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ジェラルド・ジェンタの全仕事 Part.2(1/4)

マエストロ・ジェンタの足跡
初期作品から最後の素描[ドローイング]まで

生前に10万枚を超えるドローイングを残した、ジェラルド・チャールズ・ジェンタ。
彼は有能なデザイナー兼プロデューサーであり、かつ“辣腕のセールスマン”でもあった。
半世紀以上にわたるジェンタデザインの歩みを、改めて俯瞰することにしたい。

広田雅将、鈴木裕之:取材・文 吉江正倫、三田村 優、ヤジマオサム:写真
[アイコニックピースの肖像 特別編/クロノス日本版 2012年3月号初出]

ジェラルド・チャールズ・ジェンタ/1931年スイス生まれ。51年に宝飾学校卒業後、ジュエリーデザイナーとなる。54年に時計デザイナーに転向(公式な資料では61年から)。69年に自身の名を冠したデザイン事務所を創設する。一時期引退するも、ジェラルド・チャールズで復活を遂げた。2011年死去。

 日本のコレクターと日本の時計雑誌が、私の名前を知られるようにしてくれた。ロイヤル オークが成功を収めた際、日本人は誰がデザインしたのかを知りたがった。日本のジャーナリストたちが、私の名前を世に出してくれた。したがって、今日でも日本と私の関係は特別なんだ」(『レボリューション』2006年4月号)。

 時計界のピカソと称されたジェラルド・チャールズ・ジェンタ。彼の歩みを記したものは決して少なくない。すでにギスベルト・L・ブルーナーやルシアン・F・トリュープといった第一級のジャーナリストも、ジェンタに関する記述を行っている。彼ら先達の後に書くことは、正直あまりなさそうだ。しかし、自身のインタビューはほとんど残っていない。ジェンタを初めて見出した日本人が、彼について書く意義はあるだろう。生前、最後のまとまったインタビューを行ったのは、他ならぬ本誌なのだ(2006年3月号/広田)。

1931年にジェンタは、イタリア系移民の両親の元に生まれた。彼はジュエリー製作の勉強を行い、優秀な成績で卒業したが、職の募集がなかった。ジュエリー学校の卒業後まもなく、彼はジュエリーに使う道具をジュネーブの橋から投げ捨て、ジュエリー職人と、そして人の下で働くことを止めると誓った。彼はフリーランスのデザイナーとなった。54年頃からジェンタは時計のデザインを開始。社外デザイナーとして、彼はさまざまなメーカーのデザインを行った。転向の理由を、彼は筆者にこう語った。「本当は服飾のクチュリエになりたかった。でも食べていくために時計デザイナーになるしかなかった」。一枚15スイスフランでスケッチを売る彼に転機が訪れたのは、68年のことである。ユニバーサル・ジュネーブ向けにデザインした「ゴールデンシャドウ」が国際ダイヤモンド賞を受賞したのである。これに勇気づけられた彼は、69年にデザイン事務所「ジェラルド・ジェンタSA」を創業した。


 新進気鋭の時計デザイナーに特に注目したのは、ユニバーサル・ジュネーブとオーデマ ピゲ、そしてセイコーである。オーデマ ピゲとのコラボレーションは、72年の「ロイヤル オーク」に結実する。しかし、より興味深いのはセイコーだろう。この時代、彼はセイコーに対して数多くのデザインを行っている。ジェンタは決して語らなかったが、ロイヤル オークが成功を収めてからも、セイコーは大きな顧客だったのである。他にもOEM製品のデザインも数多く手がけているが、ジェンタは決して顧客の名前を明かさなかった。例外は自社工房で製造したフレッドやヴァン クリーフ&アーペルだが、これらはムーブメントにのみ、GGのサインが記されている。

 ジェンタの言葉に従うなら、彼の名が世に出たのは、日本のコレクターがきっかけであった。ジェンタは興味深いエピソードを語っている。「ロイヤル オークのデザイナー名が知られるようになって、IWCはあわてて私の名前を出すことを認めた。当初はパテック フィリップも、私がノーチラスをデザインしたとは言えなかった」。

 セイコーも引き続きデザインを委託。Part.1の「クレドール・ロコモティブ」が一例である。また社外へのデザイン提供と並行して、彼はジェラルド・ジェンタSAの拡充も図った。かつての日本のインポーターはこう述べる。「デザインばかりに注目するジェンタに対して、ピエール・ミッシェル・ゴレイが、本物の時計を作ろうと誘った」。73年、彼はゴレイと共同で、グランソヌリを搭載したポケットウォッチと、初の永久カレンダーを製作した。なお複雑時計の製造にあたって、ジェンタはジュネーブだけでなく、ル・ブラッシュにも工房を構えた。96年に会社を売却するまで、ジェンタとゴレイは、二人三脚でジェラルド・ジェンタSAを発展させていく。

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