クレドール「Kuon(クオン)」を着用レビュー。「筋の通ったものは古くならない。ゆえに新しい」

FEATUREインプレッション
2023.12.27

2023年にセイコーウオッチから発表された、クレドール「Kuon(クオン)」を着用レビューする。約1週間、年末の忘年会や会食に連れ出したクオンを写真で振り返ると、あるふたつの言葉が思い起こされた。

クレドール クオン

柴田充:文・写真
Text and Photographs by Mitsuru Shibata
[2023年12月27日公開記事]


年末に続く忘年会と会食を、「Kuon(クオン)」とともに

 『クロノス日本版』編集部からクレドール「クオン」の着用レポートの打診があった時は、少しばかりためらった。なにしろ約1週間の着用期間は慌ただしい年末の締め切り時期で、ほとんど仕事場から出ない。あるのは連日の忘年会と会食の予定だけだ。

 「でも待てよ、それもいい機会かもしれない」と思い直したのは、クレドールがドレスウォッチだからだ。普段ジャケットを着る機会も少なく、時計もスポーツ系が多い。それでも1年を締めくくる夜のお誘いとあればドレスアップするだろう。着ける時計だってドレス系がいい。着用はそんなシーンに限られるけど、と編集部にも念を押すと、それでも結構とのこと。かくして怒濤の1週間に「クオン」を道連れにすることになったのである。


独立ブランドとなったクレドール

 クレドールは1974年に当時の「セイコー特選腕時計」のうち、貴金属を素材とする高級腕時計のシリーズとして誕生し、その名はフランス語で“黄金の頂き”を意味する。その5年後、クレドールはステンレススティール素材の「セイコーアシエ」と合体し、ゴールドやプレシャスストーンを用い、ジュエリーウォッチ的な位置付けだった「セイコー特選腕時計」から、より多様性のある高級ブランドとして新たなスタートを切った。

 以降ハイジュエリーや工芸装飾の他、極薄やスケルトン、コンプリケーションなど多彩なバリエーションを発表し、ポジションを築いてきた。そして45周年を迎え、独自の世界観をより明確に打ち出すため、先行してブランド独立化を果たしていたグランドセイコーに続き、ブランドを独立。日本発のエレガンス・ラグジュアリーブランドとして、日本人の感性と名工の技術を注ぎ、美しさと品質にさらなる磨きをかけている。


クレドール「Kuon(クオン)」を着用レビュー

セイコー クレドール Kuon

2023年に発表されたクレドール「Kuon(クオン)」は2型ある。ローマンインデックスを採用した「GCLX997」と、バーインデックスを採用した「GCLX999」だ。今回は、前者のGCLX997をレビューしている。手巻きスプリングドライブ(Cal.7R31)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.8mm)。日常生活用防水。132万円(税込み)。

 果たして手元に届いた「クオン」は想像していた以上に素晴らしかった。リュウズガードへと滑らかなカーブを描くケースに幅広いベゼルを備え、ポリッシュの光沢にも関わらず、派手さを感じさせないのは、メリハリをつけた面構成とヘアラインの仕上げがアクセントに効いているからだろう。リュウズの大きさがアンバランスにも感じたが、手巻きであることを考えれば必然だ。巻きやすさをスポイルしては本末転倒。むしろ普段使いの機能美をアピールするのだ。

 ブレスレットも秀逸だ。ケースとの一体感あるデザインに、心地良い手触りとともに動きも滑らかだ。ただその出来が良いだけに、Dバックルは気になった。装着時のブレスレットとの段差と張り出しが大きく、触れた指先に引っかかる。また両側のプッシュロックはがたつき、デザインも繊細さに欠ける。ここまで完成度が高いのに、手のひらならぬ、手首を返すと何故?となってしまうのがなんとももったいない。


シーンごとに印象を変えた「Kuon(クオン)」を、写真で振り返る

クレドール クオン

 さてスタートとなった初日の宴は目黒のイタリアンレストランだ。この日はカジュアルなディナーということで白のニットセーターを合わせた。スポーティなファッションにはやはりブレスレットが似合う。普段の時計に比べるとやや大径な39㎜も違和感なく、薄型なので袖にもすっきり収まるのがいい。ラディッキオの前菜から始まり、白ワインから最後のグラッパまで完食。いい滑り出しだ。



クレドール クオン

 翌日の舞台になったのは、横浜港に面した老舗ホテルでのパーティーイベントだ。館内にはクリスマスツリーが飾られ、街路樹や港公園にも色とりどりのイルミネーションが美しい。ネイビーブレザーにも「クオン」はピースのようにハマり、まさにドレスウォッチの面目躍如。ツリーのデコレーションにもシックな白文字盤が美しく映える。磁器ならではの独特の艶や針穴の窪みの味に、ボンベ風防がクラシックテイストを演出するとともに、程よい周縁の収差が温もりを感じさせるのだ。夢見心地でこの晩は5次会まで。



クレドール クオン

 朝帰りの疲れを引きずりながら、3日目はオープンしたばかりの麻布台ヒルズでフレンチの会食へ。この日はボルドーカラーのシャツジャケットを着た。さすがにクリスマスに赤ではサンタクロースだが、これなら赤ワインにも合うだろう。

 文字盤は日付表示を省き、ローマ数字表記というシンプルなデザインだが、散漫さを感じさせることなく、むしろ磁器の美しさが際立つ。そこで主役になるのが秒針だ。シャープな針が流れるように進むスプリングドライブの魅力が味わえる。「クオン」というシリーズ名は、“久遠”に由来し、果てしなく続く時の流れを意味するという。それにふさわしい、洗練された動きの演出だ。ちなみに指針にはクレドール初の青みのかかったグレーテンパー針を採用し、落ち着いた風合いを醸し出す。



クレドール クオン

 1日休肝日を取り、体調を整え、この日は銀座のイタリアンで会食。年間を通した仕事の打ち上げということで、リラックスしたレザージャケットにグレーニットというコーディネート。「クオン」を合わせてみるとレザーストラップにしたくなった。それもアリゲーターではなく、薄手のカーフがいい。個性的な3本ラグが映え、ストラップ幅も広いのでスポーティかつモダンな雰囲気になるだろう。レザーというのは不思議なもので、防寒性能を追求した機能性素材が“寒くはないが、暖かくは感じない”のに対し、機能こそ劣ってもどこか温もりが伝わる。クオンもそんな時計なのかも知れない。

セイコー クレドール Kuon

搭載する手巻きスプリングドライブのCal.7R31は、トランスパレントバック仕様の裏蓋から観賞することができる。パワーリザーブインジケーターは、裏蓋側に配されている。

 ケースバックには青海波にも通じるようなエングレービングが施され、小穴越しに静かにローターが回るのが見える。機械式のような鼓動はなくても、着けている本人にはその息遣いが感じるのだ。



クレドール クオン

 翌日は再びイタリアンへ。クリスマスも近いのでグリーンのニットにした。赤ワインを片手にすればまるでポインセチアだ。今日が着用最終日なのでこれまでの写真を並べると、ふと新聞に載っていた翻訳家の戸田奈津子さんの言葉を思い出した。いわくスターとアクターは別物で、スターはどんな役柄を演じても同じ俳優であり続け、一方アクターは演技によって作品ごとに別人になりきるといった内容だった。さて「クオン」はどちらだろう。今回実際に着けてみると毎回印象が変わった。カメレオン俳優というけれど、「クオン」のひけらかさない個性はまるでカメレオン時計だ。

 そしてもうひとつ、これは横浜のホテルで考えたのだけど、そこを執筆の定宿にしていた大佛次郎原作の小津映画「宗方姉妹」で「新しいとは古くならないということ」といった内容のセリフがある。流行は過ぎれば古くなるが、筋の通ったものは古くならない。ゆえに新しい。「クオン」はそんな時計になるような気がする。

 こうして着用は終わったが、宴はまだ続く。イタリアから知り合いがやってきて、今宵も出かけることに。なぜかイタリア人とようやく和食が食べられるのである。でも腕元に「クオン」がないのはちょっと寂しい。


Contact info: セイコーウオッチお客様相談室(クレドール) Tel.0120-302-617


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