能性の高さを証明するのは、両方向に巻き上げるボールベアリング式ローターである。アラーム機構の配置は、まさに設計上のハイライトではないだろうか。ゴングは重厚な裏蓋の内側を一周するかたちで配されており、ケースバック中央からムーブメントに向かって突起するジャーナル(軸受けで支えられた軸の部分)をアラームハンマーが叩く。クライマックスは、ローターのベアリング部分に入れられた切り欠きである。ここにジャーナルがはまることによって、ハンマーの尖端はローターの下でジャーナルを叩くことができるのだ。

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付加機能を備えたシンプルな気品あふれるドレスウォッチ。三角形の蓄光アローを載せた回転ディスクがアラーム時刻を表示する。

マスター・メモボックスは、緻密な加工、賢いムーブメントの設計、
そして理にかなった操作によってポイントが高い。

最高の感性を感じさせるとは言えないまでも、ムーブメントの装飾は魅力的である。コート・ド・ジュネーブが施されたローターには、ブランドロゴがゴールドカラーで彫り込まれ、サンバーストで仕上げられたピンクゴールド製の非常に重たい錘が外周に取り付けられている。ローターブリッジのコート・ド・ジュネーブも、周辺パーツに見られるいくつかの模様彫りと同様にクリーンな仕上がりで、ブルースクリューが良いアクセントになっている。だが、装飾はここまでである。音響上の理由から、ムーブメントはソリッドバックで覆われているため、それ以外の装飾はなく、面取りされ、ポリッシュ仕上げされたエッジも見られない。ただし、裏蓋の内側の下層部にはペルラージュ装飾が施されている。

装飾は、効率重視の堅固なキャリバーに見合ったレベルと言えるものの、ジャガー・ルクルトの以前のテストウォッチに比べて、精度にばらつきが目立ったのには驚かされた。ウィッチ製歩度測定器によれば、姿勢差間の最大日差は8秒と、並の水準であったが、姿勢によってはかなりマイナス寄りの数値だったため、テストウォッチの平均日差は最終的にマイナス2・3秒/日になってしまった。平均日差のマイナス傾向は、着用テストでも観察された。
着用時の印象だが、ゴールド製のソリッドケースをまとい、総重量が140グラムもあるにもかかわらず、手首への馴染みは良好であった。それよりも、着脱時にいささか不便を感じた。ゴールドのダブルフォールディングバックルにいくつか鋭い角があり、フラットでエレガントな外観を優先してセーフティーボタンを廃したことが理由である。

無垢材から削り出し加工したバックルには安定感はあるが、ゴールド製のブリッジをつなぐジョイント部はもう少し太くてもよかったかもしれない。傾けて置いた状態で高い負荷をかけたシミュレーションテストでは、ブリッジが折れてしまった。とは言うものの、時計宝飾店で行ったテストと同じ圧力を実際にかけるには、かなり重たい本を開いたバックルの上に置かなければならない。少なくとも、古いドイツ語で書かれた聖書くらいは必要だろう。あまり信心深いほうではなく、多読博識で、ラグジュアリーウォッチを慎重に扱うことに慣れているユーザーなら、おそらくバックルを壊す心配はないだろう。

バックルの選択肢

むしろ、ジャガー・ルクルトほどのアラームウォッチであれば、尾錠のほうが良い選択だったかもしれない。毎朝、フル音量でアラームを起動させるには、時計をフラットな状態でキャビネットの上に置いておく必要があるからだ。フォールディングバックル付きのタイムピースを通常置くように、リュウズを上にしてマスター・メモボックスを置いたのでは、かなり小さな音しか発生しない。毎晩、ピンを外してバックルからストラップを抜くような手間をかけるユーザーは、まずいないだろう。
フォールディングバックルであっても尾錠であっても、マスター・メモボックスが類稀なるデザインに加え、細部に至る良質な作り込み、そして快適な装着感によって、ユーザーを幸せにするラグジュアリーウォッチであることは間違いない。197万4000円が用意できなければ、スティール製の兄弟モデルを94万5000円で手に入れることができる。どちらのモデルを選んでも、夢見る夜やオフィスでのコーヒーブレイクが、これ以上美しく終わりを告げることはないだろう。

【時計師からひと言】

この時計は非の打ち所がない出来栄えで、極めて秀逸な作り込みです。操作も簡単ですし、賢い設計のアラーム機構を搭載しています。唯一、気になるのは、バックルが堅牢さに欠けることです。テストでは、傾けた状態でバックルに高い負荷をかけると、ゴールド製のブリッジが折れてしまいました。丈夫なジョイントを備え、全体的にもう少し厚さのあるフォールディングバックルのほうが有用だったかもしれません。また、ステンレススティールモデルが94万5000円というのには驚きます。素晴らしいアラーム機構を搭載したムーブメントとしては、非常に良心的な価格設定ではないでしょうか。ゴールドモデルの価格も、納得できる範疇です。
(ライナー・メラート ウルム、ケルナー時計宝飾店オーナー兼マイスター時計師)

技術仕様
ジャガー・ルクルト/マスター・メモボックス

製造者: ジャガー・ルクルト
Ref.: Q1412430
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付、アラーム機能
ムーブメント: 自社製キャリバー956、自動巻き、2万8800振動/時、23石、グリュシデュール製テンプの補正ネジによる緩急調整(フリースプラング)、耐震軸受(KIF使用)、パワーリザーブ約45時間、直径30mm、厚さ7.5mm
ケース: 18KPG製、ドーム型サファイアガラス(無反射コーティングなし)、4カ所ネジ留めされた18KPG製裏蓋、50m防水
ストラップとバックル: クロコダイルストラップおよび18KPG製ダブルフォールディングバックル
サイズ: 直径40mm、厚さ14mm、総重量140g
バリエーション: SS製ケース(94万5000円)、手動設定可能なワールドタイムディスク付き“インターナショナル”(18KPG製250本限定:207万9000円、SS製750本限定:105万円)
価格: 197万4000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時
文字盤上 -4
文字盤下 -3
3時上 -6
3時下 +2
3時左 0
3時右 -3
最大日差: 8
平均日差: -2.3
平均振り角:
水平姿勢 270°
垂直姿勢 231°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 17pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 83pt.

>>ジャガー・ルクルトのモデル一覧はこちら

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