セイコーの歴史をポイントとなるマイルストーンから見る(後編)

FEATUREWatchTime
2020.01.27

低価格帯のクォーツ時計、もしくは日本製ハイエンドウォッチであるグランドセイコーを手掛けるメーカーとして認識されることの多いセイコー。しかし、その時計作りの歴史が19世紀にまで遡り、世界初となる試みをいくつも実現させていることを知る人は多くない。ここでは、そのハイライトの後編をお届けする。

Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo
Edit by Tsuyoshi Hasegawa

7、ダイバーズ150M (1965年)

 日本初のクロノグラフ発売のわずか1年後、セイコーは初の日本製ダイバーズウォッチ、「セイコー ダイバーズ150M」を発表した。その名のとおりステンレススティール製ケースは150mの防水性能を持ち、直径は38㎜、厚さは13.4㎜であった。この時計には双方向に回転するベゼルが備えられ、ムーブメントは自動巻きキャリバー6217(17石、18,000振動/時)を搭載。当時、まだダイビングは趣味として珍しく、商品としては非常に特別なものであった。ダイビングが一般的になるにつれ、セイコーはダイバーズウォッチを更に進化させていく。1868年にはハイビート・バージョン(36,000振動/時)で防水性能が300mのモデルを投入。1975年に発表された初のプロフェッショナル仕様モデルは1,000mの防水性能を持ち、ダイバーズウォッチとして初めてチタン製ケースを採用した。また1868年に発表されたモデルの別仕様(初めての逆回転防止ベゼル付き)として、防水性能を1,000mに高めたものも合わせて発表している。ダイバーズウォッチに関するセイコーの自社基準は、ISOのダイバーズウォッチ基準を定める際に貢献しており、今日でも適用されている。


8、5スポーツ スピードタイマー (1969年)

1969年、セイコーの「5スポーツ スピードタイマー」はスイスの競合を打ち負かした。

 1969年は時計業界にとって重要な試金石イヤーであり、“自動巻きクロノグラフの大レース”が引き起こされた年とも呼ばれている。複数のスイスブランドと日本のセイコーが、自動巻きクロノグラフ・リストウォッチの製造と市場投入においてトップを競ったのである。この大レースの結果、現在でもアイコンとされているブライトリングの「クロノマチック」やゼニスの「エル・プリメロ」、ホイヤーの「モナコ」など多くのモデルが生み出された。ただし、市場に投入されたこれら自動巻きクロノグラフのなかで(厳密には1969年5月の時点で)、セイコーの「5スポーツ スピードタイマー」が、どこよりも先に世に送り出されたと言われている。世界初のこの自動巻きクロノグラフは、垂直クラッチとコラムホイール機構を特徴としており、30分積算計やタキメータースケール搭載のベゼル、革新的な日英表示を可能とするデイ・デイト表示を合わせ持っていた。21,600振動/時のハイビートなムーブメントは「cal.6139」。30㎜径のステンレススティール製ケースの防水性能は70mであった。


9、クォーツ アストロン (1969年)

 セイコーが自動巻きクロノグラフのレースに勝利したのと同じ年、機械式時計を時代遅れのものとする、ある意味恐るべき時計がそのベールを脱いだ。セイコーの「クォーツ アストロン」は、世界初のクォーツ式腕時計であり、大地を揺るがすような技術的革新の精髄であった。フォークのような形状のクォーツ振動子が、アストロンのムーブメント「cal.35A」に月差±5秒という、機械式ムーブメントに比べると非常に高い、驚くべき精度を与えたのである。ムーブメントは小さく薄く、ステッピングモーターが秒針を1秒に1回動かすことによりエネルギーを蓄えるという機構は、腕時計としてまったく新しい発明であった。振動子は耐衝撃性に優れ、消費電力も低く、1年を充分にカバーする電池寿命も注目すべき項目だ。面白いことにクォーツ時計は、マス・マーケット向けの低価格帯時計を開発したとの印象もあるが、最初の1本はまさにラグジュアリーな18Kゴールドケースを採用していたのである。


10、キネティック (1988年)

「キネティック」巻き上げとして紹介されたセイコーのA.G.S.。

 セイコーは1969年以降、機械式時計の革新を諦めたわけではなく、自社のクォーツ時計発表の後も、異なるタイプの技術を研究し続けていた。1977年にはソーラーパワーを利用する時計を、1986年にはクォーツ時計に手巻きを合わせたものを投入している。そして1988年には、セイコーA.G.S.という (後に「キネティック」として知られるAutomatic Generating System)新たな時代を拓く先進のテクノロジーを発表。人の動きを時計のムーブメントに収められたローターを介し、電気を生み出しクォーツムーブメントに供給するというものであった。


11、スプリングドライブ スペースウォーク (2008年)

セイコーの「スプリングドライブ スペースウォーク」は、宇宙の厳しい環境に適応するように作られている。

 セイコーは1999年、さらに新しい技術を時計シーンにもたらした。初の「スプリングドライブ」ムーブメントは、クォーツ振動子を採用するものの、機械式時計のように主ゼンマイをエネルギー供給の源とした機構である。導入時からスプリングドライブは、いくつものセイコーの時計に搭載され、そのなかにはグランドセイコーの現代版も存在した。おそらく最も注目に値するのは、ビデオゲームの立役者であるリチャード・ギャリオットが監修した「スプリングドライブ スペースウォーク」だろう。ギャリオットの父親はNASAの宇宙飛行士であり、なおかつセイコーの愛用者。自身も2008年には国際宇宙ステーションを訪れているという(ギャリオットの当初の目的は、物理的なものではなく、宇宙空間を歩く最初の一般市民となることであり、時計の名前はそこに由来する)。100本のリミテッドエディションにてリリースされたそのモデルは、宇宙飛行に特化しており気密性に優れ、極低温にも耐えられるようガスケットを内蔵する。軽量なケースは強度を高めたチタン製で、大きな文字盤によってクロノグラフのサブダイアルの視認性は高く、通常の夜光より塗料を3倍使用している。またクロノグラフの大きなプッシャーは、分厚い宇宙服のグローブをはめた状態でも操作しやすいようデザインされた。


12、GPSソーラーアストロン (2012年)

時計業界を塗り替える可能性を秘めた、セイコーのGPSソーラーアストロン。

 セイコーのCEOである服部真二(創業者の末裔)は、間違いようのない明確なメッセージを、2012年のバーゼルワールドにおいて発信した。それはセイコーの太陽光発電GPS時計にアストロンの名を与えたときであり、クォーツによる時間計測を世界にもたらしたセイコー アストロン1号機同様、新しい「GPSソーラーアストロン」は、時計技術において大きな変革をもたらす可能性を秘めた完全に新しい発明品として紹介したのであった。アナログ式かつ太陽光発電の時計は、衛星からのGPS信号を受信し、地球上のどこにいても正確な現地時間に自動調整する。39のタイムゾーンを認識し(機械式時計の表示は最大37である)、マニュアルでもリセットが可能である。アストロンはまずGPSにて現在位置を特定し地球全体を網羅する。それから特定のタイムゾーンに直結する地球表面を100万の正方形に分けたデータベースと照らし合わせて情報を比較するのだ。アストロンのシステムは、原子時計が発する地上のラジオ波を受信するラジオコントロールより優れており、どのタイムゾーンに位置するのかの自動検出が可能なのだ。