良質な時計の選び方/時計を買う際、何を見ればいいのか? その3

FEATURE良質な時計の選び方
2020.05.25

前回は「装着感」を左右する条件を伝えた。今回は、時計と長く付き合うのにもっとも大事な条件「視認性」についてである。

時計を買う際、何を見ればいいのか? その1
 https://www.webchronos.net/selection/11352/
時計を買う際、何を見ればいいのか? その2
 https://www.webchronos.net/selection/11556/

広田雅将(クロノス日本版):文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

視認性は長く付き合うのにもっとも大事な条件

 着け心地と並んで大事な条件が、視認性、つまり見やすさである。もっとも、視認性を考える際にまず考えるべきは、自分の年齢である。仮にあなたが20代ならば、文字盤上の複雑な表示であっても、すべて読み取れるだろう。しかし老眼が進むと、細かい表示は読みにくくなる。しばしば一生物として、極めて複雑な時計を買う人がいるが、もし本当に一生使いたいならばシンプルな方が老眼には優しいだろう。


時計自体の視認性を左右する要素は大きくふたつである。

・針、インデックス、文字盤のコントラストが明確なこと
・風防に無反射コーティングが施されていること

 時計で時間を示すのが、針と文字盤上のインデックスである。例えば文字盤の色が黒で、針とインデックスが白ければ、両者のコントラストが強調されて、視認性は高まる。プロフェッショナル向けを謳った時計には、そういう例が少なくない。また時計メーカーの中には、文字盤と針、そしてインデックスのツヤをコントロールして、コントラストを高めた例がある。セイコーの「グランドセイコー」には、文字盤の仕上げがツヤ消し、針とインデックスがツヤありというモデルが存在する。色のコントラストは黒×白ほど明確ではないが、強い光にかざすと、インデックスと針だけが光って、時間が読み取りやすくなる。もっとも、色ではなく仕上げでコントラストを強調する時計の場合、人工光の下で見ても、視認性が良いか悪いかは判断しにくい。そういう場合は、太陽光に近い条件で時計を見ることが望ましい。具体的には、一方向の光源下で、かつ光度が高い光に当てた場合である。

1枚のサファイアクリスタルでコーティングを変えた例。右端が両面コーティング、中央が片面のみ、左がコーティングなし。本ページ上部に掲載した製品写真で見ると違いがより際立つ。右がコーティングなし、左が両面無反射コーティングだ。

 また視認性を重視するならば、文字盤をカバーする風防に無反射コーティングされているものを選ぶと良い。特に黒文字盤の場合、風防に無反射コーティングが施されていると、視認性は一層高まる。なお無反射コーティングにはふたつの種類がある。内側だけコーティングしたものと、内側と外側にコーティングを施した物(両面無反射コーティング)である。視認性だけをいうと、両面にコーティングがあったほうが望ましい。しかし無反射コーティングは、基本的には風防にフッ素を施す処理であり、風防を強くぶつけると外側のコーティングがはがれる場合がある。現在のスイス製時計ではあまり起こらないが、10年ほど前では比較的起こった問題である。

 コーティングのはがれが気になる場合は、無反射コーティングなしの時計を選ぶと良い。ちなみにロレックスの「デイトジャスト」は、日付表示を拡大するレンズ以外には、無反射コーティングが施されていない。


時計店での時計の見方

 着け心地を確認するなら腕に置くしかないし、視認性を確かめるには、強い光にかざすしかない。実際に装着感と視認性を判断するには、時計を実際に売っている店に出向くのが一番良い。ただし時計店は、扱いが分からない人に時計を触られることを好まない。一見ならなおさらだろう。ではどうすればケースから出して、腕に乗せることができるのか。

・傷を付けないこと
・ベルトを留めないこと
・落としても大丈夫なところで見ること

 この3つである。店に並んでいる時計は基本的に売り物である。そのため傷が付くと返品して、修理する必要がある。そのために店に並んだ時計は、傷が付かないよう基本的にはラップなどでくるまれている。そういった時計を触る際は、指輪やブレスレットなどを全部外すこと。万が一ぶつかると、傷が付く可能性があるためだ。

 また装着感を確認する際は、バックルをストラップに通さないこと。ストラップに通してしまうと穴が広がり、売り物にならなくなる。そして最後が、落としても大丈夫なところで見ること。時計を見る場合は、きちんとした時計店であればトレーを出してくれる。その上で見れば、落としても傷が付く心配は少ないだろう。

装着感をお店で確認する際は、決してストラップを通さないで腕に載せる。これは常識。不測の事態を避けるため、下にはトレーを置いておきたい。