ロレックス「オイスター パーペチュアル デイデイト36」をレビュー。 ブレスレット時計の理想型とも言える高い完成度を実現。

FEATUREインプレッション
2024.02.03

1956年の登場以来、ロレックスのフラッグシップモデルとして世界中で愛される「オイスター パーペチュアル デイデイト36」。今回は2019年に登場した最新モデルの中から、イエローゴールドケース/シャンパンカラー文字盤のレビューをお届けしたい。昨今ではHIP-HOPカルチャーのアイコン的存在ともなっている本作だが、非一体型ブレスレットの実用時計として、ひとつの理想型とも言える高い完成度を実現していた。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

ロレックス「オイスター パーペチュアル デイデイト36」

自動巻き(Cal.3255)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KYGケース(直径36mm、厚さ12mm)。100m防水。505万1200円(税込み)。
渡邉直人:文・写真
Text & Photographs by Naoto Watanabe
[2024年2月3日公開記事]


成功者の時計からHIP-HOPカルチャーのアイコンへ

「オイスター パーペチュアル デイデイト36」のイエローゴールドモデルは、1956年登場の初代モデル(Ref.6511)に端を発し、現行モデル(Ref.128238)で第7世代となるロングセラーシリーズだ。ブレスレットこそ複数のバリエーションが存在するものの、フルーテッドベゼルのオイスターケースに12時位置のフルスペル曜日表示と3時位置の日付表示がそなえられた基本デザインは、発表から60年以上にわたって引き継がれている。

 ロレックスはこれまで、デイデイトの広告に世界的に有名な小説家やミュージシャン、F1ワールドチャンピオンなどを起用し、「成功者の時計」というイメージを打ち出してきた。60年代から70年代にかけてはアメリカの大統領達にも着用されてきたため、デイデイトがそなえる半円形3列リンクのブレスレットは「プレジデントブレスレット」という呼称が正式名称として定着しているほどだ。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

クラスプ部分まで半円形3列リンクで覆われたつなぎ目の目立たない「プレジデントブレスレット」。現代でこそ「レディ デイトジャスト」にも採用されているが、元々はデイデイトにのみ設定されていたブレスレットだ。

 ロレックスより高価格帯の時計が数多く登場し、実用可能なラグジュアリー時計の戦国時代となった現代では、著名人がさまざまなブランドの時計を身に着けるようになり、デイデイトが持っていた「成功者の時計」としてのステータスは、昔に比べるとやや薄れたかもしれない。

 しかし、今や世界的音楽シーンのメインストリームとなったHIP-HOPの分野では、90年代以降にデイデイトの愛用者が急増。2010年代にはラグジュアリーファッション業界がHIP-HOP要素を取り入れ始めた潮流もあり、デイデイトを憧れの時計として特別視する文化は、そのフィールドを変え現代でも根強く残っている。

 特に今回レビューするシャンパンカラー文字盤は、全体を単色で統一することでゴールドジュエリーのような独特の存在感を放っており、HIP-HOPカルチャーが求めるデイデイトの最右翼と呼べる存在だろう。その強烈すぎるキャラクターゆえ、時計としての正当な評価がされにくいモデルでもあるが、ロレックスがフラッグシップモデルとして掲げる時計は、当然ながら作り込みも特別なのである。


ロングセラーモデルならではの温故知新が感じられるデザイン

 本記事で紹介する「オイスター パーペチュアル デイデイト36」は、筆者が23年12月に購入した私物であり、執筆時点では最新の製造ロット分だ。筆者は過去、第5世代モデルにあたるRef.18238(1989年製)も所有していたため、今回は過去モデルから進化したポイントも検証したい。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

筆者が数年前に所有していたRef.18238(左)と、2023年12月に購入したRef.128238(右)のiPhone撮影による比較写真。デザインバランスはよく似ているが、ケースのポリッシュ面が増えよりシャープな造形に変化しているのが分かる。

 2019年に本作の発表を見た時、初めに感じたのは「デイデイトのこれまでの歴史が詰まったデザイン」だということ。中でも特筆すべきは、第5世代型ケースシェイプへの回帰と、夜光なし文字盤の復活だろう。

 01年に登場し、シリーズ初の天面ポリッシュケースを採用した第6世代モデル(Ref.118238)は、ラグ部分のサイドが厚く天面側のエッジが丸められた、この世代独自のケースシェイプを持っていた。冷間鍛造されたケースにバフ研磨を施していたため仕方のない部分だが、鏡面部には歪みも散見され、筆者としてはあまり好きになれなかった世代というのが正直なところだ。

 しかし本作では、ケースシェイプがRef.18238のスリムな造形に戻され、天面側にシャープなエッジを復活させながらも、全体が歪みなくポリッシュされている。前作からの18年間で加工法がだいぶ進化したのか、非常に高級感のある仕上がりだ。特に低周波ゆらぎの抑え込みは驚愕に値するレベルであり、本作の数倍の価格帯の時計と見比べても遜色なく感じられるだろう。

 また、Ref.128238からはブレスレットのコマが直接ケースに接合されたようなデザインのフラッシュフィットにリニューアルされているが、ラグとの隙間は皆無で髪の毛1本すらも通すことができない。おそらくはボールベアリングなどの製造と同じように、パーツ同士のマッチングをとってから組み上げているのだろう。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

Ref.18238のシェイプに回帰し、天面全体がポリッシュされた18Kイエローゴールド製のケース。平面光による光沢の境界部にわずかな高周波のゆらぎが視認できるものの、低周波のゆらぎは極力抑え込まれているため、ラグに自身のコマが鮮明に映り込むほどの見事な仕上がりだ。

 文字盤のデザインには更に細かなリファインが加えられている。「オイスター パーペチュアル デイデイト36」のバーインデックス文字盤は、1960年代後半の第3世代モデル(Ref.1803)後期型以降、一貫して夜光が盛り込まれていたが、本作では約60年ぶりに夜光が完全に排除された。

 日頃から「ドレス系デザインに夜光は不要」と唱えてきた筆者にとっては大変に好みなリニューアルである。加えて、バーインデックスの形状もそれまでの直方体から山型カットに変更されており、これはRef.1803の初期型にのみ見られた仕様。インデックスの天面に角度を付けることで多方面からの光を反射し、より視認性の高い文字盤に仕上がっている。まさに、ロングセラーモデルならではの温故知新が感じられるポイントだ。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

デイデイトの歴史上、60年代初頭のRef.1803初期型にのみ採用されていた山型カットのバーインデックスが復活。バーの太さと山の角度は短針とマッチングが取れているため識時性も高いが、欲を言えば短針をもう少し長くしてインデックスと近づけてもらいたい。

 また、70年代後半の第4世代モデル(Ref.18038)以降、文字盤の最外周に大きくプリントされてきたミニッツレールの幅が本作では30%縮小され、より懐中時計に近いレイアウトバランスへと変化している。このように、現行モデルならではの高精度な仕上げでありながら、過去モデルにも類を見ないほどクラシカルなデザインが楽しめてしまうのが、本作の最大の魅力だろう。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

ミニッツレールが細くなり、夜光のない山型バーインデックスが外周寄りに配置された本作は、現行のロレックスとは思えないほどクラシカルな雰囲気を持っている。


現行ロレックスの中でも傑出した仕上げ品質

 現行のロレックスは、クラシックモデルからプロフェッショナルモデルまで総じて高い品質の外装を持っているが、フラッグシップモデルの本作はその中でも傑出した仕上げが与えられている。それを強く実感させられるのがブレスレットの鏡面リンクだろう。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

平面光下で撮影したプレジデントブレスレット。鏡面リンク・ヘアラインリンク共に、光沢が水平方向に真っ直ぐと入っており、エッジ部分は肌当たりを損なわない限界まで狭められている。

 鏡面リンク自体はデイデイトだけでなく、「オイスター パーペチュアル デイトジャスト」や「オイスター パーペチュアル GMTマスターII」、「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」など、幅広いモデルのブレスレットに採用されている。しかし、これほどまで見事に歪みを抑え込み鋭いエッジを持たせた鏡面リンクは、デイデイト以外では見ることができない。まさに「プレジデントブレスレット」の名に恥じない仕上がりだ。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

18Kイエローゴールド製のクラスプ。開閉時以外は目につくことのないパーツだが、全体に整った磨きが施されている。

 ロレックスのクラシックモデルは針の作り込みも凄まじい。3本の針はすべて18Kイエローゴールド製で、時分針が山型カット、秒針が半円形針とC面付きハカマの組み合わせという、極めて立体的なデザインとなっている。造形自体は「オイスター パーペチュアル デイトジャスト36」と同様に見えるが、筆者が所有していた現行デイトジャスト(Ref.126234)は、本作に比べ秒針のカウンターウェイト端の歪みが強かった。複数の個体を見ないと断定はできないが、デイデイトに装着する秒針は、製造品質の高い個体だけを選定しているか、磨きの工程を調整しているのかもしれない。

 山型カットのシャープなインデックスをそなえた文字盤の表面は、非常に繊細なサンレイ仕上げが施されており、中心から外周に向かって放射状に真っ直ぐと筋目が彫られている。曜日窓や日付窓のふちを見る限り、ベースはおそらくプレス加工だろう。各種プリントは立体的かつ鮮明で、サンレイ筋目への流れ込みなども見当たらない。

 ロレックスのトレードマークにもなっているサファイアクリスタル製のサイクロップレンズは、本作でも健在だ。表面が均一な球面に整えられており、日付表示を歪みなく鮮明に約2.5倍ほど拡大してくれるため、いずれ老眼になったとしても心配ない。

 唯一の不満点は、ロレックス全般に共通する見返し幅の広さだろうか。幅広な見返しとサファイアクリスタル風防の突出はRef.18238から変わっておらず、その点がどうしても高級感をそこなってしまう。激しい運動の想定されないクラシックモデルに関しては見返し幅を狭め、ガラスをベゼルの高さに抑えてもらいたい。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

(上)半円形の秒針は複雑な造形ながら、端から端まで整った磨きだ。(左下)フルスペル表記の曜日ディスクは反射を低減するためか、荒目の梨地加工が施されている。(右下)日付表示を拡大するためのサイクロップレンズは、加工前の球面眼鏡レンズの上下をカットしたような造形になっているのが分かる。


適正な重量バランスと繊細な操作感触

 筆者はもともと2世代前のRef.18238を日常使いしていたが、現行モデルの本作は装着感も別物になっている。特に重量バランスの良さは感動的なほどだ。

 Ref.18238のブレスレットはコマの内部がくり抜かれていたため、総重量で140g程度(実測値)と軽量な半面、時計本体の重みが際立ってしまい、腕の上で安定しづらいという弱点があった。対してRef.118238以降のブレスレットはコマの無垢化により重量が増し、本作では総重量が190g(筆者の手首周りに合わせると178g、実測値)まで加重されているものの、時計本体とブレスレットの重量配分が素晴らしく、安定感が大幅に改善されている。

 プレジデントブレスレットはクラスプが表面に露出しない構造のため微調整機構は搭載されないが、そもそもコマの全長が5mmと短いため、手首へのフィッティングも問題なく追い込むことが可能だ。

 総重量が増した分ブレスレットへの負担が心配になるが、コマ調整時に確認したところ、連結部のネジがセラミックス製のチューブで覆われた構造に改良されていた。これならば、Ref.18238までのように長期使用の摩耗によってブレスレットがよれてしまうこともないだろう。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

全体がゴールドで統一された本作は、遠目から見るとまるでゴールドジュエリーのような印象だ。インデックスの天面に山型カットが入ったことで、従来のバーインデックス文字盤と比べると視認性が格段に向上している。

 搭載される機械Cal.3255は、クロナジーエスケープメントを搭載した最新世代の自動巻ムーブメントだ。当然C.O.S.C.と独自企画のクロノメーター認定を取得しており、常用日差は+1秒で安定している。筆者が近年購入してきた現行ロレックス(Ref.126234 / Ref.126000)はいずれも常用日差+0.25秒だったため、それらと比べれば若干進み気味だが、月差+30秒であれば一般的には文句なしの高精度だろう。パワーリザーブも約70時間と長めに確保されており、リバーサー式の巻き上げながら、デスクワーク中心の着用でも1度も停止することはなかった。

 防水性能は100mが確保されているため、リュウズまわりにも厳重にパッキンが配置されているはずだが、現行のロレックスらしく操作感触のチューニングも見事だ。リュウズによる針回しや曜日調整、日付調整が滑らかなのはもちろん、ネジ込み式リュウズを緩める際も一切のガタつきや雑味が感じられず、ヌルヌルと回転する。チューブに切られた雄ネジとリュウズに切られた雌ネジのマッチングが完璧にとられているのだろう。

 デイデイト表示機構は曜日ディスクに設けられた7つの開口部から日付ディスクを覗く構造で、曜日の単独調整時には日付表示が一瞬だけホワイトアウトする。

ロレックス デイデイト カレンダー 仕組み

Photographs by Masanori Yoshie
デイデイトのカレンダー機構を端的に示す画像。日付ディスクの上に曜日ディスクが重ねられており、曜日ディスクには7つの窓が開けられる。日付が切り替わる際に、下の日付数字を穴からのぞかせる仕組みだ。なお、写真は現行モデルではなく旧作のもので、搭載ムーブメントも旧世代のCal.3155だ。

 ただし、本作が搭載するCal.3255は曜日ディスクの開口部面積が従来に比べ3倍に拡大されているため、もはや認識不可能なほどにホワイトアウト時間が短縮されている。過去モデルと使い比べない限り気付かないようなリファインだが、近年のロレックスの完璧主義はこのような細部にまで行き届いているのだ。


非一体型ブレスレット実用時計としてのひとつの理想型

 今回はレビュー対象の「オイスター パーペチュアル デイデイト36」が筆者の私物ということもあり、3週間ほど着用してから執筆に入った。2世代前のモデルを常用していた経験もあるため無意識下でつい比較してしまったが、本作はデザイン、仕上げ品質、装着感、操作感触の全てにおいて、以前の微細な不満点が解消されており、ロレックスの配慮の細かさには脱帽するしかない。

ロレックス オイスター パーペチュアル デイデイト36

購入直後に自然光を当て遠距離から望遠レンスで撮影したカット。平面光を使わずとも、ベゼル、ケース、ブレスレットの映り込みが真っ直ぐに伸びているのが分かる。

 シャンパンカラー文字盤のデイデイトというと、どうしてもHIP-HOP系御用達時計としてのイメージが先行してしまうかもしれない。しかし、非一体型ブレスレットの実用時計というカテゴリーにおいては、もはや文句のつけようがないほど完成された時計に仕上がっているのが実態だ。なおかつ、デザインはよりクラシカルな方向にシフトしている。

 この記事を読んで本作に興味が湧いた人はぜひ、実機をその目で見てもらいたいところだが、筆者自身も購入の当日まで一度も下見ができなかったほど、正規店・並行店を問わず市場には在庫がない。この入手の難しさが解消されることを切に願っている。



ロレックスのデイデイトがたどった歴史。成功者の時計が歩んだ道とは

https://www.webchronos.net/features/103994/
ロレックス「オイスター パーペチュアル デイデイト36」の新作は、3種の装飾石をダイアルに採用

https://www.webchronos.net/news/95187/
2023年 ロレックスの新作時計まとめ

https://www.webchronos.net/features/93213/