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マニュファクチュールの時計が輝く男性と香港で(後編)(1/3)

Ciel:文
Text by Ciel

(前回からの続き)

 勢いづいて来てみたのはいいけれど、実質、初めて会うような人とどんな会話を交わしたら良いものか……。一歩一歩、彼との距離が近づくにつれて、緊張が募っていく。口から心臓が飛び出そうとはこのことを言うのか。

 しばらくして、彼は私に気づき、こちらに駆け寄ってくる。ほぼ初対面なのだから、ここは丁寧にご挨拶をしなければ、と思ったその時「ソラマメ! やっぱりソラマメだ」

————そ・ら・ま・め・?

 爽やかな笑顔でそう言われても、何のことを指しているのかさっぱりわからなくて、リアクションに困った。すると彼は続けて言う。「そのソラマメっぽい目が好きなんだよね」。

〝ソラマメっぽい目〟というのがどういう目なのかは、あくまでも彼のみの基準となってしまうが、どうやら「そら豆」のような形をし、笑うとなくなってしまうような目のことを指しているらしい。全く褒められているのかけなされているのか……。チャームポイントどころか、コンプレックスにもなり得るこの小さな目を好きと言われて、複雑な気持ちだった。でもそのおかげで、私の緊張の紐は一気にほどけ、以降リラックスをして話すことができたのだから、案外、これは彼の作戦だったのかもしれない。

 ディナーをいただいたワン・ハーバーロードは、ジノリの食器でサーブされる料理も美味しく、さらには、大きな窓から、ビクトリアハーバーのいかにも香港らしい夜景を眺められる素敵なレストランだった。アペリティフでいただいたシャンパンが、まるで私の心の弾み具合を反映するかのように、夜景をバックにシュワシュワと美しい輝きを見せていた。

 7歳年上の彼は、当時の私には、ものすごく大人に感じた。エスコートから、食事の席、お会計と全てに渡ってスマートで、それまで日本で生まれ育った同学年の男性としか付き合ったことがなかった私には、同じ男性のカテゴリーではない、違った生き物に思えた。

 ディナーは彼のリードもあって、当然会話は弾み、気づいたときにはゆうに3時間を超えていた。話の内容ははっきりと覚えていないのだけれど、こちらが質問をしてもいないのに、彼は自分のことを1から100まで説明するかのようによく話していたと思う。普段は人にあまり興味を持たない私でも、彼の海外生活の話はとてもユニークで、しかもその話し方にもセンスがあるので、たった数時間で、私は彼の世界にすっかり引き込まれていった。

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