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高級機械式時計考➁ ~崩壊した需給バランス~2022年03月11日14:19
数年前から、一部ブランドの一部時計が世界規模で慢性的な品薄状態となっています。ロレックスのプロフェッショナルシリーズ(デイトナやGMTマスターなど)や、パテック・フィリップのノーチラスやアクアノート等のエントリーSSスポーツウォッチがこれに相当します。なぜこのような現象が起きているのでしょうか?それは世界的に需給バランスが狂ってしまっているからに他なりません。現在、正規店や直営のブティックに行っても、これらのモデルを買う事は一切できません。それどころか、下手すると展示品すらありません。長引くコロナ禍に於ける巣ごもり需要、お金を持て余した某大陸の方たちが買い漁っている影響もあり、こうした人気モデルは高騰の一途を辿っています。ロシアによるウクライナ侵攻により、現在やや調整局面に入っているようですが、依然並行店で「プレ値」と呼ばれる定価の何倍もの高額な価格帯でこうした人気モデルが売買されています。

皆さんご存知、パテックフィリップのノーチラス(5711)を例に、価格の推移を見てみましょう。ロングセラーだった5711のディスコン(=生産終了)が昨春発表されたとたん、倍の価格に跳ね上がっています。もともと定価は400万円程度(それでも3針SSモデルとしては気が遠くなるほど高いですが)が、昨年4桁の大台に乗ったと思ったらあれよあれよという間に現在は2500万円~という超絶プレ値で流通しています(思わず不動産か?!と突っ込みを入れたくなります)。日本はそれでもマシな方で、Chono24などの海外価格を見るとさらに輪をかけて高い価格で取引されています。もともと流通量が少ない所へ持ってきて、パテックフィリップの販売規制戦略(同じモデルを同じユーザーは一生のうち一度しか購入できない)や、投機・転売目的で買う人が買いまくってカオスのような状況になっています。諸兄はステンレスの3針時計に2500万円出せますか?!

翻って鉄板人気プロフェッショナル・モデルの現行ロレックス デイトナ(Ref.116500LN)。先代までは黒文字盤が人気でしたが、2016年にモデルチェンジしてベゼルがセラクロムになってからは白文字盤の方が人気です。こちらも発表当初から並行価格はジワジワ値を上げ、現在は600万円を大きく突破しています(ちなみに定価は160万円)。パテックと違って、そこそこ流通量があるにも関わらずこの恐ろしいプレ値。まあデイトナについては、並行屋が協定でも結んで値を釣り上げているような気もしなくもないですが・・。ロレックスについてはある程度転売規制的な事を一昨年から始めていますが、それでも「ロレックスマラソン」と呼ばれる正規店行脚の末、定価で運よく買えた人が並行店に転売する、という状況が常態化しています。YouTubeなどには、正規店でたまたま定価で人気ロレックスを買えた人が動画をアップしていて、物凄いPV数を稼いでいる始末です。

本当は並行店でバカ高いお金を出して買いたくなんて無いのが時計好き諸兄の本音だと思います。しかし、背に腹は代えられないので、欲しい時計があったら、全然欲しくない時計をたくさん買って実績積むか、諦めてバカみたいなプレ値で買うしかないのが現状です。どちらを選択するにせよ莫大な資金が必要です。恐ろしい事に、すでに爆騰しているモデル以外のモデルも、ラグスポを中心にどんどん値を上げ入手困難となっています。ヴァシュロンコンスタンタン・オーヴァーシーズ、オーデマピゲ・ロイヤルオークなども実勢価格はすでに4桁の大台に乗っています。今まではどちらかと言えばマイナーだったショパールのロイヤルイ―グルや、ジラール・ぺルゴのロレアート、ブレゲのマリーンもジワジワと値を上げています。次に入手困難になるのはこれだ!と言わんばかりに。時計好きとしては、あまりにも資産価値にばかり目を向けられるのは忸怩たる想いがします。

もちろん、オメガやブライトリング等の比較的手を出しやすい価格帯の時計は今でも定価で買えますし、並行店では定価割れしているモデルも少なくありません。しかし、ロシア-ウクライナ情勢が混迷を極める中、欧州の時計産業自体が今後どうなるか未知数です。材料の調達が困難になったり、原油価格の高騰が続けば、時計産業も無関係というわけには行きません。今はまだ手に入る時計でも、さらに膨らみ続ける需要に対し、生産できる数がどんどん減ればいずれ手に入らなくなる可能性があります。株価なども先行き不透明で、そうなると高級機械式時計が安定資産と見做され、さらに壮絶な奪い合いに発展する可能性もあります。言えることは、欲しい時計があるならば、現在プレ値であるかどうかに関わらず、欲しい時に買っておけ、という事です。逆に欲しくもない時計を単純に投機目的で買うのは時計好きとしては賛同し兼ねます。
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