【90点】オメガ / スピードマスター ムーンフェイズ クロノグラフ マスター クロノメーター

FEATUREスペックテスト
2017.04.05

オメガ自社開発ムーブメント、キャリバー9904は堅牢で精度が高く、耐磁性に優れる。

小さな指針式日付表示

 あくまで主観だが、指針式日付表示には妥協の成果がうかがえる。第一の理由が、ムーンフェイズを搭載するために、ベースムーブメントで6時位置にある日付表示を別の場所に移動する必要があったことである。その上、文字盤のシンメトリーな構成を維持するため、9時位置のサブダイアルにスモールセコンドと小さな指針式日付表示をまとめざるを得なかった。視認性の観点からは最上とは言えない解決策だが、ムーンフェイズ非搭載のクロノグラフよりもサブダイアルは大きくデザインされており、リーディンググラスを必要としないユーザーならば多少の集中力をもってすれば日付を読み取ることは可能である。何と言っても、文字盤の調和に満ちた意匠はやはり美しい。

 3時位置にあるサブダイアルはクロノグラフカウンターで、12時間と60分の積算時間を表示する2本の針を備え、計測した時間を時刻のように直感的に読み取ることができる。30分積算計を搭載する従来型のクロノグラフの方が計測分を正確かつ素早く判読するのに優れているが、今回のテストウォッチでは、クロノグラフをセカンドタイムゾーンとして利用できるのも大きなメリットだろう。

 リュウズは固すぎず、手で簡単に操作することができる。コラムホイール式のクロノグラフの中には操作感がもっと軽やかなものもあるが、クロノグラフ用プッシュボタンもそれほど大きな力を必要としない。

すべてを覆い尽くす大きなブリッジ

 今回のスピードマスターでは、高く盛り上がった大きなサファイアクリスタル製シースルーバックから、アラベスク風コート・ド・ジュネーブと呼ばれる非常に美しい模様彫りを施したローターやブリッジ、また、面取りやポリッシュで丁寧に仕上げられたエッジを観察することができる。だが、ブリッジは視界全面をほぼ覆い尽くすほど大きく、内部機構をもっと見せてくれるクロノグラフムーブメントもある中で、オメガの場合は3つの開口部からかろうじてコラムホイールを見ることができるのみである。

 オメガは近代的な垂直クラッチを採用している。伝統的な水平クラッチに比べると視覚的なメリットは大きくないが、クロノグラフセンター秒針が針飛びなく直ちに始動するため、機能の上では優れている。両方向巻き上げ式のローターも巻き上げ効率に優れ、並列に接続されたツインバレルは約60時間ものパワーリザーブを蓄積し、均等な動力の供給に貢献する。

 調速機からも、オメガの機能重視の姿勢をうかがうことができる。テンプは、通常の機械式時計で見られる片側のみ固定されたテンプ受けではなく、両持ちのブリッジで支えられており、微調整は緩急針ではなく、テンワに取り付けられた4個の重さ補正ネジで行われる。そのため、より高い精度で微調整を行うことが可能で、ヒゲゼンマイも制約を受けることなく自由に振動する。テンプには審美的な理由からブラッククロム加工が施されており、ブラックカラーのネジとよく似合う。

 コーアクシャル脱進機は今日、機械式腕時計に搭載されている最も優れた脱進機のひとつである。数多くの時計ブランドの中で、コーアクシャル脱進機を製造しているのは唯一、オメガのみである。腕時計で標準的に採用されているスイス式レバー脱進機とは異なり、キャリバー9904の内部で時を刻む3層の機能面を持つコーアクシャル脱進機では、停止と衝撃の機能が分離されていることから、アンクルの爪石が不要な摩擦を起こすことがない。その結果、エネルギー損失が減少し、潤滑油の環境も向上した。脱進機は薄い油膜で覆われた状態が維持される。また、高い耐衝撃性を備え、磁束の影響をほとんど受けないシリコン製ヒゲゼンマイにより、高い精度も実現した。

 シリコン製ヒゲゼンマイは耐磁性能を備えた各種の部品と共に、想定し得る最も強い磁束からもこの時計を守ることに寄与している。そのメリットは、どのユーザーにとっても大きいものだろう。なぜなら、高精度を叩き出せるのは時計が磁気を帯びていない場合であることがほとんどだからである。さらに、スピードマスター ムーンフェイズ クロノグラフ マスター クロノメーターは、C.O.S.C(スイスクロノメーター検定協会)からクロノメーターとして認定されているだけではなく、スイス連邦計量・認定局(METAS)の定める厳格な新精度基準をクリアした、スピードマスター・コレクションで初めてのモデルでもある。スイス連邦計量・認定局は、ムーブメントと時計の精度だけでなく、パワーリザーブや防水性能、また、最大1万5000ガウスの耐磁性能など、厳しい条件下で数多くのテストを行っている。

 その結果、オメガは軟鉄製ケースを使用したムーブメントよりも15倍も高い耐磁性能を実現することに成功した。軟鉄製ケースを採用した従来の手法では装備不可能だったシースルーバックからは、内部機構を観賞できる。イノベーションとは、すべての購入者がその恩恵に浴することが可能で、同時に入手可能な価格で提供されてこそ、有意義になり得るのではないだろうか。

 スピードマスター ムーンフェイズ クロノグラフ マスター クロノメーターは、新たなミレニアムのムーンウォッチである。最先端の技術を駆使したムーブメントを搭載し、宇宙飛行士が月面に残した足跡を、NASAが撮影した高解像度の月面画像データに再現したムーンフェイズを備える。これほど月に近い時計はかつてなかったのではないだろうか。