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パネライ/ルミノール 1950 3デイズ GMT(1/1) 2010年05月号(No.28)

PANERAI LUMINOR 1950 3Days GMT

特殊潜水部隊のために尽力したブランドの歴史が刻まれている。まるで、古き良き時代から現代の浜辺に打ち上げられた漂着物であるかのような意匠を持つモデルに新型自社製自動巻きキャリバーという、最新鋭のエンジンが与えられた。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・美しくレトロなデザイン
・自社製ムーブメント
・リュウズ操作によるゼロリセットセコンド機構

point
・ミニッツインデックスがない
・作り込みがやや粗い

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エンジニアの技。テクニカルな意匠とパワーリザーブインジケーターを備えたキャリバーP.9001。

STRANDGUT
浜辺に漂着したような......

 2009年、パネライは自社製ムーブメントの第2のラインを発表した。P.9000系キャリバーである。
 パワーリザーブが8日間から3日間に短くなったP.9000系キャリバーは、自動巻き機構を搭載し、価格もP.2000シリーズに比べて大幅に抑えられている。P.2000系で自動巻きモデルのキャリバーP.2003は、10日間のパワーリザーブを備えているが、これを搭載した時計は161万7000円と、今回のテストウォッチであるルミノール 1950 3デイズ GMTの倍近い価格である。
 3デイズ GMTはそれでもなお、第2タイムゾーン表示機能(12時間針用の昼夜表示は非装備)やパワーリザーブインジケーター(ケースバック側にあり、水平スライド式ではない)など、10デイズが備えていたスペックをほぼすべて搭載している。また、リュウズを時刻合わせのポジションに引き出すと秒針が戻る、ゼロリセットセコンド機構も備えている。

 今回のテストウォッチに搭載されたキャリバーP.9001以外に、P.9000シリーズには第2タイムゾーンやパワーリザーブインジケーターを載せていないモデルもあり、キャリバーP.9002ではパワーリザーブインジケーターが文字盤側に搭載されている。 今回のテストウォッチでも、イタリア生まれのスイスブランドが生み出すモデルのすべてに共通するアイデンティティを直ちに認識することができる。ポリッシュ仕上げのベゼルを備えたサテン仕上げのクッション型ケース、リュウズをケースに押し込むレバーロック機構の付いたリュウズプロテクター、そしてアラビア数字とアワーマーカーを組み合わせた文字盤構成は、パネライ独自の様式だ。1950年製のルミノールのモデルまで遡るこのデザインの主題は、見事な解釈が加えられつつ、今回のテストモデルにも受け継がれている。しかし、パネライの他のモデルとあまり違いがないと言えば、それも事実である。プロダクトラインが著しく相似していることは、ブランドの強みであると同時に弱点にもなってしまう。このデザインを好まない時計愛好家にとっては、同一ブランドで選べるモデルがないのはやはり短所となる。強みはやはり、どのモデルもひと目でパネライと分かる点である。また、デザインがレトロであるが故に、時代が変わっても古びて見えないのも長所と言えよう。ルミノール 3デイズは、10年経っても決して時代遅れにはならないのだ。これは、市場で発表される最新モデルのすべてに当てはまることではない。

 3デイズ GMTは、パネライの多くのモデルと異なるディテールをいくつか備えている。日付ディスクの文字は完全な白ではなく、ベージュがかったオフホワイトである。また、3デイズでは嬉しいことに、パネライの日付に時折装備されている円形の拡大レンズが省略されている。多彩な機能にもかかわらず、文字盤はいたってシンプルな構成だ。GMT針はローカルタイムを表示する時針の下に隠れており、パワーリザーブインジケーターは裏蓋側のムーブメントに取り付けられている。P.2000シリーズではドーム型に盛り上がった風防がよく見られるが、3デイズではわずかにせり出す程度になったのも好印象である。

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ケースの構造。船のように、弓形が交差して生まれるルミノールのフォルム。

パネライの伝統的なモデルで知られるサンドイッチ文字盤は、
時計に奥行きを与え、数字とインデックスが明るく発光するのに貢献している。

 スーパールミノヴァを塗布した下層の盤面に、アワーマーカーとインデックスをくり抜いた上層の盤面を重ねるサンドイッチ文字盤は、いつもながら美しい仕上がりである。時計に奥行きを与える2層構造の文字盤は、パネライで受け継がれてきた伝統的な技法だ。上層の盤面に数字をくり抜くため、"6"と"9"は開いたフォルムになっている。サンドイッチ文字盤の上で強く発光する数字とインデックスは、暗所での視認性に優れていることは言うまでもない。GMT針にも蓄光塗料が塗布されており、スモールセコンドの針と4本のインデックスも明るく発光する。日中も時刻を素早く把握できるが、ミニッツインデックスが配されていないために、正確な時刻が読み取りづらいこともある。裏蓋側のムーブメントに取り付けられたパワーリザーブインジケーターは、小さな窓で表示する方式だ。表示窓の中で回転するディスクが黒から赤に変わることで、パワーリザーブの残量がゼロに近づいたことを知らせる。
 細かく見てみると、微細だが針の上に埃が乗っているのが観察された。また、打ち抜き加工の針は薄いために、ポリッシュ仕上げの袴座に向かって湾曲している。ケースでも、ラグ部分のサテン仕上げに粗さが見受けられた。 こうした点を除けば、ケースの作り込みは良好である。特に、ラグに装備されたブレスレット交換システムは実に精巧で、同梱の工具でラグの裏側にあるプッシュボタンを操作すれば、バネ棒が簡単に外れ、同じく同梱のラバーストラップに付け替えることができる。3デイズ GMTは300メートルの防水性も備えていることから、ラバーストラップに交換すれば海に入ることも可能だ。

 納品時に装着されている、幅の広い機械縫いのアリゲーターストラップは、極めてクリーンな仕上がりである。仕上げの良さは、ボトルオープナーのような形の尾錠にも当てはまる。だが、ルーペを使って観察するのは避けたほうが賢明だ。とは言え、鋭いエッジは不快感を与えるほど手首に当たるわけではない。
 ルミノール 1950 3デイズ GMTは、44mmという堂々たるサイズにもかかわらず、着け心地はなかなか快適である。ラグには下方への伸びがあまりないため、装着時に本体が手首の上でぐらつく傾向があるものの、リュウズプロテクターが手の甲に当たるのではないかという懸念は無用である。
リュウズプロテクターはまた、操作性を損ねる要因にもなっていない。レバーロック機構は素早く解除することができ、時計を手首に着けたまま簡単に操作することができる。直径の大きなリュウズは扱いやすく、設定はどれも容易である。リュウズは、第1 ポジションで巻き上げ、第2ポジションではローカルタイム用の時針を1時間刻みで合わせることができる。タイムゾーンの異なる地域へ移動する際に、極めて便利な機能である。この時、日付も前後にジャンプするので、スペックとして日付早送り機能を積んでいないにもかかわらず、手早く修正することが可能だ。
 リュウズを第3ポジションに引き出すと、秒針がジャンプしてゼロに戻る。テンプが停止し、時と分を普通に合わせることができる。レバーを元に戻すことでリュウズを再びロックポジションに押し込むことができるのは、この上なく楽である。リュウズがケースに押し込まれると、秒針も再び動き出す。A.ランゲ&ゾーネではゼロリセット機構としてすでに採用されているが、ゼロリセットセコンド機構はパネライの伝統的なモデルにも搭載されていた。時報や電波時計とシンクロさせることを容易にする機能である。

 ゼロリセットセコンド機構はクロノグラフ機構と同様に、リセットカムをレバーが押すことで機能する。リセットカムは、秒針軸に取り付けられている。
 キャリバーP.9001は、サファイアガラスのトランスパレントバックからよく見えるものの、ローターがスケルトナイズされているわりには、大きな地板がムーブメント全体を覆っているので、鑑賞できるのはテンプとテンプ受けに限られる。だが、より詳細に観察すると、これらの他に、ガンギ車が覗く三日月型の窓と、自動巻きローターのコハゼが見える小さな窓を発見する。さらに、パワーリザーブインジケーターの窓があり、パワーリザーブが少なくなると、窓にディスクの赤い部分が現れる。ローターや地板、テンプ受けは線彫り模様で装飾されている。エングレーブされた文字にブルーカラーが盛られているのも、この時計にふさわしい美しくテクニカルな意匠に貢献している。ポリッシュ仕上げのネジ頭は美麗で、一部にはブルースクリューも使用されている。また、わずかながらも、面取りとポリッシュで仕上げたエッジも見える。これに反して残念なのが、薄い金属板から打ち抜き加工されたテンプのエンドプレートである。この部分はポリッシュのかけ具合も粗く、全体の構成に対してやや見劣りしてしまう。
 両方向巻き上げ式ローターは、磨耗に強いセラミック製のボールベアリングが軸部に使用されており、72時間のパワーリザーブを確保すべく、コハゼを介してツインバレルを巻き上げる。29個の受け石は、摩擦を抑えるための軸受けとして機能する。ムーブメントは合計227点もの部品で構成されている。4本のチラネジを備えたフリースプラングテンプは、賢い解決策だ。

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グランド・フィナーレ。ベルトのバックルのようなフォルムを持つ尾錠。

ムーブメントは合計227点もの部品で構成されている。
4本のチラネジを備えたフリースプラングテンプは、賢い解決策だ。

 実際、パネライは微調整も優秀だ。 装着時はプラス8秒/日のプラス傾向を見せたが、歩度測定器上での測定では平均日差がわずかプラス3.7秒/日だった。また、姿勢差による最大日差も5秒と、まったく問題ない精度である。振り角も全姿勢で力強かった。
 価格の面でも十分うなずけるのではないだろうか。ETA製ムーブメントを搭載していた従来のモデルと新型キャリバー搭載モデルの間には、それほど大きな価格差はない。 パワーリザーブインジケーターや第2タイムゾーン、そしてゼロリセットセコンド機構を省いた、P.9000シリーズで最もシンプルなバージョンなら、68万2500円で、完全自社製キャリバーが手に入る。ちなみに、 ETA7750の"減量"(ノンクロノグラフ)バージョンは、パネライではキャリバーOP IIIと呼ばれており、数多くのモデルの駆動系として今でも時を刻んでいる。
 テスト機のように、第2タイムゾーン、ケースバック側のパワーリザーブインジケーター、そしてゼロリセットセコンド機構を搭載したモデルを入手したい場合は、15万7500円多く支払わなければならない。だが、マニュファクチュールキャリバーを搭載した時計が84万円で手に入る機会はあまりないし、テスト機と同スペックで84万円以下の時計を探すとなれば、なおさら困難だろう。ただ、この価格を支払うなら、それ相応の加工精度を期待したいところだが、今回のテストモデルでは、針の作りやラグのサテン仕上げなど、要求を十分満たしているとは言い難い要素が一部、見受けられた。

 ルミノール 1950 3デイズ GMTは、自社製キャリバーを搭載した秀逸な時計であるばかりではなく、パネライ・コレクションの隠れた旗艦モデルでもある。文字盤にパワーリザーブインジケーターがない分、8日間あるいは10日間のパワーリザーブを備えた完全自社製モデルよりも外貌は洗練されている。しかも、価格が両者のほぼ半分ともなれば、パワーリザーブが3日間でも競争力は十分だ。パネライは、控え目な第2タイムゾーン、ケースバック側のパワーリザーブインジケーター、そして実用的なゼロリセットセコンド機構など、落ち着いた外観を損ねることなく、有意義な機能を数多く搭載することに成功した。とりわけ、見事に表現されたレトロな意匠は、目まぐるしく変化する今日の時代において、我々の目に、ある種の癒しを与えてくれるに違いない。

技術仕様
ルミノール 1950 3デイズ GMT

製造者: オフィチーネ・パネライ
Ref.: PAM00320
機能: 時、分、スモールセコンド(ゼロリセットセコンド機構付き)、日付、第2タイムゾーン、パワーリザーブインジケーター(ムーブメント側)
ムーブメント: P.9001、自動巻き、2万8800振動/時、29石、耐震軸受(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンプ、チラネジ付きフリースプラングテンプ、パワーリザーブ約72時間、直径31.8mm、厚さ7.9mm
ケース: SS製、無反射コーティングを施した厚さ2.6mmのサファイアガラス、ねじ込み式トランスパレントバック、30気圧防水
ストラップとバックル: アリゲーターストラップおよびSS製尾錠
サイズ: 直径44mm、厚さ17.7mm、総重量159g
価格: 84万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

文字盤上 +5
文字盤下 +1
3時上 +3
3時下 +3
3時左 0
3時右 +4
最大日差: 5
平均日差: +2.7
平均振り角:
水平姿勢 298°
垂直姿勢 275°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 13pt.
精度安定性(10pt.) 8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 84pt.

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