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ジン/EZM7(1/1) 2010年07月号(No.29)

Sinn EZM7

EZM7は、ジンが消防隊のためのミッションタイマーをコンセプトとして作り上げたモデルである。色分けされたスケールは、給気式呼吸用保護具を着用した活動時間の確認に使用する。水や熱、また傷からこの時計を守るのは、ジンのテクノロジーにほかならない。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik SchÖlzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・傷に強いケース
・抜群の視認性
・優れたコストパフォーマンス

point
・平均的なレベルの精度
・逆位置に配置されたために操作が困難なリュウズ

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定評のあるETA 2893-2はトップ仕様。耐磁性を備えたクローズドバックに守られ、乾燥した環境に格納されている。

ファイアーファイターを守るテクノロジー

 ゼニスのエル プリメロ・キャリバーには、他のムーブメントにはない特徴がある。1時間に3万6000回振動するテンプによって、秒針が1/10秒刻みで進むことだ。1/10秒単位で正確に時間を測りたいのなら、このハイビート機ほど適したクロノグラフはないだろう。1/10秒という単位は、我々が日常生活の中でごく自然に慣れ親しんでいるものである。普通、1/5秒、1/6秒、あるいは1/8秒という単位で時間を計ることはない。では、ゼニスのようなマニュファクチュールにとって、最も自然な形でエル プリメロの強みを利用する方法は何だろうか。これについては、CEOも思案を巡らしていたようだ。「3万6000振動のテンプを搭載したムーブメントがすでに手元にあるのなら、相応しい形でこれを視覚化すべきだと考えたのです」。

ジンの正式社名には、何の理由もなく“特殊時計”(訳注:Spezialuhren/シュペツィアールウーレン)と付け加えられているわけではない。フランクフルトを拠点とするこのブランドは、さまざまな分野のプロフェッショナルなユーザーにプロ仕様の時計を数多く提供している。ラインナップは、極めて防水性の高いダイバーズウォッチから特殊結合方式の回転ベゼルを備えたパイロットウォッチ、そして、探検用のアドベンチャーウォッチに至るまで幅広い。GSG9(訳注:Grenzschutzgruppe 9/国境警備隊第9グループの略)などの特殊部隊で着用されるモデルには、EZM(訳注:Einsatzzeitmesser/ミッションタイマーの略)という名称が与えられており、末尾にはミッションに対応した番号が付けられている。

ミッションタイマー、EZMの中で最も新しいモデルは、消防隊の活動に特化して設計されたEZM7である。この時計の開発には、消防隊長も協力した。消防隊での使用を目的とする時計ならば、優れた視認性が暗所でも求められることは言うまでもない。その上、温度変化や化学薬品、衝撃に対しても高い耐性を有している必要がある。もちろん、耐磁性も高いに越したことはない。ジンは、こうしたあらゆる要求に応えられる技術をこれまでに開発しており、さまざまなモデルで実証してきた。EZM7ではさらに、呼吸用保護具と化学防護服を着用した出動時間をモニタリングできる目盛り付き回転ベゼルも与えられている。

EZM7は、テギメント加工が施されたケースによって極めて頑丈に仕上がっている。テギメント加工という特殊な表面処理をステンレススティールに施すことで、ビッカース硬さは200から1200に大きく向上する。通常の焼き入れ処理では、下層の軟らかい素材が外圧に負けてたわみ、硬い表面層が押しつぶされる、悪名高い“卵殻現象”が発生するが、テギメント加工を施すと、表面層から下層に行くにしたがって硬度が徐々に下がるので、卵殻現象を回避することができる。その上、風防はビッカース硬さ2000のサファイアガラスで出来ているので、EZM7には傷が付く心配がほとんどない。ただし、風防よりもやや低く配置されている回転ベゼルのスケール部分は例外である。ケースは堅固なだけではなく、負圧耐性と、200mの防水性を備えている。消火ホースからの噴射水にさらされると、時計には高い圧力が掛かる。そのため、EZM7のねじ込み式リュウズは動的荷重が加わっても、圧力を巧みに回避できるように設計されている。また、回転ベゼルは4本のネジでケースに固定され、衝撃が加わっても緩まない。

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極めて頑丈なEZM7は、耐傷性や耐磁性に優れ、80℃の高温にも耐えられる。エクステンションを内蔵したバックルも並外れて堅牢だ

強化された耐温度性能

EZM7は、温度による悪影響を受けにくい。特殊な自社製オイルの恩恵により、マイナス45℃からプラス80℃まで、安定した機能が確保されるからだ。通常のオイルに比べると、卓越した性能である。どの時計も、出荷前にこの温度範囲でテストされている。とは言うものの、火災の消火活動時には防護服の表面が極度な高温にさらされることが多い。そのため、伸長可能なエクステンションを装備しているEZM7といえども、やはり防護服の下に着用したほうが良いだろう。

温度変化が激しい環境でも、ジン独自のドライ・テクノロジーによって風防が曇ることはない。湿気がケース内にほとんど浸入しないからだ。これを実現する第1のドライ・テクノロジーが、“EDRパッキン”(超透過抑制パッキン)である。EDRパッキンによって空気の透過が75%も低減し、同時にケース内への湿気の浸入も抑制される。第2のドライ・テクノロジーはプロテクトガスである。プロテクトガスが充填されることで、出荷時のケース内部は湿気がまったく存在しない環境になっている。第3のドライ・テクノロジーは硫酸銅を封入したドライカプセルで、ケース内に残留した湿気を吸収する。ケース側面には点検用の表示窓があり、カプセルにまだ湿気の吸収能力が残っている場合はライトブルーだが、飽和状態になるとネイビーブルーに変色する。後者の場合はカプセルを交換しなければならない。ドライカプセルは風防が曇るのを防ぐために有効であるばかりではなく、ムーブメントを腐食から守り、オイル劣化の進行を遅らせるのにも効果的である。また、EDRパッキンは従来のパッキンよりも化学薬品に対する耐久性が高い。消防隊にとって、これが大きな利点となることは自明の理である。

機械式時計の場合、磁力の影響によりヒゲゼンマイが磁気を帯びてくると、精度が悪化することが多い。EZM7はその対応策として、8万A/mの耐磁性能を備えている。軟磁性材料で出来た外被をまとうことで、EZM7は磁力から身を守っているのだ。外被は、軟磁性材料で出来た文字盤、ムーブメントを支えるホルダーリング、そして、裏蓋で構成されている。

これらの技術が結集して、EZM7は市場で最も頑丈な時計となった。ベースになったのは耐磁性を備えたパイロットウォッチ、モデル857で、セカンドタイムゾーンと特殊結合方式の回転ベゼルを装備し、EZM7と同じケースに同じムーブメントが搭載されている。ケースは極めてクリーンな作り込みで、表面はテギメント加工とマット仕上げによって本来のステンレススティールの色合いよりも暗色で、どちらかといえばチタンのような質感を持つ。

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EZM7は、暗所での高い視認性に加え、温度変化や化学薬品、衝撃や磁気に対しても高い耐性を持つ。さらに、救出活動ごとの出動時間を計測できる回転ベゼルが与えられている。ジン独自のドライ・テクノロジーによって、EZM7は急激な温度変化においても風防が曇ることがない。さらに、ムーブメントを腐食から守り、オイルの劣化を防ぐ効果もある。

抜群の視認性

消防士のためのミッションタイマーとして堅牢さに続く重要な特徴は視認性だが、この点もジンはおろそかにしていない。両面無反射コーティングを施したサファイアガラスとマットブラックの文字盤の恩恵により、光の当たる場所でも反射に悩まされることなく、時刻を素早く読み取ることができる。暗所では、大きな針とインデックスが回転ベゼルの三角マーカーと同じように明るく輝き、発光時間も長い。また、12時のインデックスは、認識しやすいように2本になっている。24時間表示式のセカンドタイムゾーンは、トーンダウンしたグレーカラーで着色されている。ただ、救出活動の時間確認で使用される特殊なスケールは、光の条件によっては確認しづらいことがあった。

救出ミッションにおいて重要な時間配分はすべて、色分けされたスケールで容易に読み取ることができる。ドイツ消防協会マニュアルでは、ABC部隊が進入を開始してから15分後までには、標準汚染除去(除染レベルII)が実施できる状態になっていなければならないとされている(訳注:ABC部隊とは、ABC〔核/atomic、生物/biological、化学/chemical〕兵器による汚染を除去する特殊部隊)。さらに同マニュアルでは、許容最長作業時間として、消火用防火スーツ着用時間が20分(CSA=緑色のスケール)、圧縮空気の持続時間が30分(PA=黄色のスケール)、消防専用回線の受信時間が60分(LPA=赤いスケール)と規定されている。ミッションを開始する際は、ダイビングの場合と同じように、逆回転防止ベゼルの夜光三角マーカーを分針に合わせておく。こうしておけば、活動時間がどのくらい経過したかをベゼルのスケールで確認することができる。ミッションでは必ず、許容最長作業時間の3分の1および3分の2が経過した時点で確認を行うことになっているが、隊員はベゼルにプリントされたカラフルなスケールを見ることで、それを思い出すことができる。

クロノスドイツ版編集部は、ウルム消防署、消火部隊隊長のミヒャエル・ブレシュ氏の協力の下、EZM7のテストを実施した。ブレシュ氏は、この時計の堅牢さと視認性には大いに感銘を受けたようだが、ミッション用スケールについては通常の確認作業の補助的存在としてしか見ていないようだった。呼吸用保護具を着用した救出活動では通常、時計1個と短時間計測タイマー3個を備え、3分割されたメモ欄のある専用のモニタリングボードが使用されるからだ。このボードを使用すれば、最大で3部隊を同時に監視することができる。メモ欄には、消火部隊の無線名、隊員が給気式呼吸用保護具を着用した時刻、隊員が装着している圧縮空気ボンベのうち最も低い圧力を記入できるようになっている。危険区域の外にいる監視員は、無線で消火部隊と連絡を取り合う。隊員が給気式呼吸用保護具を使用しはじめると、対応する短時間計測タイマーが始動する。隊員は折を見て圧力を読み取り、監視員もモニタリングボードに従って10分おきに指示を出す。また、消火部隊は火元に到達した時刻も報告する。安全を確保するため、退出には進入時の2倍の時間が想定されている。したがって、短時間計測タイマーからは遅くても30分後にはシグナル音が鳴り、監視員はそれをもとに消火部隊に退出を指示することができる。さらに、圧縮空気ボンベの残量が約5分間分になった時点で、給気式呼吸用保護具からも個別にアラーム音が鳴るようになっている。

消防士用ミッションタイマーでは、操作が容易であることも同じように重視される。そのため、回転ベゼルはグローブを着けたままでも設定できるようになっている。リュウズガードを備えたねじ込み式リュウズは左側に配されている。通常とは逆のこの位置のほうが、衝撃から保護しやすく、手の動きも妨げない。だが、時刻を合わせるには、EZM7を手首から外さなければならないのが難点だ。扱いやすいリュウズは簡単に緩めることができ、2段階ある設定ポジションにも楽に引き出すことができる。ストップセコンド機能の恩恵により、時刻を秒単位で正確に合わせるのも簡単である。

直径43mmというかなり大型の時計にしては、装着性は驚くほど良好である。とりわけ、あらかじめアーチ形に成形された表面の柔らかなシリコンストラップと、手首に当たる内側が滑らかなフォールディングバックルが、優れた装着感に貢献している。その上、裏蓋はニッケルフリーなので、ニッケルに対して肌の敏感なユーザーでも、この時計なら問題なく着用することができる。アレルギー体質のユーザーには、尾錠タイプのレザーストラップも用意されている(日本未対応)。尾錠なら、シリコンストラップに装備されている大きなフォールディングバックルとは異なり、手首に触れる金属の面積がごくわずかなので、さらに快適だろう。

フォールディングバックルにはエクステンションが内蔵されており、2・4cm伸長できる利点がある。ただ、テストウォッチでは、ストラップを留める際にエクステンションが不意に開いてしまうことがしばしばあった。だが、これはバックルが開いた状態でしか起こらず、バックルは2個のセーフティーボタンによって不用意に開かないようになっている。また、ストラップとバックルは加工が良質である。バックルの表面に施されたマット仕上げは、ケースとの相性が完璧だ。標準仕様のバックルの場合は、テギメント加工が施されず、傷が付きやすいのが残念な点だが、追加料金で、テギメント加工を施したバックルをオーダーすることができる(日本未対応)。このほかの選択肢として、6万3000円の追加料金で、全体にテギメント加工を施したステンレススティールブレスレットを手に入れることもできる。

満足できる精度

クロノスドイツ版編集部にある歩度測定機、ウィッチ製クロノスコープX1で行ったテストでEZM7が見せた精度は、平均的なレベルだった。全姿勢の平均日差はプラス4・7秒/日と小さかったものの、7秒という最大姿勢差には、もう少し小さい数値を期待したいところである。振り角も垂直姿勢で落ちが目立った。着用テストでは一定してプラス4秒/日という安定した精度を見せ、好印象を残している。

EZM7のエンジンには、ETA2893︲2が採用されている。ETAの中でも最も優秀なムーブメントのひとつである名高い2892をベースとしたキャリバーであり、セカンドタイムゾーンが追加装備されている。ローターは両方向巻き上げ式で、最大42時間のパワーリザーブを確保する。耐磁性を高めるために裏蓋はクローズドバックになっており、ブルースクリューやペルラージュ仕上げ、また、ローターに施されたコート・ド・ジュネーブなどの装飾は、残念ながら時計師しか鑑賞することができない。ほとんどのETA製キャリバーと同様に、このムーブメントにもエラボレート(Elaboré)、トップ(Top)、クロノメーター(Chronomètre)という3段階の品質グレードが設けられている。トップとクロノメーターというふたつの高級仕様については、双方に技術的な差はなく、微調整のレベルがやや異なるだけである。これらの高級仕様では、グリュシデュール製のテンワに加え、ニヴァロックス2を焼き入れし、優れた特性を有するアナクロン製のヒゲゼンマイが搭載されており、ニッケル製テンワとニヴァロックス2ヒゲゼンマイを備えたエラボレート仕様よりもグレードが高い。また、調整する姿勢もひとつ多く、文字盤下の姿勢でも調整されている。グレードの高い高価なトップ仕様を採用しながらも価格設定を低く抑えたジンの功績は、高く評価されるべきだろう。

今回のテストウォッチであるEZM7は、30万4500円である。特に、傷に強いテギメント加工ケースやドライ・テクノロジーなど、数多くの有意義な特性を考慮すれば、手頃な価格と言えるだろう。加工品質も、この価格帯で手に入れられるレベルをはるかに超えている。ベゼルのスケールや文字盤のプリントがカラフルすぎるというユーザーには、モデル857をお奨めする。給気式呼吸用保護具のためのスケールは必ずしも必要ではないかもしれないが、EZM7はプロフェッショナルな風貌を備えているだけでなく、プロフェッショナルな要求に応えられる時計として完成されている。この時計に文字通り“炎のごとく”惚れ込むのに、消防士である必要はないのだ。

技術仕様
ジン/EZM7

製造者: ジン特殊時計会社
Ref.: EZM7
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付、24時間表示式セカンドタイムゾーン
ムーブメント: ETA 2893-2、自動巻き、2万8800振動/時、21石、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、エタクロン式緩急調整装置、パワーリザーブ約42時間、直径26.2mm、厚さ4.1mm
ケース: テギメント加工を施したSS製、両面無反射コーティングのサファイアガラス、ねじ込み式裏蓋、ドライ・テクノロジー、耐磁性、特殊結合方式の回転ベゼル、負圧耐性、200m防水
ストラップとバックル: シリコンストラップおよびセーフティーフォールディングバックル(2個のプッシュボタンとエクステンションを内蔵)
サイズ: 直径43mm、厚さ12mm、総重量165g
バリエーション: ステンレススティールブレスレット
価格: 30万4500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時
文字盤上 +6
文字盤下 +8
3時上 +3
3時下 +6
3時左 +1
3時右 +4
最大日差: 7
平均日差: +4.7
平均振り角:
水平姿勢 273°
垂直姿勢 234°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 10pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 12pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 15pt.
合計 83pt.

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