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フランク ミュラー/カサブランカ Part.3(1/4)

意図的に仕組まれたコレクターズピースの資質

独創的な造形と優れた品質を両立させたカサブランカ。加えてこのコレクションには、愛好家を引きつけるべく、
もうひとつの要素が盛り込まれた。それが意図的に仕組まれた“イレギュラー”の存在である。
各世代を問わずに見られるさまざまな違いは、なるほど気鋭の独立時計師が手掛けたモデルならではだ。

吉江正倫:写真
広田雅将(本誌):取材・文
[連載第35回/クロノス日本版 2016年9月号初出]

 トノウ・カーベックスがいつ誕生したかについては、関係者の間でも意見が分かれている。1980年代初頭にはあった、と述べるのはヴァルタン・シルマケスだ。対してフランク・ミュラーは86年が初出だと語る。彼はその経緯をこう語っている。有名なエピソードだがあえて再掲したい。

CASABLANCA 5850 3rd Generation Models
初出は2003年頃。ケース形状は第1、第2世代にほぼ同じ。しかし裏ブタ側に向けてわずかに絞り込まれたほか、ラグ内側の加工が良くなった。第2世代に比べてインデックスが大きくなった他、ロゴの湾曲も大きくなった。自動巻き(ETA2892A2)。21石。2万8800振動/時。SS(縦45×横32mm)。3気圧防水。105万円。

CASABLANCA 5850 1st Generation Models
1994年初出。小さなインデックスと、横に広がったロゴが、第1世代の特徴である。なお最初期の個体は、18Kローターに変更されたETA2829A2を搭載する。以降はプラチナローターに改められた(現行品は外周のみプラチナに変更)。ストラップは手縫いのJ.C.ペラン製。2000年頃まで製造されたとされる。

 

 フランク・ミュラーがコレクターのイタリア人夫妻と会食をした際、夫人はこう述べた。「あなたの時計は機械こそ素晴らしいが、デザインに個性がない」。対して彼はリピーターに永久カレンダー機構を加えたムーブメントを製造し、それをトノーケースに収めてみせた。このモデルは、86年のイタリア・ビチェンツァ見本市に出展され、フランク・ミュラー曰く「ここでとても人気が出た」(前掲書『フランク・ミュラー』より)。併せて彼はこの時計の文字盤に、デフォルメされたビザン数字を採用。トノウ・カーベックスにビザン数字の組み合わせは92年の量産型(2850QP)にそのまま転用された。

 「1992年に発表した時計は、デザイン的にはまったく同じです。一点モノか量産品かの違いです」(同『フランク・ミュラー』)。

 これをベースにしたのが、防水性能を持たせた2851ケースであり、量産向けにモディファイを加えた2852ケースであった。サイズがわずかに変更され、防水性能が高められた2852ケースは、いわばすべてのトノウ・カーベックスの祖となった。2852ケースなくして、カサブランカの成功はなかったといえるだろう。

 フランク ミュラー初の量産モデルとなったカサブランカ。とはいえ、生産本数は極めて少なかったし、顧客もコレクターが大半だった。そのためミュラーはこの〝普通の時計〟にさえ、コレクター心理をくすぐる要素を加えようと試みた。とりわけ1994〜2000年前後まで作られたとされる第1世代機に、そういった「遊び」は顕著だ。

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