ミドリフグさんのブログ
(一般に公開)
- eBayで時計オタクが狂喜乱舞したお話12025年12月24日00:13
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皆様ごきげんよう。
クリスマスも変わらず時計の話をしたいと思います(笑)。時計が私の恋人さ…
本日はまたまたゼニスより、リピーターのご紹介です。
こちら、S. Smith & Son Ltdの時計であり、時計自体はごくありふれたZenith製のリピーターとなります。
が、実は時計オタク歓喜の逸品だったのです。
詳細は後述しますが、最初に理解していただきたいのは、この時計の背景に関わる 「Konrad Knirim」という人物の存在です。
<コンラート・クニリムとは誰ぞ>
軍用時計界では知らぬ者はいない大変有名な軍用時計のコレクターで、著書の一つである『British Military Timepieces』の、膨大なページ数に綴られる内容は単なるコレクション紹介に留まらず、その圧倒的な情報量(そして本の重さ)は他の追随を許しません。
<eBayで見つけたお安いリピーター>
私の毎日の日課として朝・昼・晩にeBayの新着情報チェックがあり、朝イチのニューフェイスとして現れたこの個体の商品ページを開いたのがこの時計との出会いでした。
正直、写真の通りそこまで良いコンディションでもないので、最初は開いて10秒経たずにページを閉じました(笑)。とりあえず、安い(520$)という一点だけでウォッチリスト登録はしておいたのですが、少なくともそのときは買う気は全くありませんでした…
<ジャッジメント・デイ>
とある日曜日、日頃の疲労から時計の修理はじめ他の趣味も全くやる気が起こらず、ボ~っと今までウォッチリストに登録していた時計達をウォッチしている流れでこの時計の商品ページを開きます。
「そういやこのリピーター、文字盤のロゴはZenithじゃないんだなぁ…S. Smith & Sonって確かコンラート・クニリムの本に掲載されてたリピーターも同じ会社だったよな。安いし図鑑掲載と同じモデルだったら買うのもアリかもな~」といった具合に本棚から『British Military Timepieces』を引っ張り出します。
そして、アンティーク懐中時計は、詳細は割愛しますが様々な理由から文字盤違い、ケース違い、ムーブメント違い、その他パーツ違いが普通ですので(決して悪いことではありません)、いつも通り文字盤・ケース等の組み合わせや刻印のチェックを行い…行っ……
……は?
これ図鑑掲載の物と全くの同一個体じゃね…?
もう一度言います。同一モデルではなく同一個体です。
<錯乱と疑念>
「いやいやいやいやこの価格でそれはありえんだろ…落ち着け落ち着いて素数を数えろ…1,2,3,4,5…これは疲れによる幻覚だな」
もはや軽い錯乱状態で自分の目も脳みそも信じられません。念押しでAIに文字盤とケース背面の画像解析を依頼します。その結果が
完 全 一 致 (笑)
インデックスの塗装剥げ、ケースの酸化痕、傷跡の位置と付き方、そのすべてが一致でした。
おれは しょうき だった!
……と思ったその時です。
一つ、たった一つだけどうしても気になる部分がありました。
ケース側面のスライダー基部の形状が、図鑑の個体と微妙に違うのです。
「おいおい待てよ……ここまで来て同一個体じゃないのか?やはり幻覚なのか?」
一瞬で心臓が冷えました(笑)。
が、再び素数を数えてからよく考えると、この時計が出た年代からして、図鑑収録後、修理等でパーツ交換が行われたことは当然起き得るものだと気づきます。
そしてやはり、その一点以外の完全一致度。これが人為的・自然発生的に再現されることなど冷静に考えたら有り得ず、同一個体で間違いないと結論付けました。
<疑念と落札>
となると腑に落ちないのはやはりこの値段。もしかして物凄く良心的な出品者で、かつ、私が思っているほどクニリム氏の威光は無いということなのでしょうか…?そんなバカな…
ここに来て今更、商品紹介文に目を通します(笑)。
『時計工房からの出品!希少な古い懐中時計(アラーム付き)を販売します!コレクターズアイテム!(以下略、図鑑に言及する文無し)』
き、気付いてねぇ~~~~っ!!(ズコーッ
これはもう時計の神からのゴーサインと捉え、「ワオ、とてもいい時計だね!450ドルでどうだい?(ニコッ」と、シレっと値切ります(笑)
…が、その瞬間、悪寒が。
極々稀になのですが、値段交渉中に運悪く他のライバルが値引き交渉せずに落札するなんてことがあり、私も一回それで掠め取られたことがあります(笑)
本能的にその時の記憶を呼び覚ましたのでしょう。可能性はかなり低いとはいえ70ドルをケチって「世界にたった一つの時計」を取りこぼしたら目も当てられません。もはや脊髄反射のごとくオファー取り消しを決行(迷惑客)。
この選択が無駄かどうかは今となってはわかりませんが、結果として無事落札と相成りました。
<このモデルについて>
ご紹介が遅れましたが、このリピーターは官給品ではなく、当時の英国将校が自費で持ち込む「私物装備」としてとても人気が高かったモデルだそうです。
今回の個体についてはもはや持ち主を知るすべはありませんが、本に掲載されるほどの標本的な一品であることは間違いありません。この個体が「使われた時計」であること自体は、その姿が雄弁に物語っていますね。
WWⅠという特殊な環境下で、英国将校たちが自ら選び、実際に使ったかもしれないと思うとロマンがあります(ただの民間人かもしれませんが笑)。
<拾い上げられた「歴史」と次回予告>
長い年月を経て、図鑑の中だけで存在していた個体が、まさかeBayで静かに眠っているとは思いませんでした。もしあの時、安いだけじゃとウォッチリストに登録しなかったら、体調が良好だったら、ロゴのマークに気付かなかったら、そういったボタンの掛け違いで別の誰かに落札されて部品取りになってしまう未来もあったかもしれません。
そう思うと運良く歴史を拾ったと同時に、歴史に拾われた、そんな不思議な感覚がするのです。
ということで、長い時を経て図鑑から現実の世界に戻ってきたこの個体。
次回は実物と図鑑との比較検証を行っていきたいと思います。
お楽しみに~。
- zenith




