キングセイコーから新生KSK誕生。現代人の感性を刺激する、時代を超えた造形

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2024.03.08

2021年にデザイン復刻モデルを発売し、多くの時計愛好家を歓喜させたキングセイコーは、翌22年に復活。ブランドの新たな歴史を築き上げるべく、本格的な再スタートを切った。現行のラインナップはいずれも、1965年に発売された名機をインスピレーションソースとしているものの、アーカイブピースの単なる焼き直しでは決してない。新生キングセイコーは、デザイン感度の高い現代人の琴線にも触れるであろう、エッジの効いた造形が実に心地よいタイムピースなのである。

キングセイコー SDKA005

セイコー「キングセイコー SDKA005」
自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径38.6mm、厚さ10.7mm)。5気圧防水。41万8000円(税込み)。
岡村昌宏:写真 Photographs by Masahiro Okamura
竹石祐三:取材・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[2024年3月8日公開記事]


キングセイコー誕生60年の節目に復活した名作「KSK」

 復活劇は突然に訪れた──。セイコーが創業140周年を迎えた2021年、これを記念して、1960年代に発売された伝説のモデルが限定で復刻されたのだ。それが「キングセイコー “KSK”復刻デザイン」。この年はキングセイコーの誕生60周年とも重なるダブルアニバーサリーイヤーであり、キングセイコーの名を冠したモデルが久しぶりに発売されることに、多くの時計愛好家が色めき立った。

キングセイコー “KSK”復刻デザイン

セイコー「キングセイコー “KSK”復刻デザイン」
2021年に限定3000本がリリースされた「キングセイコー “KSK”復刻デザイン」。1965年に発表された2代目モデル・KSKをベースデザインとしており、その外装はオリジナルを限りなく忠実に再現した。薄型の自動巻きキャリバー6L35を搭載したことで、ケース厚はオリジナルに迫る11.4mmをマークした。自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径38.1mm、厚さ11.4mm)。5気圧防水。世界限定3000本。完売。

 もっとも、キングセイコーの復刻モデルが発売されたのは2021年が初めてではない。セイコーは2000年に「セイコーヒストリカルコレクション」として、1968年発表の「56KS」を限定でリリースしている。

 もちろん、この時も市場での盛り上がりは見せたものの、セイコー社内では同社が展開する他ブランドとのポジショニングを考慮し、キングセイコー ブランドを復活させるまでには至らなかったという。

キングセイコー SDKA005

2022年にレギュラーで登場した新生KSK。限定モデルがオリジナルの忠実な復刻を目指したのに対し、23年にリリースされた6Lキャリバー搭載モデルではより現代的な造形が与えられた。写真のSDKA005の他に、ブラック文字盤のSDKA007もラインナップされる。

 そこから約20年の時を経て作られたのが、2021年の“KSK”復刻デザインだ。モデル名が示す通り、セイコーが選んだのは「KSK」で、これは1965年に発売された2代目のキングセイコーにあたる。

 アニバーサリーイヤーでありながら、初代ではなく2代目を復刻したわけだが、それは、キングセイコーの特徴が直線を巧みに取り入れた造形であり、このデザインワークを歴代モデルの中で最も象徴するのがKSKであったからだ。

 限定3000本の復刻モデルが好評を得たことで、いよいよ機は熟した。再始動に向けた準備が急ピッチで進められ、2022年、ついにキングセイコーがブランドのラインナップに再び加わることになる。

キングセイコー SDKA007

セイコー「キングセイコー SDKA007」
自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径38.6mm、厚さ10.7mm)。5気圧防水。41万8000円(税込み)。

 5色のダイアルカラーをそろえた第1弾コレクションを皮切りに、翌23年には約72時間のパワーリザーブを実現する新キャリバー搭載モデルもリリース。これに続いて投入されたのが、薄型自動巻きムーブメントのCal.6L35を搭載して、KSKベースのシャープな造形をより魅力あるプロポーションに仕上げた「SDKA005」と「SDKA007」の2モデルである。


セイコー機械式腕時計の隆盛を支えた基幹ブランドのひとつ

 なぜ、キングセイコーの復活がこれほどまでに時計愛好家を歓喜させたのか──。それは1960年に始まるセイコー機械式腕時計の躍進を、グランドセイコーとともに支えたブランドのひとつとして知られているからだ。

 時間を少しだけさかのぼると、セイコーは戦後の混乱期を経て50年代にようやく本格的な一貫生産体制を整えたのだが、その本丸とされていたのが、37年に創設された東京・亀戸の第二精工舎(現・セイコーインスツル ※2020年4月より、ウオッチ事業がセイコーウオッチへ移管)であった。

 当時の亀戸工場では主にレディース向け商品の製造を担っていたが、58年には、この時期における傑作のひとつとされるメンズ用腕時計「クロノス」を開発。しかもクロノスはその後、わずか1年の間に2度のバージョンアップを行うなど、セイコーの時計製造技術の発展に大きな役割を果たした。

キングセイコー KSK

1965年春に発売されたKSKは、前年にリリースされた「キングセイコー クロノメーター(KSCM)」の造形をブラッシュアップして、より存在感のあるラグに仕上げるのみならず、新たに秒針規制を追加した。手巻き(Cal.44A)。25石。1万8000振動/時。SSケース(直径36.7mm、厚さ10.9mm)。

 その集大成として、第二精工舎が61年に送り出したのがキングセイコーだ。そもそも亀戸工場は、数多くのレディースウォッチを手掛けていた経験から、繊細な外装の造形を得意としていたはずである。その高い技術力を駆使して、より多くの人に高品質な腕時計を届けるという明確なコンセプトを掲げ、キングセイコーは華々しいデビューを飾った。

 もちろん、品質の高い製品を量産するというアプローチを実現するのは、平坦な道のりではなかった。だがより多くの人に高品質な腕時計を届けたいという想いがあったからこそ、製作陣のクリエイティブマインドを剌激したことも間違いない。

 限られた製造コストの中で工夫を図った結果、キングセイコーは初代モデルから直線的なエレメントを随所に配した、先鋭的かつミニマルなルックスを作り上げ、それは2代目のKSKで一層強調されることになる。

セイコー NEWS キングセイコー

販売店に配布された冊子「SEIKO news」の1961年9月号では、この年に発売を開始したキングセイコーを紹介。表紙はグレンチェック生地をバックテクスチャーに、初代キングセイコーや装飾品が整然と並ぶ洒落たスタイリングになっており、デビュー当初からデザインを前面に押し出した時計であったことがうかがえる。

 当時のキングセイコーが掲げていたのは“風格あるデザイン”。このキャッチフレーズが示すように、キングセイコーは十分な精度を確保しつつも、よりデザインに注力した腕時計というポジションを確立し、人々の心にしっかりとその名を刻み込んだ。


現代人の感性を揺さぶる、先鋭感を追求したデザインワーク

 2021年の復刻版KSKをキングセイコーブランド復活の足がかりにしようと考えたものの、それは容易ではなかったという。特に初作の限定モデルにおいてはオリジナルを忠実に再現したいと考えたが、当時、製作に携わった関係者がひとりとして残っていなかったため、開発チームはオリジナルモデルを徹底的に分析し、可能な限り再現度を高めようと努めた。

キングセイコー インデックス

12時位置のインデックスは天面にライターカットを刻み、光の当たり具合によって上品なきらめきを放つ。その他のインデックスも多面カットを施して立体感を際立たせるなど、オリジナルのディテールを忠実に再現している。

 12時のインデックスはコンピューターで数値制御するCNC工作機を用いながらひとつひとつ切削してオリジナルと同様のライターカットを天面に施し、ダイアルの色調もこの限定モデル用に新しく開発。いずれも相当の手間をかけているが、中でも開発チームがKSKを最も特徴づけるエレメントであると認識しながらも、最も製作に困難を極めたのがラグだ。

 KSKのラグは上面から先端が4つの面を持ち、ひとつの頂点で交わる構成になっているのだが、ある一面だけを磨きすぎると頂点が定まらなくなるため、慎重な研磨が必要になる。しかも当然、4本のラグは均等に仕上げなければならず、実に高度な技術が求められるディテールであったという。

キングセイコー ラグ

「KSKを象徴するディテール」と現開発チームが口をそろえるのが、力強いラグ。上面から先端にかけては、4つの面が頂点でぶつかる構成になっており、これを寸分の誤差なく仕上げるためには高度な研磨技術が必要だったという。

 復刻デザイン限定モデルで再現した特徴的なディテールを軸としながら、SDKA005とSDKA007ではさらに現代的なアップデートが加えられた。とりわけ目を引くのがブレスレットだ。21年の限定モデルではレザーストラップが組み合わせられていたが、22年のレギュラー化に際しては多列のブレスレットに変更することを決定。

 1970年代のキングセイコーで使われていたブレスレットのデザインを踏襲してはいるものの、無垢のステンレススティールを削り出して重厚感を高めるとともに、多面構成のラグに合わせてブレスレットのコマもフラットに仕上げるなど、腕時計全体の調和を意識した。

キングセイコー ブレスレット

新生キングセイコーで新たに加えられたのが多列ブレスレット。各コマの上面をフラットに仕上げたことで、腕時計の随所に見られる直線的なエレメントともシンクロ。無機質でありながら、どこか懐かしさも感じさせるデザインになっている。

 ダイアルにもわずかではあるがチューニングが施されている。SDKA005のシルバーダイアルについては、ブラシの長さや硬さを調整することで、繊細で柔らかな印象を与え、上質な質感を感じられるサンレイ仕上げに。

 一方のSDKA007も、シャープな造形のケースデザインと調和する、奥行きのあるブラックを新色で開発。太陽光の下ではやや青みがかった色調を見せており、両モデルとも先進性や都会的な雰囲気を感じさせる表情に仕上げられている。

キングセイコー 針

太く長い針もKSKを踏襲したディテール。また、シルバーダイアルには柔らかい放射パターンが施されているが、これは新生キングセイコーのために開発された仕上げで、オリジナルのニュアンスを残しつつ、モダンな雰囲気を表現できるようにアップデートされた。

 ケースはオリジナルのKSKを踏襲した立体感のある力強い造形になっているが、その厚みは手巻き式ムーブメントを搭載したオリジナルよりも0.2mm薄くなっている。これはセイコーの現行ムーブメントでも最薄となる自動巻きキャリバー6L35を搭載したことによるものだ。

 さらに、2021年モデルが当時の雰囲気を出すためにボックス風防を厚くしていたのに対し、SDKA005とSDKA007では風防を薄く設計したことで、いよいよオリジナルよりもスリムなプロポーションを実現。

 シャツやジャケットの袖口に引っ掛かりにくくしたことに加え、サファイアクリスタル製の風防はレギュラー化に際して分解できる構造に変更し、メンテナンス時に外装のライトポリッシュを行いやすくするなど、長く愛用できるような配慮も加えられている。

キングセイコー ケースサイド

ケースサイドの造形やフラットな風防などはオリジナルの意匠を踏襲。一方でサファイアクリスタル製風防を薄くすることによって全体の厚みは10.7mmにまで抑えられており、袖口にも引っ掛かりにくく、軽快な装着感が得られるようになっている。

 当時の製作陣の工夫の結果、独自の存在感を放つミニマルなデザインとなったキングセイコーだが、この時に考案された、立体的なインデックスや多面構成のラグといった直線的なエレメントを継承しつつ、新たにフラット面を強調する多列ブレスレットを組み合わせたことで、その佇まいは実にシャープで、どこかモダニズム建築を想起させるものになった。

キングセイコー ケースバック

キングセイコーのロゴマークも、レギュラー化に際してアップデートしたポイントだ。構成要素を減らし、アイコニックな盾の意匠を強調することで、腕時計本体と同様モダナイズされたデザインになっている。

 だとすれば、20世紀以降に設計された数々の建築作品が時代を超えて愛されているように、新生キングセイコーに見られる、エッジの効いた実に合理的な造形も、間違いなく感度の高い現代人を刺激するはずだ。



Contact info: セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012

復活した「キングセイコー “KSK”」、その全貌を明らかにする

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セイコー「キングセイコー」/アイコニックピースの肖像

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これは誇れる国産時計だ。復刻したばかりの「キングセイコー」をレビュー

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