ジェラルド・ジェンタの遺産を受け継ぐ、ジェラルド・チャールズの2023年新作「マエストロ 8.0 スケルトン」

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2023.11.16

パテック フィリップの「ノーチラス」や、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」で知られるウォッチデザインの巨匠、ジェラルド・チャールズ・ジェンタ。一方で、彼が2000年に立ち上げたブランド、ジェラルド・チャールズを知る人はあまり多くない。今回はジェラルド・チャールズが2023年に発表した「マエストロ 8.0 スケルトン」を紹介する。

マエストロ 8.0 スケルトン

ジェラルド・チャールズ「マエストロ 8.0 スケルトン」
自動巻き(Cal.GCA 5482)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRGケース(縦41mm×横39mm)。100m防水。参考価格8万5500スイスフラン(約1440万円)。
Originally published on Montres De Luxe
[2023年11月16日公開記事]


ジェラルド・ジェンタが設立した自身の時計ブランド「ジェラルド・チャールズ」

 ジェラルド・ジェンタといえば、パテック フィリップの「ノーチラス」やオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」など、有名ブランドとのコラボレーションや天才的なデザインが有名だ。IWCの「インヂュニア」やオメガの「コンステレーション」、ユニバーサル・ジュネーブの「ポールルーター」などもジェンタが手掛けている。

 コレクターの間では、彼の名を冠したブランド「ジェラルド ジェンタ」で製作された作品も愛されているが、いわゆる“普通の”時計愛好家の多くは、彼の作品にあまりなじみがない。そして、ジェラルド・チャールズというブランド名で販売されているモデルは、さらに知られていないだろう。

 ジェラルド・チャールズは、ジェラルド・ジェンタが自身のブランドであったジェラルド ジェンタをシンガポールのグループ、アワーグラスに売却した後に誕生している。なお、アワーグラスはのちにジェラルド ジェンタをブルガリ、つまりLVMH グループに売却している。

 ジェンタはジェラルド・チャールズのトップを3年勤めたのち、イタリアのジヴィアーニ一族に売却した。自身は2011年に逝去するまで、ブランドにデザイン担当として留まった。

 現在、ジェラルド・チャールズはごく限られた時計愛好家にしか知られていない。実際のところ、このブランドの時計は非常に高価だ。

 デザイン面はどうだろうか。現在デザインを手掛けているのは、以前オーデマ ピゲのアーティスティック・ディレクターであったオクタヴィオ・ガルシアである。彼は実際にジェンタと一緒に仕事をしたことはないが、このふたりのデザイナーはロイヤル オークの40周年記念の際に、長く言葉を交わしていた。当時、ジェンタは自身の作品の中で最も有名なモデルのひとつであるロイヤル オークの40周年を祝うために数々のアイデアを持っていたが、結果として実現したものはなかった。

 ジェラルド・チャールズは「マエストロ」というひとつのリファレンスをもとにした、シングルモデルのブランドだ。マエストロは、時計業界関係者に親しまれているジェラルド・ジェンタの愛称から名付けられたモデルで、いくつかのバリエーションが展開されている。

2023年に発表された新作「マエストロ 8.0 スケルトン」

マエストロ スケルトン

マエストロ 8.0 スケルトンは、マイクロローターを搭載するスケルトン加工のムーブメントが特徴的だ。

 2023年のジュネーブ・ウォッチ・デイズで、ジェラルド・チャールズは新作を発表した。そのひとつが、今回紹介する加硫処理(バルカナイズド)されたストーングレーのラバーストラップが取り付けられた「マエストロ 8.0 スケルトン」である。

 ジェラルド・チャールズの最初のスケルトンウォッチは2022年に発表された。オクタヴィオ・ガルシアがデザインしたこのモデルは、ジェラルド・ジェンタのオリジナルデザインに基づいて、マエストロを象徴するケースと加硫処理された独特なラバーストラップを備えている。

 ジェンタはゴールド製で非常に重いマエストロのケースを、建築家フランチェスコ・ボッロミーニがデザインした17世紀のローマの記念碑から着想を得てデザインしたという。このケースは正方形と八角形を組み合わせた形をしており、6時位置には微笑んでいるかのような湾曲がある。

マエストロ 8.0 スケルトン

マエストロコレクションの独特なケースは、建築家フランチェスコ・ボッロミーニによる17世紀のローマの記念碑から着想を得たものである。

 35点以上のパーツで構成されたケースは、縦が41mm、横が39mm、厚さはわずか8.35mmである。デザインと技術性能を融合させ、ジェラルド・チャールズが自社開発した初のスケルトンムーブメントを製作するために、2年にわたる研究開発が行われた。

 サテン仕上げのブリッジは、面取りと全体のアンスラサイトカラーのNAC加工、そしてガルバニック処理により、酸化や錆を防いでいる。

 搭載されるCal.GCA5482は、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエとの共同開発であり、22Kローズゴールド製のオフセンターマイクロローターによって駆動する。マイクロローターが収まるのは、星形をしたブリッジの内側だ。

 このローターのデザインは、オクタヴィオ・ガルシアが2022年の最初のスケルトンモデルのために考案したもので、その後、マエストロコレクションの時計すべてに採用されている。

 
マエストロ 8.0 スケルトン

搭載されるムーブメントのCal.GCA 5482。厚みはわずか2.6mmだ。

 ムーブメント全体をまとめるのは、9本のネジと星形のフォルムである。マイクロローターは、従来のステンレススティール製より摩耗に耐性がある、セラミックス製ベアリングの上を回転する。ムーブメント両面から、テンプを含めて鑑賞が可能だ。

 マイクロローター採用により、ムーブメントの厚さはわずか2.6mmに軽減された。ケースを含めても全体の厚さは8.35mmであり、マエストロ 8.0 スケルトンはジェラルド・チャールズのコレクションの中で最も薄い時計となった。

 この薄さにもかかわらず、1時位置と2時位置の間に見える単一の香箱によって約50時間のパワーリザーブを備え、5つの姿勢でのテストでは5Gの衝撃に耐えた。

 また本作は、無反射加工を施したフラットなサファイアクリスタル製風防とケースバックを備えている。ねじ込み式リュウズと風防の間には特注のガスケットを用い、その他のジェラルド・チャールズの時計と同様に、10気圧の防水性を備えている。

 ケース、ベゼル、ラグ、フォールディングクラスプはすべてポリッシュ仕上げだが、ケースバックとフォールディングクラスプに刻まれたGCのロゴを配したプレートはサテン仕上げとなっている。

 人間工学にのっとった設計もまた、ジェラルド・チャールズの時計の特徴でもある。ケースバック、ラグ、ブレスレットは直線状に並び、手首にはフラットに収まる。これにより手首に密着する面積が最大化され、時計の重量は均等に分散される。

 最後に、スケルトン加工のムーブメントで視認性を確保するため、ローズゴールドカラーのミニッツスケールと、他のマエストロコレクションに比べると大ぶりなバトン型針には特に注意が払われている。

 ムーブメントとローズゴールド製ケースの色調にマッチするストーングレーのラバーストラップも、マエストロ 8.0 スケルトンで初めて登場した。ラバーストラップの片面にはクル・ド・パリ・モチーフが、もう片面にはGCロゴのタペストリーがあしらわれている。

 ジェラルド・チャールズの哲学に忠実なマエストロ 8.0 スケルトンは、ブランドの遺産を受け継いだモデルだ。エレガントで大胆な美学は、アイコニックなマエストロのケースや加硫処理されたラバーストラップによってひと目で分かるものであり、カラーと素材を融合させたスポーティーなスタイルでありながら、手首に心地よくフィットする。


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