パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF スポーツ クロノグラフ」は、驚くほどに“練り上げられた”モデル

FEATURE本誌記事
2023.12.10

現代におけるパルミジャーニ・フルリエの大躍進を決定付けた「トンダ GT」と、その成功を引き継いだエレガントスポーツの「トンダ PF」。2023年に加わった新コレクションの「トンダ PF スポーツ」は、その中間に位置付けられるスポーティーモデルだ。カジュアルシックな2トーンダイアルをベースにしながら、随所にエレガントなディテールを残した「トンダ PF スポーツ クロノグラフ」は、驚くほどに“練り上げられた”モデルだった。

パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF スポーツ クロノグラフ」

パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF スポーツ クロノグラフ」
トンダPFをベースに、よりスポーティーな雰囲気を加味したクロノグラフ。随所にトンダGT譲りのディテールを織り交ぜながら、よりカジュアルなエレガンスを演出。自動巻き(Cal.PF070/6710)。42石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径42mm、厚さ12.9mm)。100m防水。415万8000円(税込み)。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
鈴木裕之:取材・文
Text by Hiriyuki Suzuki
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


エレガントなデザインコードに寄り添う新たなスポーティークロノグラフ

 新たにラバーストラップが採用されたトンダ PF スポーツ クロノグラフを実際に腕に乗せてみると、ほんのわずかだが、やや腰高な印象を受ける。これは0.5㎜だけ厚くされたバックケースの影響だろうか? しかし適切な角度で絞り込まれたショートラグと、腰のあるストラップ基部の剛性感も相まって、腕なじみは極めて良い。筆者も実際に着用してみるまでは実感がなかったが、新作のPF スポーツを含むトンダ PF ファミリーは、意外にもラグの全長が短いのだ。

トンダ PF クロノグラフとも共通する「Cal.PF070」。このモデルは末尾に「/6710」というサブタイプが付くが、これはローターデザインが変更されたことによるもの。どちらも同様にC.O.S.C.認定を取得している。

 古典的なロングホーンのプロポーションに見えるのは、全長に対して幅を細く絞り込んでいるかのような装飾を加えているためだ。一見すると、外側のポリッシュ部分がロングホーンのラグ、センターのサテン部分がフラッシュフィットのように見えるが、実はこれら全体でショートラグを構成している。実際のプロポーションをスポーツモデルに寄せながら、仕上げの切り替えだけでエレガントな印象を加えているのだ。PF スポーツで最初に感じた若干の腰高感も、よりスポーツモデルらしさを狙った演出だと考えれば、むしろ納得がいく。剣先側を薄く仕上げたラバーストラップは、ダブルバックルの開閉時に無用な反力が生じないような、適切な柔らかさが心地よい。筆者はバックルがヘッドの重量をうまく支えてくれるように、ややタイトな位置で着用したが、少しだけ緩めたい時にもこの柔らかさが味方をしてくれる。調整幅は穴ひとつ分で約7mmだったが、これも適切だ。

トンダ PFスポーツ クロノグラフ

トンダ PFコレクションを象徴するコンケーブドベゼル。外周部に刻み込まれたモルタージュ装飾は、新作のトンダ PF スポーツでは、あえて刻みの数を減らしている。その数はトンダ PFの225歯に対して、トンダ PF スポーツでは160歯。ひとつひとつの刻みを大きく取ることで、基本的なデザインコードに抵触することなく、スポーティーな雰囲気を加味することに成功した。

 一方ダイアルの視認性に関しては、スポーティーさよりもドレッシーな印象が強く感じられる。GTが持っていた計器のような判読性を期待しているとちょっと肩透かしを食らうかもしれない。もっともこれは、スケルトンのデルタ針を用いた時・分の読み取りに関してだけで、ダイアル外周部のセコンドトラックと、黒いインダイアルからなる積算計の読み取りについてはまったく不満はない。

 搭載ムーブメントはトンダ PF クロノグラフと同型。本機には、PF070/6710というサブタイプが付くが、これはローターデザインの違いによるものだろう。このムーブメントの原型は、現在ジャガー・ルクルトに籍を置く浜口尚大が、ヴォーシェ時代に設計を手掛けたものだが、発表当時の言によれば「後発機だからこそできた、主要な自動巻きクロノグラフのイイトコ取り」。つまりエル・プリメロの超ハイビートと、デイトナの垂直クラッチ、FP1150の薄型設計、さらにツインバレルをバランスさせた機械となる。

トンダ PFスポーツ クロノグラフ

トンダ GT譲りのダイアル装飾となるクル・トリアンギュレール。アプライドのインデックスやデルタ針に添えられたブラックカラーのスーパールミノバも同様だ。“スポーティーであることの記号”として採り入れられたディテールだが、全体的にはエレガントな雰囲気を強く残している点が見事だ。

 筆者は今回初めてそのパフォーマンスに触れることができたわけだが、安定感の高さにまず驚いた。決して振り角自体が大きいわけではないのだが、クロノグラフ作動時の振り落ちや、時間経過に伴う振り落ちが意外なほど少ないのだ。これはあらかじめ振り角を高く設定しておいて、負荷のかかった状態でバランスさせるといった考え方とは異なる設計思想が根底にある。有り体に言えば、上質な機械ということになるだろう。ツインバレルでパワーリザーブは約65時間だから、決してロングパワーリザーブとは呼べないが、その分、余裕のあるトルクを精度の安定化に振り分けていることがデータ上からも読み取れる。

全体的には高い安定したパフォーマンスを発揮した「トンダ PFスポーツ クロノグラフ」。視認性のみ○としたのは、時分針のシルエットが、白いダイアルに埋没することが稀にあったため。これはダイアルカラーとデルタ針の相性だから、いわゆる“逆パンダ”のカラーリングにすれば一気に解決しそうだが、それがトンダ PFのスタイリングに似合うかどうかは別問題だ。総合的に考えれば、この“パンダ顔”こそが最適解なのだろう。

 今回は巻き上げ効率までチェックできなかったが、静態精度のT48時でも大きな歩度の変化が見られなかったことからも、週末の2日間を放置したくらいでは、精度に影響は出ないようだ。ちなみに完全巻き上げ状態であるはずのT0時で進みが強く計測されているのは、おそらくデータ採取のためにリュウズで巻き上げて、わずかなインターバルも設けずにそのままテスターに載せたためではないか? 巻き上げ直後の精度が不安定になるのは通常だから、それほど気にすることはない。自動巻きで着用している限り、巻き上げ残量が不足することもない代わりに、過剰な巻き上げ状態になることも少ないからだ。むしろ見るべきはT24以降で、この値は着用時の実測値ともおおむね一致している。平均日差+3秒を大きいと取るか、平均的と取るかはユーザー次第だろう。


Contact info: パルミジャーニ・フルリエ Mail:pfd.japan@parmigiani.com


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