エベラールが作り続けてきた魅惑のタイムピースとその変遷(後編)

FEATUREWatchTime
2020.12.30

イタリアの時計愛好家たちが1世紀以上にわたってエベラールの時計を愛用してきたのに対し、アメリカのコレクターでその歴史とコレクション展開について詳しく知る人間はごくわずかだ。しかし、GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)において歴史的に重要なモデルが受賞したことで、エベラールはアメリカでも一躍注目されることとなった。あまり知名度がないこのブランドの歴史について、2回にわたって紹介する。

エベラールが作り続けてきた魅惑のタイムピースとその変遷(前編)
https://www.webchronos.net/features/58058/

エベラール

Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo
Edit by Yuzo Takeishi
2020年12月29日掲載

スカフォグラフの復活

スカフォグラフ

「スカフォグラフ」の進化の歴史。

「スカフォグラフ 300」のデザインは時代やトレンドに打ち勝った象徴として、2016年に復活を果たした。より大きくなった43mmのステンレススティール製ケースをはじめ、セラミックス製の逆回転防止ベゼル、スーパールミノバを塗布した針、一体型のブラックラバーストラップなど、多くの要素がモダンにアップデートされているが、ダイバーズウォッチが人気を博していた時代のオリジナルモデルにオマージュを捧げた、レトロな佇まいとなっている。

 しかも、ヒトデが刻印されたスクリューバックの内部には、約40時間のパワーリザーブを実現する自動巻きキャリバーETA 2824-2を搭載。現在のエベラールを牽引するのは、チューダーの「ヘリテージ ブラックベイ ダーク」やタグ・ホイヤーの「モンツァ」といった強豪を制し、2016年のGPHGスポーツウォッチ部門で受賞を果たした「スカフォグラフ 300」であろう。

スカフォグラフ GMT “ブラックシープ” エディション

「スカフォグラフ GMT “ブラックシープ” エディション」

 復刻モデルが受賞を果たしたことをきっかけに、エベラールは「スカフォグラフ」にふたつの新バージョンを追加した。17年に発表された「スカフォグラフ GMT」は、ダイアルに3つのタイムゾーン表示を備え、ダイアルと同色のラバーストラップを付属したブルーとブラックの2色をラインナップする。

 43mmケースのケースバックにはヒトデの代わりにデザイン化された地球を刻印。双方向回転式のセラミックベゼルを採用したことで、タイムゾーンを設定する際にはGMT針と連動させやすくなっている。もっとも、このモデルはダイバーズウォッチというよりもむしろ「デスクダイバー」と呼べるもので、防水性能は100mとなっている。

 そして18年のバーゼルワールドでは、直径38mmのステンレススティール製ケースにセラミックベゼルとマザー・オブ・パールのダイアルを組み合わせたレディスモデル「スカフォグラフ 100」のほか、直径43mmのDLCコーティングケースにブラックセラミックス製ベゼルを組み合わせ、さらにオレンジのGMT針を採用した「スカフォグラフ GMT」のリミテッドエディション「ブラックシープ」を発表。

 ペゼリコによれば「ブラックシープという表現をポジティブな意味に解釈し、大勢のなかでも他者とは違っていたいと考える人のための時計を作った」ということだ。


パワーを求めて:約8日のロングパワーリザーブ

 防水性能の追求に加え、エベラールは長時間パワーリザーブを備えた自動巻き腕時計の製作にも取り組んできた。1997年、機械式時計の復興が加速するなか、同社は「8ジュール(8デイズ)」というシンプルなネーミングのモデルを発表。これは2本の主ゼンマイを重ね合わせた特許取得済みのモジュールを搭載したモデルで、ゼンマイの長さは(約30cmが標準なのに対し)2本を合わせると1.5mにも達するものだった。

8ジュール グランタイユ

「8ジュール グランタイユ」

 これによりベースムーブメントは約8日間のパワーリザーブを実現し、「着用者が週に1回だけ巻き上げればよい時計を作る」というエベラールの目標を達成したのだ。ダイアルのデザインは非対称。左側にパワーリザーブ表示をレイアウトし、サファイアクリスタル製のケースバックからは8の字のシルエット越しに大きな香箱を支えるブリッジが確認できる。そして「8ジュール」のオリジナルモデルは直径39.5mmのケースサイズだったが、直後にはトレンドを取り入れ、42mmサイズの「グランタイユ(ビッグサイズ)」を発表。1990年代後半から2000年代初頭にかけて高まっていた大型時計への需要に応える形で登場した「グランタイユ」のケースサイズは、その後のエベラールのコレクションにおいて定番となっている。


カーレースからのインスピレーション:タッツィオ・ヌヴォラーリ

 イタリアのデザインと文化に根差したエベラールは、もちろん、カーレースにおけるアイコニックな人物との間にも深い関係性を築き上げている。タッツィオ・ヌヴォラーリ(1892-1953)は「Montovano Volante」「Flying Mantuan」(空飛ぶマントヴァ人)の異名を持つレーサー。

 オートバイレースからカーレースに転向した後はアルファ・コルセ、スクーデリア・フェラーリ、マセラティなどのチームでレースに参戦し、グランプリレースを24回も制覇。フェルディナント・ポルシェから「過去、現在、未来におけるもっとも偉大なドライバー」と評され、カーレースのファン、特に母国イタリアのファンから尊敬され続けているほどの存在だ。

タッツィオ・ヌヴォラーリ

ヴィンテージレーシングカーに乗るタッツィオ・ヌヴォラーリ。

 この伝説的ドライバーの生誕100周年にあたる1992年、エベラールは「タッツィオ ヌヴォラーリ クロノグラフ」の第1弾を発表した。このアイデアは69年に創業家から会社を買収したパルミロ・モンティの発案で、イタリア市場との結びつきをより強固なものとした。

「69年以来、エベラールはイタリア人一族が所有するスイスのブランドとなっています」と語るのはペゼリコだ。「しかし、ルーツはさらにさかのぼります。なぜなら創業者の家族である(モーリス)エベラールが50年代にイタリアに旅行した際、非常に強固な販路を構築していたのです。同じ時期、ヌヴォラーリはレースの世界で伝説となりつつありました。つまり、この偉大なレーサーの記憶に敬意を払う時計を作ることは、私たちにとって意味のあることだったのです」。

タッツィオ ヌヴォラーリ “ネイキッド” クロノグラフ

「タッツィオ ヌヴォラーリ “ネイキッド” クロノグラフ」

「タッツィオ ヌヴォラーリ」コレクションのマイルストーンは2013年に発表されたが、そのインスピレーションの源泉は1936年までさかのぼる。この年、ヌヴォラーリはニューヨークのルーズベルト・レースウェイで12気筒のアルファ ロメオを300マイル走らせ、有名なヴァンダービルト杯を獲得。これを祝して作られた時計は「“ネイキッド” クロノグラフ」と呼ばれ、コレクションで初めてブラックダイアルとホワイトのアラビア数字インデックスを採用していた。

 また、このモデルには30年代の同社製クロノグラフで初採用された、プッシュボタンと巻き上げのリュウズを同軸とした機構も組み込まれていた。2017年、エベラールは、クロノグラフのみで展開されていたコレクションに自動巻きの3針モデルを追加。シンプルなルックスとリーズナブルな価格帯によって、ファンを魅了した。

 18年のバーゼルワールドでは「ヌヴォラーリ レジェンド」を発表。ブラックダイアルのクロノグラフに夜光性のアラビア数字インデックスを配し、12時位置の分積算計と6時位置の12時間積算計に挟まれる形でヴィンテージ調のスパイラルタキメーターがレイアウトされている。スクリューバックにはアルファ ロメオ 12Cが描かれ、ケースサイズは39.5mmと43mmの2種類をラインナップ。レトロなルックスにヴィンテージライクなレザーストラップを合わせ、この時計をさらに魅力的なものにしている。

ヌヴォラーリ レジェンド

「ヌヴォラーリ レジェンド」


ダッシュボードデザイン:クロノ 4

 現在のコレクションのなかでもっとも有名なモデルは、おそらく01年に発表されたものであろう。そのDNAは、エベラールとヌヴォラーリとのつながりにまでさかのぼることができる。05年に他界したモンティの発案により誕生した「クロノ 4」は、クロノグラフに新たなデザインをもたらしたモデル。それは、エベラールが抱える多くのイタリア人顧客が絶賛するレーシングカーのダッシュボードに着想を得たもので、エベラールが特許を取得している。

 スケルトン加工の針を採用し、12時位置にはデイト表示を配置。ダイアルの下部には、4つのインダイアルを横一線にレイアウトし、それぞれクロノグラフの分と時間、24時間表示、スモールセコンドとなっている。この特徴的なデザインを実現するため、エベラールはETA 2894-2をベースに、独自のモジュールを開発した。

「この20年から30年間のクロノグラフを見ると、そのほとんどが3、6、9時、または3、6、12時のインダイアル配置になっています。エベラールではその配置を変え、異なる方法で計測時間を読み取れる時計を作りたかったのです。インダイアルのレイアウトに合わせて既存ムーブメントを調整することは難しく、開発には3年がかかりました」と、ペゼリコは説明する。

クロノ 4

2001年にデビューした「クロノ 4」。

 ビッグサイズが流行した時期にデビューしたケース径40mmサイズの「クロノ 4」は、その後さらなる大型化を進めていく。08年に43mmの「グランタイユ」バージョンを、10年にはケース径46mmの「クロノ 4 ジェアン」を発表した。ビッグサイズのモデルは、それまで小さくする必要があった水平配列のインダイアルをわずかに拡大することができたため、デザイン面では有効であった。

 そしてコレクションが拡大するにつれ、3つのバージョンすべてが、新しいダイアルカラーとチタンなどのケース素材を採用し続けたのである。なかでももっともアバンギャルドなモデルは、2013年に発表された「フルインジェクション」のジェアン・バージョンで、カーボンコーティングを施したスチールケースと、スポーティなレッドのアクセントカラーが目を惹くコート・ド・ジュネーブ仕上げのダイアルが特徴だ。

「クロノ 4」が発売されてから、エベラールはそのデザインに手を加えてきた。最も極端なのはトノー型ケースを採用した「テメラリオ」で、4つのインダイアルを文字盤の右側に縦一直線にレイアウト。プッシュボタンも11時と1時位置に配置され、それは「ブルヘッド」をも想起させるデザインだ。このモデルには特許を取得した3つの技術が採用されているが、なかでもクレバークラウンアクセスシステムは、ケースバックに隠されたレバーを使ってリュウズをケースの12時位置に隠せる機構だ。

クロノ 4 “フルインジェクション” ジェント リミテッドエディション

「クロノ 4 “フルインジェクション” ジェント リミテッドエディション」

 GPHGでの受賞によって、エベラールはより高い世界的知名度を獲得。これにより、ペゼリコは、今まで不完全だったアメリカ市場にしっかりとした足跡を残す時期が来たことを理解したようだ。

「アメリカ市場に参入して数年が経ったが、その道のりは平坦ではなかった。エベラールは常にそこに存在し、変わることはありませんでしたが、市場の開拓は困難でした。しかし、私たちは解決策を見つけたのです。私たちにはパートナーがいます。そしてイベントに参加し、ディーラーとのコミュニケーションを密にしていこうと考えています。アメリカ市場は大きな可能性を秘めているからこそ、市場を再建したいのです。あとは時間だけの問題です」


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