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マニュファクチュールの時計が輝く男性と香港で(前編)(1/2)

Ciel:文
Text by Ciel

「旅先で恋に落ちたことはありますか?」

 はい、一度だけ————
 それは10年前、初めて一人旅をした、香港での出来事だった。

 初めて一人旅をしようと思ったきっかけは、はっきり覚えていない。ただ、その時期は、学生時代から5年間付き合っていた同学年の彼と別れたばかりだった。久々にフリーになって、解放的になっていたのだろう。だから、いつもと違う冒険をしてみたかったのだと思う。

 一人旅デビューに選んだ場所は香港。その理由は明確で、知り合いのマダムが住んでいたから。彼女に連絡をしてみると、「是非に!」というので、早速、2週間後に香港に行くプランを立てた。

 滞在二日目の夜、マダムとセントラルで待ち合わせ。ふたりでレストランへ向かう途中、彼女の携帯電話が鳴る。相手は、これから欧州に向けて出発するというマダムのご主人だった。なんでも、パスポートを忘れてしまったらしく、その焦った様子の声は、受話器を通して私にも筒抜けだった。   

「私は大丈夫だから急いで届けてあげて」

 あたふたしている彼女に、とっさに放った言葉だった。幸いにして、香港は治安がよく、一人旅初心者にも優しい場所だ。それに過去に2回訪れていたから、なんとなく土地勘もあり、ひとりで夜の街をブラブラするのも全く不安はなかった。

「これがレストランの住所。何かあったらすぐに電話してね」

 簡単に道順の説明を受けて、私は先にレストランへと向かい、飲んで待つことにした。

 レストランがあるソーホーは、インターナショナルな香港を象徴するかのように、欧米色豊かでお洒落なエリア。かと思えば、ローカル感溢れる昔ながらのショップも混在している、魅力ある街だ。普段は見慣れない景色に、私は気分が高揚していた。その中を、まるで宝探しをするかのように歩き、15分ほどで目的地に着いた。

 そのお店のオーナーの知り合いというマダムは、お店の常連でスタッフとも仲がいい。なので、私が行くという連絡はすでに入っていたようで、手厚いおもてなしを受けた。当時は、中国語、広東語はもちろん、英語もままならなかったから、どうやってコミュニケーションをとったのか忘れてしまったが、バーカウンターでいただいたアマレットがいつも以上に美味しくて、立て続けに2杯飲んだ、ということだけは記憶している。

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