パテック フィリップ、専用ムーブメントで祝う名誉会長のバースデー

FEATURE本誌記事
2023.12.08

パテック フィリップ現名誉会長フィリップ・スターンの85歳の誕生日を記念する最新作は、ミニット・リピーターと特別なアラーム機能を併せ持つ、新開発キャリバーR AL 27 PSを搭載。今後二度と使用されないムーブメントの稀少価値には計り知れないものがある。

ミニット・リピーター・アラーム 1938P

Text by Shigeru Sugawara
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


専用ムーブメント「Cal.R AL 27 PS」

 パテック フィリップが常にパブリックイメージとして掲げてきたのは、親から子々孫々まで受け継がれるタイムレスな高級時計である。今回は逆に、2009年からスターン家の4代目社長を務めるティエリー・スターンが、父であり現名誉会長のフィリップ・スターンの85歳の誕生日を祝う子から親へのバースデープレゼントだ。

 敬意を込めて父の誕生年を品名に盛り込んだ「ミニット・リピーター・アラーム1938P」は、オフィサータイプのプラチナケースと、ブラックの地にホワイトグレーによるエナメル細密画でフィリップ・スターンの肖像を描いたグラン・フーのエナメルダイアルとを組み合わせ、今後二度と使用されることのない新ムーブメントを搭載する30本の限定モデル。まさにワンオフの至宝という、稀少価値絶大の逸品である。

Cal.R AL 27 PS

オフィサータイプのケースバックから鑑賞できる、本作限りのCal.R AL 27 PS。22Kゴールドの偏心マイクロローターにはフィリップ・スターンのサインが刻まれ、ヒンジ付きダストカバーに、《À mon père, 85 ans de passion horlogère》(我が父と85年間の時計製作への情熱に捧げる)の賛辞が手彫りされている。

 ティエリー・スターンの指揮の下で開発された専用ムーブメントは、キャリバーR AL27PS。リピーターのR、アラームのALで始まるこのムーブメントのベースは、複雑時計の歴史を画すキャリバーR27である。起源は創業150周年を祝った1989年。当時専務取締役だったフィリップ・スターンにとって、世界で最も複雑な時計「キャリバー89」と並ぶ技術的快挙が完全自社開発および製造によるミニット・リピーター搭載のキャリバーR27だった。これによってパテック フィリップは腕時計にミニット・リピーターを復活させ、現在まで各種のリピーターウォッチがメゾンを代表するスペシャリティーになってきた。開発のベースがキャリバーR27なのは、明らかにリピーターウォッチの分野における功績をたたえるためだ。

 記念モデルに父フィリップ・スターンが愛好するミニット・リピーターを選んだのは当然だが、とはいえ、アラーム機構を統合するのは技術に精通するパテック フィリップであっても決して容易ではなかった。目標は、ふたつのゴングとハンマーによるミニット・リピーターの仕組みを利用し、アラームの設定時刻をチャイム音(時・クォーター・分)で告げるということ。これは、創業175周年の2014年に発表された「グランドマスター・チャイム5175」にも搭載されていたアラーム機能と同じ。

 さらに、任意で作動可能なミニット・リピーターと事前に作動を設定するアラームがバッティングしないように、チャイム・モードを選択する切り替えプッシュボタンをリュウズ内に設け、ベルをモチーフにしたモード表示をダイアルに加えた。これにより、アラーム・モードの場合、ダイアルに表示されている時刻が事前にアラームを設定した時刻に一致するまでチャイム機能は保留され、駆動機構が一時的に切り離される。パテック フィリップは、このキャリバーR AL27PSの開発において、4件の技術特許を出願した。

 すなわち、ふたつのチャイム・モード間を安全に移行できる選択機構、適切な瞬間までアラーム音の発出を延期する機構、あらゆる場合でチャイムを正しいシーケンスで確実に鳴らすシンクロナイザー機構、スライドピースでチャイム用ゼンマイが常に完全に巻き上げられる機構などだ。鳴り物の複雑時計において名実ともに第一人者が新型ムーブメントによってまたもや革新を成し遂げた一方で、あえてそれを封印したことは、なんとも興味深い。

ミニット・リピーター・アラーム 1938P
新たな未来を構築するラグジュアリーフィリップ・スターンの肖像を配したグラン・フー エナメルのブラックダイアルはセンターに時針、分針、12時間のアラーム針を置く。ブレゲ針と数字、レイルウェイの意匠は1989年の創業150周年の際に発表されたオフィサーケースの「カラトラバ 3960」を彷彿させる。自動巻き(Cal.R AL27 PS)。47石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Pt(直径41mm、厚さ14.2mm)。非防水。世界限定30本。要価格問い合わせ。

 長年にわたり、あらゆるリピーターウォッチの音を自分の耳で確かめ、合格したものだけを市場に送り出してきたフィリップ・スターン。それは「自分の耳が許す音だけが音楽である」と語ったというショパンのエピソードを想起させる。はたしてバースデープレゼントが奏でる音楽は彼にどう響いただろうか。


Contact info: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Te.03-3255-8109


パテック フィリップの名誉会長へのトリビュート、新型ムーブメントを搭載した「ミニット・リピーター・アラーム 1938P-001 モデル」

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