世界を股に掛けるIWCの「パイロット・ウォッチ・タイムゾーナー・クロノグラフ」(後編)

FEATUREWatchTime
2020.03.30

旅の最高の相棒として開発されたIWCの「パイロット・ウォッチ・タイムゾーナー・クロノグラフ」。ベゼルを回転するだけで新しいタイムゾーンを表示し、内蔵されたフライバック・クロノグラフが、このリーズナブルな価格のタイムピースを特別なモデルへと押し上げている。

Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter
Photo by Olaf Koster
Edit by Tsuyoshi Hasegawa

タイムゾーナー・メカニズムへの技術応用

 IWCはVogt氏の発明をさらに進化させた。例えば、タイムゾーナー機構を使用する前に開く必要があった大きなレバーがケースには必要なくなった。その代わり、この機構はすべてケースの左側に収められ、良く見るとわかるぐらいの細い溝がラグ方向に延びるだけとなったのだ。

 IWCのエンジニア達は3つの技術をタイムゾーナー・メカニズムに応用している。1つめが「パイロット・ウォッチ・ ワールドタイマー」からシティリングを流用している。これはそれぞれのタイムゾーンに1つの都市を適用しているものだ。2つめは、バネを利用した回転ベゼルだ。当初は1980年代に、ポルシェデザインの「オーシャン2000」に使用されていたものである。3つめは回転ベゼルの外側と内側に見られる「アクアタイマー」のシステムである。このシステムは外付けになっているベゼルの動きをディファレンシャルギアの輪列によって、2番車、24時間表示針、デイトの歯車に伝えるのである。それに加え、IWCはタイムゾーナー機構を自社製クロノグラフキャリバー89760に組み合わせたのだ。これはベゼル由来の機構であるがゆえに、よくあるモジュラー式とは異なる解決方法である。

 クロノグラフ機構への組み込みはVogard社時代、このデイト表示と調整方法が特許を取った3年後の2008年に既に実績例があった。今回は、調整された時刻との直結ではなく、タイムゾーンとの組み合わせであった。これにより、時針と24時間表示針が真夜中を過ぎた時点での、早送り及び巻き戻しが可能となったのだ。独立系時計師のAndreas Strehlerがどちらの開発にも携わり、最初の設計の考案と実機化は、時計師のThomas Prescherとの協力体制によって進められた。

パイロット・ウォッチ・タイムゾーナー・クロノグラフ

経過時間の計測:12時位置のカウンターにより、クロノグラフの稼働時間が一目で視認できる。

 このシステムは、他のワールドタイマーに比べると驚くほどシンプルである。ベゼルがロックされる動きがムーブメントを通じて2番車と時針、そして24時間表示針とデイト表示につながる歯車へと伝えられる。これによりすべての表示が、早送り・巻き戻しの両方向に調節されるのである。ディファレンシャルギアの輪列はタイムゾーンの調整中、時針のジャンプにエネルギーを供給すると同時に、時針の稼働にもパワーを供給する。ムーブメントはその間も分針・秒針、クロノグラフの操作を司り、調整の間も影響を受けることはない。そのため、ワールドタイムの調整中も正しい時間を表示し、今回の検証でも見られたように、調整する楽しみを常に与えてくれるのである。

 時間計測はというと、IWCの自社製自動巻きキャリバー89760が安定した精度により、このワールドタイマーを稼働させている。採用される機構によりクロノグラフを繰り返し稼働させた際にも、日差+2.9秒という結果であった。特筆すべき便利な点は、経過分と時は12時位置にあるサブダイアルを共有し、通常の文字盤同様に直感的な視認性に優れている部分だ。

稀少な組み合わせ

 クロノグラフの稼働が他の機能を阻害しないため、少しうまく使えば、2つ目の時間計測を行うことが可能だ。それに加え、クロノグラフにはフライバック機構が備わっているため、現在計測している時間からすぐに次の時間の計測に移ることもできるのだ。

 ムーブメントはIWCらしい特徴をしっかりと備えている。堅牢な仕立てに加え、巻き上げに採用されたラチェット機構と68時間のパワーリザーブがまず挙げられる。このムーブメントは2007年に、正真正銘シャフハウゼン製初となるクロノグラフ89360で始まった、89000系キャリバーの流れを汲んでいる。89365にもフライバック機構が搭載され、89800をさらに進化させたことによる日付と月のデジタル表示を搭載する。他のコンプリケーションとの融合もキャリバー89630(パーペチュアルカレンダー)や89900(トゥールビヨン)などに見られる。一方今回の検証で使用された89760は、日常的に使いやすいよう、便利な改良を加えたものといえる。時計市場において、ワールドタイムとクロノグラフの組み合わせたモデルを見かけることは多くない。この珍しい組み合わせこそ、IWCの「パイロットウォッチ タイムゾーナー クロノグラフ」が、セールでもないのに税抜137万5000円という価格も相まって、より魅力的に見せる一因となっているのだ。

パイロット・ウォッチ・タイムゾーナー・クロノグラフ

典型的なIWCスタイルのムーブメントであるキャリバー89760は、ソリッドバックを擁するケース内に収められている。そのケースにはタイムゾーナー機構が組み込まれ、ムーブメントへ伝達する様子が左側に見て取れる。

 両面に反射防止加工が施され、急激な減圧にも耐えるサファイアクリスタル製風防の下に、IWCのパイロットウォッチの典型的なスタイルを確認することができる。パイロットウォッチおいて視認性は大きな問題だ。特にこのモデルでは夜間に発揮されるブラックとホワイトという強いコントラストを描く数字と針がその要素を担っている。このカラーリングは、デイト表示にも採用されており、ブラックのディスク上に記された数字は、真夜中に徐々に表示を変えていく。文字盤外周にくっきりと記されたスケールは、ミニッツと経過秒の2つを表示する役割が与えられている。24時間表示はアワーインデックス内側に設けられ、アンスラサイトカラーにより目立たないようデザインされているのだ。

 これらの外観的特徴から、IWCの「パイロット・ウォッチ・タイムゾーナー・クロノグラフ」は、クラシカルなパイロットウォッチの系譜を受け継いでいることは明白である。パイロットウォッチのはっきりとした特質を前面に、その他の機構やそれに付随するスケールは機器のような佇まいにて、パイロットスタイルのエレガンスを今に伝えている。

技術仕様

マニュファクチュラー:IWC Schaffhausen, Baumgartenstrasse 15, 8200 Schaffhausen, Switzerland
リファレンスナンバー:IW395001
機能:時、分、スモールセコンド、デイト、クロノグラフ(センタークロノグラフ針、経過分・秒を同じカウンターで表示)、フライバック、回転式ベゼルと24時間表示を用いたワールドタイム
ムーブメント:89000をベースとしたIWCキャリバー89760、自動巻き、28,800振動/時、39石、Glucydur製テンプ、ニヴァロックス製ヘアスプリング、4本のネジを採用したフリースプラング、インカブロック耐震装置、パワーリザーブ68時間、直径30.0㎜、厚さ8.4㎜
ケース:ステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル製風防(両面無反射加工)、急減圧耐性、ソリッドケースバック、60m防水
ストラップ&クラスプ:Santoni社製カーフスキンストラップ、片開きフォールディングクラスプ

精度安定試験(秒単位日差、完全巻き上げ時/24時間後)

着用時:+1.6
文字盤上:+4.1/+3.4
文字盤下:+4.7/+3.8
3時上:+0.6/-0.1
3時下:+1.4/+1.4
3時左:+2.0/+0.8
最大姿勢差:4.1/3.9
平均日差:+2.6/+1.9
平均振り角
水平姿勢:308゜/296゜
垂直姿勢:278゜/261゜
サイズ:直径45.83㎜、厚さ17.03㎜、重量162.5g
価格:137万5000円(税別)


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2020-05-28 18:30:22