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ゼニス/エル プリメロ ストライキング 10th クロノグラフ(1/1) 2010年07月号(No.29)

point
・技術的問題を巧みに解決
・唯一無二の完全自社製機構
・1/10秒が非常に読み取りやすい
・魅力的なデザイン

point
・ダブルフォールディングバックルに慣れが必要
・クロノグラフ作動時に精度がマイナス傾向
・60秒積算計の一部が60分積算計で覆われている

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ゼニスの自社製エル プリメロ・クロノグラフキャリバーほど、1/10秒の表示に相応しい機構はない。

1/10秒の視覚化

 ゼニスのエル プリメロ・キャリバーには、他のムーブメントにはない特徴がある。1時間に3万6000回振動するテンプによって、秒針が1/10秒刻みで進むことだ。1/10秒単位で正確に時間を測りたいのなら、このハイビート機ほど適したクロノグラフはないだろう。1/10秒という単位は、我々が日常生活の中でごく自然に慣れ親しんでいるものである。普通、1/5秒、1/6秒、あるいは1/8秒という単位で時間を計ることはない。では、ゼニスのようなマニュファクチュールにとって、最も自然な形でエル プリメロの強みを利用する方法は何だろうか。これについては、CEOも思案を巡らしていたようだ。「3万6000振動のテンプを搭載したムーブメントがすでに手元にあるのなら、相応しい形でこれを視覚化すべきだと考えたのです」。

 ティエリー・ナタフ氏の後を継いで2009年の中盤にゼニスの新CEOに就任したのは、ジャン=フレデリック・デュフール氏である。ナタフ氏は、01年夏にCEOに就任してから、ル・ロックルで埃をかぶっていたマニュファクチュールを、スタイリッシュなタイムピースを生み出すブランドへと成長させた。ユーザー側にも、ナタフ氏が打ち出す斬新なアイデアを楽しむ贅沢がまだ許されていた時期だった。こうして、ゼニスがメゾンの伝統を回顧するのではなく、新鮮でトレンディなブランドとして登場するあらゆる場面で、ナタフ氏は独自のコンセプトを存分に開花させた。だが、ドイツのような、ゼニスのかつての主要マーケットでは、ナタフ氏のスタイリッシュ路線はあまり受け入れられなかった。古くからのゼニスの顧客は、急進的な姿勢を追うことがあまり得意ではなかったのである。
 ナタフ時代が後の世からいかなる評価を受けようとも、氏がゼニスというブランドを呼び覚まし、活力を吹き込んだことは確かな事実。デュフール氏はゼニスのCEOに就任する前、フルリエにあるショパールのL.U.Cを製作する工房を統率し、その前はブランパンでジャン=クロード・ビバー氏の下で活躍していた。デュフール氏は、世界金融危機の影響に対処することこそ、当面の課題であることを自覚している。そのためもあってか、スタイリッシュ路線のテンポを緩め、本来得意としてきた、高度な技術を要するクラシカルな腕時計に注力している。ゼニスの顧客は今後、こうしたモデルを数多く目にすることになるだろう。もちろん、ナタフ流スタイリッシュ路線も多少は残され、ナタフ氏の奇抜な"デファイ"コレクションの一部は、デュフール体制になってもこれまでどおりラインナップされる。新CEOの下で、ナタフ時代の新機軸とブランドの伝統的価値をうまく両立させることができれば、ゼニスはドイツでも再び成功するに違いない。デュフール氏はさらに、価格のネジも緩めようとしており、ゼニスのメカニズムを将来、より手ごろな価格で手に入れることも夢ではなくなるかもしれない。

 2010年は、デュフール氏にとって実行力が形になって現れる年になる。バーゼルワールドで発表されたハイライトのひとつに、ゼニスが"エル プリメロ フドロワイヤント ストライキング 10 th クロノグラフ"と名付けたモデルがある。デュフール氏は、新作の背景となったアイデアについて、次のように説明してくれた。「1/10秒を読み取りやすく表示するため、センターに配されたエル プリメロ・キャリバーの秒積算針は、10秒で1周するように設計されています。これを実現するため、キャリバー4052Bには2002年にゼニスが取得した特許技術を採用しました。ですが、02年に特許を取得したキャリバーは、秒積算針が4秒で1周するものでした。ストップタイムを読み取るのが困難だったばかりでなく、プロトタイプは精度もまったく不十分で、これをベースとした商品化は考えられませんでした」。開発を進める段階で、ゼニスは6秒や12秒など、秒積算針の回転速度をさまざまに検証した。デュフール氏は言う。「例えば、6秒を選んでいたなら、秒積算針が1周目を終えると、文字盤外周にあるセコンドカウンターにプリントした"1"の目盛りが2周目では"7"秒を、3周目には"13"秒を表すことになってしまいます。回転速度を12秒に設定した場合は2周目以降、"1"の目盛りが"13"秒、"25"秒…を示すことになります。センターに配した秒積算針を1秒で1周させれば、まさに"フドロワイヤント"となりますが、技術的にはほぼ実現不可能でしょう。つまり、この選択肢を除けば、10秒というバリエーションしか残されていなかったのです。さらに、セコンドカウンターを10秒で分割すれば、1/10秒の視認性は6倍も向上しますし、カウントロジックにも適っています」。

 デュフール氏が"6倍"と主張するのは、いかなる理由によるのか。ゼニスがこれまで文字盤に採用してきた、秒インデックスの間を4本のインデックスでさらに細かく分割する手法では、目盛りひとつ分が2/10秒を表す。4本のインデックスの中間も考慮に入れれば、理論上は1/10秒を表示できることになるが、細かすぎて計測時間の読み取りはほとんど不可能である。この場合の運針は0・6度刻みだが、今回の新作クロノグラフで実現した表示法では、秒積算針が3・6度刻みで進んでいく。ゆえに、視認性が6倍向上するということになるのだ。

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ゼニスの自社製エル プリメロ・クロノグラフキャリバーほど、1/10秒の表示に相応しい機構はない。

ブレーキレバーの突起部が秒クロノグラフ車の歯と
噛み合うことで、秒積算針の停止位置が正確に定義される。

 ゼニスの設計チームは、クロノグラフを止めた時に、文字盤外周に100本配されたセコンドカウンターの1本、つまり1/10秒インデックスに秒積算針が常に重なって止まるように、有意義な機構を編み出した。秒クロノグラフ車を止めるのは従来型の古典的なブレーキレバーではなく、特殊な形状の突起部を備えたブレーキレバーである。この突起部が秒クロノグラフ車の歯と噛み合うことで、秒積算針の停止位置が正確に定義されるようになっているのだ。我々が行ったテストでも、スタート/ストップを数えきれないほど繰り返したが、エラーは一度も観察されず、赤いクロノグラフ針は毎回、100本ある1/10秒インデックスのいずれかを覆うようにぴったりと止まった。これは、構成部品ひとつひとつの加工品質と組み立て精度の高さも物語っている。

 では、このメカニズムはどのように機能するのだろうか。動力は、通常のように四番車からではなく、より高速で回転するガンギ車から供給される。その一方で、ガンギ車はセンターの秒クロノグラフ車と3時位置にある60秒積算計を駆動する。この60秒積算計は、全体のエネルギー収支にとってはステップ式よりも有利なスイープ式で設計されている。動力は、小さなトランスミッションホイールを通じて2層構造のドライビングホイールに供給される。ドライビングホイールは、慣性を最小限に抑えるため、一体型のシリコン製で、通常のものよりも1/3ほど軽い。クロノグラフが作動していなくても、シリコン製ドライビングホイールと常に噛み合っているのは、クラッチホイールである。コラムホイールから接続するように指示が出されると、クラッチホイールは少し前方に動き、秒クロノグラフ車の歯と噛み合う。その結果、3時位置のクロノグラフ秒積算車が秒クロノグラフ車と直接接続され、秒クロノグラフ車も動き始める。水平クラッチが採用されているため、クロノグラフ針が引っかかることなくスムーズに始動するように、ブレーキレバーとフリクションスプリングが解除されるタイミングがわずかに遅れるように設計されている。厳密に定義されたタイミングでブレーキレバーが動き出し、噛み合いが発生する瞬間は、フリクションスプリングがまだ秒クロノグラフ車をブロックしている。この状態で遊びがなくなり、その結果、クロノグラフ針が逆回転しそうになって初めて、ブレーキレバーがフリクションスプリングも完全に解除する。

 これはすべて瞬時に行われ、コラムホイールの恩恵によりタイミングが厳密に定義されているため、瞬間的に摩擦が高くなっても、振り角への影響が測定値に表れることはなかった。ストライキング 10 thのユーザーはこれらの結果、引っかかりなくただちに始動する秒積算針を文字盤上に見いだすことができる。この時、3時位置の60秒積算計と6時位置の60分積算計も同時に動き始める。スモールセコンドは9時位置に配されている。1969年にリリースされたオリジナルモデルを可能な限り忠実に再現するというデザイン上の理由から、ゼニスは今回もインダイアルを重ねて配置することにした。ただ、この措置は30秒から40秒までのストップタイムを読みづらくする原因となってしまっているので、60分積算計をもう少し小さくして、秒目盛りと接触しないように設計したほうが好ましかったように思う。これに対し、6時位置に配された日付表示の視認性はまったく問題ない。

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レトロなデザインは全体的に素晴らしい出来栄え。赤いクロノグラフ針は軽量化のため、フライス加工で裏面が中空状に切削されている。

1960年代らしいレトロルックに仕立てられたケースを裏返すと、
キャリバー4052Bを隅々まで堪能することができる。

 1960年代らしいレトロルックに仕立てられたスリーピース構造のケースを裏返すと、大きな開口部を通してキャリバー4052Bを隅々まで堪能することができる。ゼニス特有の流儀に則って、表面には例外なく美しい装飾やポリッシュ仕上げが施され、エッジも丁寧に面取りされている。新たなスタンダードを築くほどの装飾レベルではないものの、見ごたえのある仕上がりで、詳細に観察して新たなディテールを発見してみたい気持ちを起こさせるには十分だ。新しくデザインされた両方向巻き上げ式のローターも素晴らしい出来栄えで、スケルトナイズされた中央部にはトレードマークのスターが君臨する。約50時間のパワーリザーブを供給するのは、ジェネラル・リゾート製の香箱に収められた長さ490mmのニヴァフレックスM主ゼンマイで、香箱が7・2回転することで1500g・㎟ものトルクを生み出す。KIF耐震装置を搭載したスイス式レバー脱進機には、グリュシデュール製テンプと自動補正機能を備えたニヴァロックス1平ヒゲが装備されている。また、爪石とガンギ歯の接触面は、摩擦を最小限に抑えるため、乾式被膜潤滑剤でコーティングされている。

 ここまで理論について述べてきたが、テストウォッチは実際、どのように動くのだろうか。着用した場合の平常時には、納得できる無難な精度で、電子歩度測定器でも同様の結果が確認された。だが、クロノグラフを継続的に作動させると、着用時も歩度測定器で測定した場合も、かなりのマイナス傾向が観察された。パーツの軽量化が進められ、微調整も完璧であるにもかかわらず、クロノグラフの作動時には、高速で回転するさまざまな輪列構成部品の慣性が影響し合い、振り角も著しく落ち込んだ。ただ、この結果は、通常使用時にはあまり大きな意味を持たない。クロノグラフを常時作動させたまま時計を着用するユーザーはあまりいないからである。

 ところで、今回はこれらの結果を歩度測定器で得るのが例になく手間のかかる作業だった。常時回転する各種歯車から多くのノイズが発生し、最新技術を駆使した測定器では、かえってうまく測定することができなかったのである。そこで、我々は旧式のスイスウィッチ製テスターを使用して測定を試みた。旧式の場合は、マイクの感度がそれほど高くないので、最終的には希望する測定結果を得ることができた。ゼニスはレーザー機器も使ってキャリバー4052Bの精度を自社で測定している。これには、微調整のための時間を節約できる一方で、測定結果に万全を期す意味もある。

 最後にもうひとつ、まったく別の疑問が浮かび上がる。この時計は、なぜ"フドロワイヤント"と呼ばれるのだろう。"フドロワイヤント"とは、そもそも"電光石火のごとく"という意味で、秒クロノグラフ針が1秒で1回転し、振動数に応じて1/5秒、1/6秒、1/8秒、あるいは1/10秒を表示する機構を描写する言葉である。厳密に言うと、今回のテストウォッチはフドロワイヤント機能を備えているとは言い難い。軽量化という、高速で回転するパーツに不可欠な技術的な解決策が、本物の"フドロワイヤント"と同じようにコストと技術力を要するものであったとしても、厳密な定義からは外れるのである。少なくとも、時計自体にはどこにも"フドロワイヤント"と謳われておらず、文字盤にも"1/10 O F A SECOND"としか表記されていない。それでもやはり、ジャン=フレデリック・デュフール氏と氏の同志は、社内でこの時計を "エル プリメロ フドロワイヤント ストライキング 10 th クロノグラフ"と呼んでいる。CEOは次のように説明した。「公式名称ではありませんが、私たちの時計にぴったりですし、時計の特徴を見事に言い当てているのです」。氏の言葉はこれはこれで受け取っておこう。だが、時計愛好家の間で間もなく熱い議論が交わされ、反対意見やさらに別の意見が出てくることも考慮に入れておきたい。

技術仕様
ゼニス/エル プリメロ ストライキング 10th クロノグラフ

製造者: ゼニス
Ref.: 03.2040.4052/69.M2040
機能: 時、分、スモールセコンド、日付、1/10秒(センター)・60秒・60分積算計を備えたクロノグラフ
ムーブメント: キャリバー4052B、直径30㎜(13 1/4リーニュ)、厚さ6.6㎜、31石、スイス式レバー脱進機、グリュシデュール製テンプ、自動補正機能を備えたニヴァロックス1平ヒゲ、3万6000振動/時、耐震装置(KIF使用)、拘束角52°、両方向巻き上げ式重金属ローター、ニヴァフレックスM主ゼンマイを内蔵したジェネラル・リゾート製香箱、パワーリザーブ約50時間、ストップセコンド機能非搭載、部品点数326点
ケース: SS製スリーピース構造、4カ所ネジ留め式サファイアクリスタル製シースルーバック、両面無反射コーティングを施したサファイアクリスタル、10気圧防水
ストラップとバックル: メタルブレスレットおよびダブルフォールディングバックル
サイズ: 直径42㎜、厚さ12.75㎜、総重量176g
特記事項: SSモデル1969本限定、18KRGモデル500本限定
価格: 99万7500円(レザーストラップ:92万4000円)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時 クロノグラフ作動時
文字盤上 -2 -5
文字盤下 +1 -2
3時上 0 -7
3時下 -1 +2
3時左 0 -7
3時右 -1 -1
最大日差: 3 14
平均日差: -0.5 -4.2
平均振り角:
水平姿勢 266° 191°
垂直姿勢 223° 168°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 10pt.
ムーブメント(20pt.) 20pt.
精度安定性(10pt.) 10pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 15pt.
合計 87pt.
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