ミドリフグさんのブログ

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旋盤を買ったお話 最終話【天真を作ってみよう!編】2025年12月19日00:45
皆様ごきげんよう。

前回でようやくスタートラインに立てたので、今度こそ天真を作ってみましょう。
タガネ製作という最大の壁(笑)を乗り越えた私にもはや怖いものなどありません。


<視力の限界のその先で…>
早速作業に入ります。写真1のように、複製したい天真を鏡合わせのようにし、時にはマイクロメーターを用いて慎重に測定しながら同じ形になるように削っていきます(テンワをはめる部分は後にカシメる必要があるので気持ち長くします)。とても簡単ですね。
…そんなはずもなく、最初は練習として真鍮から始まり、軟鉄製の芯材で練習していたのですが、先端のピボットが特に難しく、ここは直径0.01mm程度の太さとなり、そんな部分に手の感覚だけでμm単位の調整が必要になってきます。
最初は傷見レンズオンリーでやっていたのですが、数時間も削り続ければ、ただでさえ小さすぎてよく見えない視界が更にじわじわと霞みはじめます。私の視力ではもはや限界でした。その日は一旦中断してそのまま就寝しますが、その日の夜に事件が起こります。

「ぎゃああああ右目が痛ってえええええ!」

深夜に突然目の痛みとともに覚醒し、ムスカ大佐ばりに目の異変を訴えます。鏡で目を確認したところ、右目の毛細血管という毛細血管がバッチバチに浮かび上がっております(笑)。瞬間、すべてを悟ります。1日で目を酷使しすぎたのです。昔、一度だけ同じくらい目を酷使した時に全く同じ症状が出たのですぐにピンときました(笑)。


<さよなら学研の顕微鏡>
これはもう肉眼での作業はダメだ…ということでデジタル顕微鏡を導入することを決意しました。顕微鏡はこれまで、小学校4年生の時の『学研の科学 4月号』に付属していた「150倍顕微鏡」をかれこれ30年近く愛用していたのですが、流石に色々限界を感じていたこともあったので、良いきっかけでもありました(笑)。余談ですが、私は生物学畑の人間なので、10~20代の頃はよく水棲の微生物や藻類をこれを使って眺めていたものです(笑)。
こうして私は、長年連れ添った学研の付録の150倍顕微鏡に静かに別れを告げ、新たな相棒――デジタル顕微鏡へと乗り換えることとなったのです。
安売りしていたモニターアームとモバイルモニターも一緒に購入し、旋盤のベースに固定。これで【導入編】にてご紹介いたしました通りのフルスペック仕様となりました。


<いざ最終決戦へ>
こうしてタガネも製作しました。視力の限界も克服しました。地味なので記事に書いてなかったのですが、その後起こった謎の軸ブレ地獄や、回転速度、切り込み角、このあたりの検証も終え、自分にとって最適な条件を導き出しました。ここまで来ると、もはやたいして書くことがありません(泣)。強いて言うならピボットの曲線部用にタガネを一本新造したくらいでしょうか…タガネ、やはり奥が深いぜ…
George Daniels博士の『WATCHMAKING』の天真製作の項目を参考にしながら慎重に、黙々と、タガネで削っていきます。
まぁ、それだけのことがクソほどに大変なのですが…(μm単位の世界では、ほんの指先の力加減ひとつで形状が破綻します)。


<天真、爆誕(写真2)

パパ!天真できたよ!

削り初めて実に7時間が経過。ようやっと天真の複製が完了しました(写真2)
もうね、体力と精神力と集中力、すべてを使い果たしていたその時の私に感動とか達成感とかカタルシス…そんな感情はもはや無く、真っ先に出てきた感情が「早く寝たい…」でした(笑)
「途中で一旦作業止めろやボケェ」と思われる方もおられるかもしれません。しかしですね…やり始めるとマジで辞め時がわからないんですよね…なんか自身としてはほんの2、30分作業したつもりだったのに、工程の区切りで時計見たら数時間の時がぶっ飛んでいるのです(笑)。いやしかし、動画を見る限りプロの方はこれをものの1時間程度で仕上げてしまうのですから凄いですよね…私には一生かかっても無理です…

ともあれこいつを一旦テンワにはめてムーブメントに仮組みしてみましたが、動作に問題はなさそうです。たぶん…


<おわりとはじまり>
そんなこんなでようやっと天真が一本出来上がりましたが、旋盤導入から実に2ヶ月弱の時が経過しておりました。たったこれ一本作るだけでタガネに棒材にと死屍累々です(写真3)。ちゃんと【タガネ編】にて削れなかった時の真鍮も保存してあります(笑)(写真3左下)タガネの失敗作はその後全部刃の形状を最適化して再利用しております。
次の課題はいかに失敗を減らすかと早く仕上げるかですね…技術の道に終わりはありそうにありません。そう、ここが終点ではなく、ここからがスタートなのです。
ともあれ当初の目的の通り、天真が折れてしまった時計たちの待機行列の解消へ一歩前進となりました。


はい、修理急ぎます…
  • zenith

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本文
写真1
写真2
写真3
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