【91点】オーデマ ピゲ ロイヤルオーク

FEATUREスペックテスト
2006.01.07

発表から30年以上を数えるロイヤルオーク。ケースの大型化という時代の流れを押さえた新型は、伝統的なデザイン、ハイグレードな仕上げ、そして新型ムーブメントの搭載という野心的な開発により、高い次元の完成度を得た。

計算しつくされた洗練さは秀逸。現代に見合った雰囲気を醸し出している

 何もかもが大型化している昨今。新世代の人間にしろクルマにしろ、今までを軽くしのぐサイズになっているが、急成長ぶりが最も目覚しいのはなんといっても時計。各ブランドとも、従来のモデルに比べると実際は数mmの違いだが、時計のサイズにおける1mmの差は大きい。オーデマ ピゲ(以下AP)は1972年、ジェラルド・ジェンタの手による新モデルを発表した。ロイヤルオークの歴史はここからスタートする。

 八角形のベゼルを六角形のビスで留め、ケースとブレスレット素材はステンレススチール。当時、高級時計とされていたモデルには使用されることのなかった材質である。そして文字盤には先端を丸くしたバーインデックスとバーハンド。ロイヤルオークは時計界で最も名高いクラシックタイプのひとつとして、長らく知られてきた。世にスポーティなデザインが台頭し始めても、同シリーズの現行モデルでは変わらぬ優美さを保っている。

仕上げの美しさは、ほぼ完璧といっていい

 今回取り上げたローズゴールドモデルでは、同素材のブレスレットを使用するスチールケースタイプとは異なり、より細やかな印象のレザーストラップを使用しているが、これまでの雰囲気が損なわれることなく仕上がっている。文字盤にはお馴染みのグランドタピスリー装飾が施され、ゴールドの針とインデックスはやや現代的なデザインになったが、調和を乱すことなく収まっている。以前のモデルでは夜光ドットが狭いサークル内に一定間隔で取り巻いていたが、このモデルではドットを間引き、それぞれの位置を引き離すことでメリハリがついている。

 針とインデックスの先端は今までのように丸くはなく、六角形を半分に割った形に仕上げた。いうまでもなく、六角形はベゼル上のビスの形状だ。ケース表面はサテン仕上げと鏡面仕上げを交互に組み合わせた非常に美しい出来上がり。この仕上げの美しさは、ほぼ完璧といっていいだろう。しかしたったひとつ欠点を挙げるならば、もともと傷つきやすいゴールド素材をサテン仕上げにすると、巻き上げ時に付きがちな爪の引っ掻き傷が目立ちやすくなってしまうという点だろう。APのイニシャルをかたどったバックルも、デザインがロイヤルオーク的ではないものの、高水準の域に達している。クロコダイルストラップは手縫いで、裏表両面からそれぞれ1本ずつの針を刺して縫い上げた、2本針のランボルデ仕上げ。

 新型モデルの大きさもロイヤルオークでは素晴らしくよく映える。今までもオフショアで、ジャンボサイズモデルはあったが、今回はマンネリに陥りがちな一連のデザインラインに対極的なポジションを加えることに成功している。

時計技術の頂点を極めたCal.3120。これ以上手を加えたところで、不要な複雑さが出てくるばかりだろう。

独自の構造を持った高い完成度のムーブメント

 ムーブメントは新型ではあるが、ケース直径に合わせた拡大サイズではない。APは長年、大型・小型両方のコンプリケーションに力を注いできているが、一部のベースキャリバーに使用されているのがジャガー・ルクルト製ムーブメントだ。今までのロイヤルオークはジャガー・ルクルトのCal.889/2をベースにして手を加えたCal.2225を使用していた。Cal.889/2はマスターコントロール以前のモデルにも搭載されているキャリバーだ。

 新型ジャンボモデルでは、パテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンにも使用されているジャガー・ルクルトのCal.920をベースにAPで新開発されたCal.3120を搭載。ル・ブラッシュのAPはジャガー・ルクルト キャリバーの使用権を同社に売却した後に、自社製ベースキャリバーの開発に着手、2003年には自動巻きのCal.3120を発表した。ベアリング設置のローターはバネなしのセンターピニオンの作動により、両方向に回転する。ジャイロマックステンプはマスロットリングで歩度調整可能で、振動数は21600/h。丸穴車と巻き上げ車が離れた独自の構造により、手でリュウズを巻き上げる時も指に負担が掛からない。瞬時に切り替わるジャンピングデイトと60時間のパワーリザーブもうれしいところだ。これなら金曜の夜に腕から外しても、月曜の朝まで停止しない。

22Kゴールドのローターにはオーデマとピゲ、両家の紋章が彫られている

 スポーティなデザインのロイヤルオークには堅牢なムーブメントがふさわしい。特にテンプ押さえと、目にも明らかにがっしりとした4.25mmもの厚さは好ましい。そしてサファイアガラスの裏蓋からのぞく完璧な仕上げは、心を奪われんばかりの出来上がりだ。パーツのエッジは全て面取り研磨され、ネジ山はスリットを含め鏡面仕上げ。どのようにして組み立てたのか不思議なほど、傷ひとつ見当たらない。22Kゴールドのローターにはオーデマ家とピゲ家両家の紋章が彫られている。

 精度テスト結果も非常に良く、時計界に現存する最も優れたムーブメントといえるだろう。ちなみに同モデルのスチールバージョンは126万円と価格面でもお薦めの一品。

 しかし、この手の大型モデルは手首の太さが問題になってくる。このロイヤルオークの大きさは、バネ棒の上下間でゆうに5cmはある。さらにストラップがかなり硬く、手首の細い人が着用すると輪っかのようになってしまう。こればかりは時間の経過と共にストラップの硬さがこなれてくるのを待つほかないだろう。

 トータルすると、価格はもちろん高額ではあるものの、大型三針モデルの中では非常に良い1本と評価できる。