あなたも「ロレックスマラソン」に出走したい!? 再びのロレックス・ブーム、その“本当の価値”を考える

FEATURE本誌記事
2022.12.19

買って絶対損をしない、時に儲かる腕時計

「ロレックスマラソン」なる言葉まで登場する、今のロレックス・ブーム。その最大の理由は、ロレックスという時計そのものの「時計としての絶対価値」よりも、その結果として生まれた文化的な価値と経済的な価値、「ステイタス性と資産価値」にある。「威張りが利いて、買っても損をしない、時に儲かる時計」だから。これが今のロレックス・ブームの“正体”なのである。

 私はこうしたブームが、そして、こうした価値観による人気が「悪い」と言っているのではない。ただ、文化的経済的な価値が先行して、そこばかりにスポットライトが当てられて、ロレックスの「時計としての絶対価値」が軽視されがちなのが、もったいなくて残念だと思っているだけだ。

 時計ジャーナリストとして、ロレックスの製品と企業姿勢に最大限の敬意を持っている。製品は常に、飛び抜けた品質や機能を備えているし、企業としての社会貢献活動でも、ロレックスは素晴らしい。世界をより良くする人を支援する「ロレックス賞」と、将来有望な芸術家に超一流の芸術から直接学びの機会を与え、世界の芸術遺産が次世代に受け継がれることを支援する「メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」は、時計ブランドが行っているメセナ活動の中でも、最良のものだと思う。

 時代を超越して愛される高価な高級時計には、資産価値とステイタス性が絶対に必要だ。それは高級時計の最も根本的な、そして不可欠な価値のひとつだから。

 そしてロレックスは、創業者ハンス・ウイルスドルフの時代から現在まで、先進的で誠実な時計作り、ブレないデザイン戦略、そして巧みな広告宣伝戦略で、「世界No.1」の知名度とブランドバリュー、圧倒的なステイタス性と資産価値を守り続けてきた。

 特に「外観デザインを頑固なまでに変えず」「ひと目でロレックスと分かる」ブレないデザイン戦略は、見事と言うほかない。だから「安心して買える」し「価値も保たれる」。「ロレックスが人気No.1」なのは、考えてみれば正当で当然のことなのだ。

問題は「実体価値を超えた」バブルな部分

 だが、だからといって筆者は「絶対に得するからロレックスにしなさい」とか「やっぱりロレックスしかない」という“ロレックス教”のような価値観には賛成できない。理由はふたつ。まずひとつは「他にも魅力的な時計がたくさんある」から。そしてもうひとつの理由、それはロレックス、特にヴィンテージ・ロレックスやオークションに出回る新品には「実体価値を超えたバブルな部分がある」からだ。

 これは時計に限らずヴィンテージカーや書画骨董など、投機的な取引の対象になったアイテムにはすべて共通すること。だから面白いしワクワクする。投資価値のあるアイテムとして人を惹き付ける。しかも他の高級時計ブランドよりも価格がずっと身近なので、この「投資」には、購入するだけで誰でも参加できる。だが、忘れてはいけない。この「バブルな部分」は常に“泡と消える”可能性がある。

 だから、ヴィンテージ・ロレックスや、新品でもオークションなどで定価以上の価格で購入する場合は、つまり「ロレックス投資」に参加する場合は、「実体価値を超えたバブルな部分」にお金を払う、というリスクを覚悟&納得をして参加したい。

 確かにヴィンテージには「化ける」という夢がある。1990年代初頭、今や高嶺の花である「デイトナ」は不人気で当時、20万円以下で購入できたのは、この時代にアンティークウォッチショップを訪れていた人なら誰もが知っている話だ。確かにデイトナは大化けに化けた。だがどんなものでも「化ける話」には裏がある。

資産価値、ステイタス性の前に

 そのことを教えてくれたのは、時計専門誌でアンティークウォッチ販売店の取材・紹介記事を作っていた90年代半ばに出会った、あるアンティークウォッチショップのオーナーだ。

「我々にとって本当に稀少なモデルは、あまり商売にはならない。商売になるのは、ある程度の玉(タマ=流通する品物)数がある、流通量がそれなりに多いモデルだけ。そうでないと、我々業者は飯が食えない。バブルバックもデイトナも、それなりにタマ数があるからブームになった。ブームにできた。ブームだから、商売になるんだよ」

 ロレックスに限らず、時計とはさまざまな付き合い方がある。現行品の方が製品としての機能や完成度は高いが、ヴィンテージモデルには、昔のモデルだからこそ、時を超えて受け継がれ、長く使われてきたモノとしての魅力がある。

 ロレックスなどの高級時計を「投資対象」として「ステイタスシンボル」として考えるのもいい。ただ、この点だけを重視して高級時計を評価してしまうのは、あまりにもったいない。何よりも、時計作りをしている人々に失礼だと筆者は思う。

 まずは時計としての素晴らしさに目を向けてみてはどうだろう。そこに高級時計の本質的な魅力と価値があるのだから。


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