【92点】グラスヒュッテ・オリジナル/セネタ・クロノメーター

FEATUREスペックテスト
2009.11.29

spec100115gla370a.jpg

キャリバー58-01で目を引くのは、ハンドエングレービングを施したテンプ受けだけではない。
香箱や巻き上げ車が、パワーリザーブ表示のための遊星歯車機構とともによく見える。

ザクセン産クロノメーター

ドイツでは数年前、ヴェンペの尽力によって公式クロノメーター検定が再び導入された。当初、グラスヒュッテ天文台で行われる検定に自社の時計を送り込む有力ブランドなど、ヴェンペ以外で果たしてあるのかと、誰もが疑問に思った。DKDドイツ計量検定所(DKD=Deutsche Kalibrierdienst)も、原則としてすべてのマニュファクチュール(ドイツ以外に拠点を置くものも含む)の自由裁量に任せられた機関だが、逡巡の末、最終的には協力することとなる。こうした状況下で、エルツ山地の街を本拠とするドイツ最大のマニュファクチュール、グラスヒュッテ・オリジナルが参加を決意したことは、妥協が一切許されないことを意味すると同時に、喜ばしいことでもあった。検定を通った時計の価値が高まるばかりか、ドイツ・クロノメーター検定の名をより広く知らしめることになるからである。
2009年のバーゼルワールドで発表されたセネタ・クロノメーターは、クロノメーターというコンセプトを明確に主張している。マリン・クロノメーターの長い伝統を守り、公式クロノメーター認定証によって高い精度が保証されたタイムピースだ。

グラスヒュッテ・オリジナルが製作したセネタ・クロノメーターは、どの個体にもドイツ工業規格(DIN=Deutsche Industrie Normen)8319に基づく精度試験が行われている。このモデルには特別に設計された新型ムーブメントが搭載されている。手巻きキャリバー58‐01だ。
クロノメーターというコンセプトが一貫して表現されているのは、ムーブメントだけではない。秒針がセンターではなく6時位置にあり、パワーリザーブ表示が12時位置にある文字盤は、マリン・クロノメーターを踏襲した意匠である。パワーリザーブは約45時間で、パワーリザーブ表示にある小さな円形の開口部は、ナイト&デイ表示だ。ここには、6時から18時まで白いディスクが、18時を過ぎると黒いディスクが現れる。高級感溢れる文字盤の表情は、グラスヒュッテ・オリジナル独自のパノラマデイト表示、洋梨(Poire)の形をしたポリッシュ仕上げの青焼き針による時刻表示、そして手仕上げでポリッシュを施した袴座によって完成されている。文字盤はまた、高度な表面処理や削り出し加工のレイルウェイトラック、彩色されたフライス加工のローマンインデックスによって、見る者の心を瞬く間に捉えるだろう。仕上がりの見事な文字盤の表面は、シルバープレート仕上げ(argenture grainée)によって生まれたものである。この高度な手法は、まず、水、チョーク、木を混ぜたものを使って真鍮製の文字盤表面を機械で磨いた後、銀粉と水からなるペーストを手作業で丁寧に塗布していく。
水平に並べられた2枚のディスクが特徴のパノラマデイト表示は、24時ちょうどに切り換わり、視認性に優れている。自社製キャリバー95で初めて採用されたこの機構は3時位置に配置されており、日付はケースサイド4時位置にある小さなボタンで修正する。

ケースは作り込みが秀逸である。引っかかりがどこにもない、完璧な平滑面を実現している。無反射コーティングのサファイアガラスが使用されたケースバック からは、手巻きキャリバー58‐01を存分に堪能することができる。ムーブメントはケースとジャストサイズで設計されているので、ホルダーリングは不要 だ。ムーブメントを見るとすぐに、香箱、パワーリザーブ表示のための遊星歯車機構を備えた巻き上げ車、ゴールドシャトンを配した3/4プレート、また手彫 りエングレービングを施したテンプ受けなどが目に飛び込んでくる。
これらの特徴は、アルフレッド・ヘルヴィグの時代にグラスヒュッテで作られたマスターピースや、グラスヒュッテ・アンクル・クロノメーター、あるいはポ ケット・クロノメーターなどの様式を受け継ぐものである。グラスヒュッテ・オリジナルのインターナショナルセールスマネージャー、ディタ・パハナー氏は、 バーゼルワールドで我々に次のように語ってくれた。