ミドリフグさんのブログ

(一般に公開)

Zenith 出撃状況管理クロック 最終回【地獄の精度調整編】2025年10月25日06:49
皆様ごきげんよう。
前回無事?にムーブメントの修復作業も終え、今回は最終回・地獄の精度調整となります。
最終回というかエクストラステージって感じですが…

<現状の確認>
前回の部品徹底洗浄が功を奏し、元気に動くようになりましたが、ビートエラーが1.6msとなっており、テンプの動作がアンバランスな状態となっております。

<ビートエラーとは>
専門家ではないのであまり詳しくは語れないのですが(3回目)、ざっくり言うと、「テンプの回転角が正反で均等でないため片側に多く振れている状態」です。例えばテンプが320°回転している場合、正常な状態ならば振動の中心から正反ともに160°ずつ回転しているわけです。しかしビートエラーが生じていると、例えばこれが正方向に200°、反方向に120°回転しているといったアンバランスな状態となります。
これは天真にはめ込まれているヒゲ玉の取り付け角度が適切でないため、テンプの振動の中心でアンクルを動かすための振り石が中心に来ていないことが原因となります。

<じゃあ結局どうすりゃいいんだよ>
対策は至極単純で、「テンプの振動の中心で振り石が中心に来るようにヒゲゼンマイをずらしてあげる」です。つまり、ゼンマイをほどいた(ヒゲゼンマイがフリーな)状態の時、アンクル芯とガンギ車の芯を結んだ線上に振り石が来るようにヒゲゼンマイの取り付け角度を調整してあげればいいのです。
まぁその、たったそれだけのことがクソほどに大変なのですが…(汗)

<ヒゲゼンマイの調整(写真1)
具体的には写真1のようにテンワを吊るしてあげて、できたヒゲゼンマイの隙間に棒を突っ込んで(もちろん傷つけたらダメですよ)矢印の方向にヒゲゼンマイを固定するヒゲ玉(金色の部品です)を回転させて、振り石が中心になるようにしてあげます。とはいえ、ビートエラー1.6msともなるともはや目視では識別が不可能ほどの差異なので、ある程度位置を詰めたら

 1.ヒゲ玉の調整
 2.テンプの取り付け
 3.ゼンマイ巻く
 4.タイムグラファーで測定
 5.ゼンマイほどく
 6.テンプ外す
 7.1に戻る

上記工程を0.0~0.2ms程度になるまで繰り返します。
ヒゲ玉を動かすのも、もはや目視と指先の感覚では動いたのかどうかもわからないレベルの微調整です。「あっ動いた」と感じるほどに動かしたら確実にビートエラーが振り切れるのでこれまでの苦労が一瞬で水泡と化します(笑)
なお、テンプを吊るすのに専用の工具があるのですが、そんなもの持っていないので今回は万力と割り箸で代用しました(笑)

<最終結果(写真2)
90分に及ぶ格闘の末、ようやっとビートエラー0.0~0.1ms程度まで持っていけました。ビギナーズラックもいいとこです。もはやあの時の指先の感覚は覚えていません(というか、そもそも何も感じていません)ので、今同じ事やっても同じ時間でできる気がしませんね…
ともかく、これで後は歩度調整をしてあげるだけですが、この時計は掛け時計なので6時下に合わせて調整してあげればいいので楽ですね。

<番外編:各向きでの測定>
が、やはりせっかくここまで頑張ったのですから参考値として色んな角度で測定してみました(笑)
さて、Cal.271のポテンシャルはいかほどか…

         歩度(s) 振り角(°) ビートエラー(ms)
6時下 (基準):  -1    291      0.0
  文字盤上:  -5    345      0.0
  文字盤下:  -3    352      0.1
   12時下:  -8    260      0.2
    9時下:   0    267      0.1
   3時下:  -11    250      0.2

文字盤上下方向で振り角が元気ありすぎですがまぁ使わない置き方なのでこれでいいのではないでしょうかね…(汗)
個人的に、優れたシステム・設計というのは「誰が触っても同じ結果が出せるもの」だと思っていますが、Cal.271はド素人の私でもまぁここまで精度詰めれるのですから、こんなものが100年近くも前に開発されていたというのが本当に驚きですねぇ…
マリンクロノメーターにも使われているムーブメントですからそりゃポテンシャルは高いでしょうね。

<終わりに>
最初は整備だけして棚に飾るだけの予定だったのですが、なんか愛着が湧いてしまったので今では普通に実用しております(笑)(写真3)
もう置く場所がないため、すっかりSTAR WARSブースに時計が侵食しております(笑)
作業自体は結構前に終わっているのでそれなりの期間動作を見守っておりましたが、1週間でせいぜい30秒もずれないです。8日巻きなので毎週はじめに儀式としてゼンマイ巻いてあげ、たまにズレた時間を調整してあげております。
いやぁ~戦争のためだけに作られた時計がこうして平和な日本で間抜けなオーナーの元、正確な時を再び刻んでくれていると思うとなにやら感慨深いものがありますね~。

ということでこれにて“出撃状況管理クロック”シリーズ完結です。一つの時計を紹介するのに想定よりもだいぶ長い記事になってしまいましたが、こんな駄文をここまで読んでくださった方には感謝しかありません…
まだまだ紹介したい時計はたくさんありますので細々と続けていけたらと思います。
  • zenith

コメントを書く

本文
写真1
写真2
写真3
Chronos定期購読のお申し込み