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ハブリング・ツー/クロノCOS(1/1) 2009年11月号(No.25)

HABRING2 / CHRONO COS

プッシュボタンのないクロノグラフは果たして存在するか。その問いに答えるのが、スタート、ストップ、リセットをひとつのリュウズで行うハブリング・ツーのクロノグラフCOSだ。メイド・イン・オーストリアの高度な技術を体現した構造は、1955年にニコレット・ウォッチ社(Nicolet Watch S.A.)が取得したパテントにその起源を持つ。

point
・少量生産による専有感と極めて珍しいリュウズ作動式クロノグラフ
・高度にモディファイされたムーブメント
・スムーズなクロノグラフ動作
・良好な精度

point
・ムーブメントの装飾が簡素

クロノス評価

ストラップとバックル(最大10pt.):8pt.
操作性(5pt.):5pt.
ケース(10pt.):8pt.
デザイン(15pt.):12pt.
視認性(5pt.):4pt.
装着性(10pt.):9pt.
ムーブメント(20pt.):14pt.
精度安定性(10pt.):8pt.
コストパフォーマンス(15pt.):12pt.
合計:80pt.

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不当な評価を受けることが多いが、ETA7750特有の作動カムこそが、リュウズで操作するクロノグラフ改造の鍵となった。

ワン・クラウン・クロノグラフ

それは一見、洗練されたスポーツウォッチのようだ。9時位置のスモールセコンドの他にサブダイヤルはひとつしかない。一体この時計は何を表示するのだろう。ハブリング・ツーの最新作を眺めると、この時計がクロノグラフである根拠をどこに見いだせばよいのか戸惑ってしまう。時計をもっと近くで見てみよう。サブダイヤルが30分積算計であることが確認できるものの、スタート・ストップボタンやリセットボタンについての疑問は解決してくれない。リュウズにクロノグラフの操作ボタンが内蔵されているわけではないので、いわゆるワンプッシュ式のクロノグラフでもなさそうだ。まるで魔法のようである。
時計の専門書をめくってみよう。すると、1955年にニコレット・ウォッチ(Nicolet Watch S.A.)が発表したある機構にたどり着く。クロノグラフ機能はすべて、リュウズを通常の第1ポジション、つまり押し込んだ状態で回しながら操作するのだ。クロノグラフのスタート・ストップ、そしてリセットはこうして順次行うことができる。巻き上げはリュウズを中間の第2ポジションにして行い、時刻合わせはリュウズを第3ポジション、つまり完全に引き出した状態で行う。

ニコレット製クロノグラフのベースムーブメントは、45分積算計や連結切り換え機構、そしてクラッチを搭載したランデロン社製のキャリバー251だった。このクロノグラフが製品として市場に登場したのは1963年になってからで、スティールモデルやゴールドモデルが用意されていた。ニコレットは、“巻き上げ”と“時刻合わせ”のふたつのリュウズポジションにクロノグラフを操作するポジションを加えて、このクロノグラフを完成させたのだが、この設計には明らかな弱点があった。操作系統を複雑化したことによって、リュウズが不安定で故障しやすかったのである。さらに、ニコレットは防水性を備えていなかった。おそらくこれが、このクロノグラフの売り上げが伸びなかった原因なのだろう。
ここでハブリング・ツーの登場である。ハブリング・ツー(ハブリングの2乗)は、設計師でありマイスター時計師のリチャード・ハブリングがIWCとA・ランゲ&ゾーネでキャリアを積んだ後、数年前に妻のマリア・クリスティーナとともに立ち上げたブランドである。以来、ハブリング夫妻はリチャードの故郷、ケルンテン州フェルカーマルクトのハウプトプラッツに構えた合名会社ハブリング ウーレンテクニックを拠点に活動している。リチャード・ハブリングは言う。
「当初、私たちは、ニコレットの修理と同時に、リュウズを完全に設計しなおす作業も手がけていました。しかし、ニコレットの設計には防水性の問題があったため、新たな道を歩むことに決めたのです」

ハブリング夫妻が“メイド・イン・オーストリア”という価値を生み出すべく、COSシステムの開発に費やした期間はおよそ2年である。その間、巻き上げ機構と時刻合わせ機構に改良を重ね、この機構を搭載できるようにブリッジのひとつひとつにフライス加工を加えた。また、線彫りやペルラージュ模様の仕上げを施すなど、エボーシュの装飾も怠っていない。ネジは1本1本、手作業でポリッシュ仕上げが施されており、ローターには手彫りのロゴが入っている。“ニヴァロックス・アナクロン”(熱処理済み)の中でもハブリング・ツーが購入している脱進機は、クロノメーター級のクォリティを備え、トリオビス緩急調整装置を搭載した高級品である。ちなみに、このグレードの脱進機はIWCやチュードルでしか使われていない。COSの部品は、ハブリング・ツーの指示に基づき、ラ・ショー・ド・フォンのラ・ジュー・ペレが製作している。ムーブメントの組み立てと調整作業は、もちろんケルンテン州の自社工房で行われている。
リュウズを回すだけ、というクロノグラフの操作は、非常に直感的である。しかし、この機構には他にも長所があるらしい。これについては、マリア・クリスティーナ・ハブリングが次のように説明してくれた。

「防水時計の悩みは、ムーブメントを操作するためにケースにあけなければならない穴の数です。古典的なクロノグラフの場合は、ケースバック、ベゼル、リュウズ、そしてふたつのプッシュボタンなど、最低5つは穴や開口部があります。これらすべてをパッキンで密閉しなければなりません。理論上はパッキンがひとつ壊れるだけで、簡単に水が入り込んでしまうのです。COS機構では、穴をふたつ減らすことに成功しました。その結果、パッキンに要する手間とコスト、そして浸水のリスクが40 パーセントも低くなりました」
クロノCOSの洗練された風貌についてはすでに述べた。好感の持てる外観に加え、超軽量のチタンケースの恩恵により、装着性も極めて良好である。13mmという堂々たる厚みにもかかわらず、マイナス要素は見当たらない。2個のクロノグラフボタンがなくなったことで、サイズ42mmのケースは実際よりも小さく見え、エレガントな印象に仕上がっている。

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レザーとカーボンファイバーのコンビネーションストラップは、チタンケースとグレーの文字盤との相性が抜群だ。

クロノグラフはリュウズを押し込んだ状態で回しながら操作する

着用テストでは、約3秒/日とプラス寄りの安定した日差が観察され、日常使いにもまったく問題ないことが証明された。いずれにしても、30分積算計ではクロノグラフ機能を短時間しか使えないため、クロノグラフを常に作動させておくことはあまり意味がないだろう。それに、クロノグラフを常時作動させたとしても、振り角が特別に良くなるわけでも、精度の向上が持続するわけでもない。今回のテストウォッチは、クロノグラフを駆動するためのエネルギーが1秒から2秒必要だった。そのせいか、クロノグラフ作動時のクロノCOSは約0秒/日に近い日差を記録したが、あくまでも腕に着けたときの数値である。歩度測定器で行ったテストも、着用テストと似たり寄ったりの結果だった。
文字盤の視認性は良好で、大きな時・分針とインデックスにスーパールミノヴァが塗布されているため、暗がりでも問題なく時刻を読み取ることができる。テストウォッチでは、サファイアガラスの風防が片面しか無反射コーティングされていない。そのため、光の当たり方によっては反射してしまって、グレー文字盤の風格が少し損なわれる感があるが、クロノCOSには風防が両面とも無反射コーティングされているモデルも用意されている。裏蓋のサファイアガラスはかなり大きく、シースルーバックを通してハブリング・ツーの技術を堪能できる。これには、ムーブメントを綿密に観察したい愛好家でも、失望させられることはないだろう。
また、クロノグラフ始動時にひっかかりがほとんど感じられない大きなクロノグラフ秒針は、特に強調したい特徴である。ETA7750 では、クロノグラフ秒針がリセットされて戻ったり、ジャンプして先に進んだりしているうちに、誤差が大きくなることが観察されがちだが、クロノCOSにこの欠点はない。リチャード・ハブリングはこれについて、次のように説明する。

「従来の設計では、クロノグラフの始動時に瞬間的な衝撃があります。これが、秒クロノグラフ車とそれに圧着されたクロノグラフ針など、バランスが不安定な構成部品に影響し、クラッチが誤作動する原因となるのです。通常、クロノグラフに不可欠なジャンパバネとレバー機構によって、プッシュボタンを押す場合にかなりの手ごたえがありますが、クロノCOSは最新型のオートマチック・トランスミッションのようにしなやかに切り換わるため、クロノグラフ秒針がジャンプする動作がETA7750の原型モデルよりも目立たなくなっています」
クロノCOSは内部に高い価値を備えたクロノグラフである。また、今の時代には、アンダーステートメントという要素も、かえって購買意欲の促進に貢献するのではないだろうか。
価格はどうだろう。ステンレススティールモデルやデイトモデルなど、さまざまなバージョンで入手することができる。ミドルクラスの上級者でありながら、名だたるマニュファクチュールの同クラスのモデルよりもはるかに手に入れやすい価格である。このクロノグラフは、ありふれた時計では満足しない、内部機構の価値を熟知している愛好家にとって、一考に値する選択肢となるだろう。

■スペック

製造者:ハブリング ウーレンテクニック
Ref.:なし
機能:時、分、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、30 分積算計
ムーブメント:A08COS (ETA7750ベース)、直径13 1/4リーニュまたは30mm、厚さ7.9mm、25石、スイス式レバー脱進機、スムーステンプ、ニヴァロックス・アナクロン製ヒゲゼンマイ、2万8800振動/時、拘束角50°、トリオビス緩急調整装置、片方向巻き上げ式ローター、シングルバレル、パワーリザーブ約48時間(±5%)
ケース:チタン製スリーピース構造、ねじ込み式ベゼルとサファイアガラスのねじ込み式ケースバック、リュウズ、片面無反射コーティング、ライトドーム型サファイアガラス、5気圧防水
ストラップとバックル:レザーとカーボンファイバーのコンビネーションストラップおよびSS製フォールディングバックル
サイズ:直径42mm、厚さ13mm、総重量95g
価格:117万6000円
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)
平常時:/クロノグラフ作動時
文字盤上:+5/+3
文字盤下:+6/+4
3時上:+5/+1
3時下:+5/+5
3時左:+5/0
3時右:+4/+3
最大日差:2/5
平均日差:+5/+3
平均振り角:
水平姿勢:308°/290°
垂直姿勢:273°/254°

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