松山猛の台湾発見 第3回 <まずは茶について知る>

LIFE松山猛の台湾発見
2018.04.14

 家に入ると、ひんやりとした土間があり、その空気感に、ふと滋賀県鈴鹿山麓の祖父母の家の情景が思い出されてならぬ。
 大埤という農村に住む、おじさんの家は、戦前の日本時代の建物だから、よけいに古い日本を感じさせたのかも知れぬ。裏庭には、小ぶりだが揚桃の木があり、大きな実をつけていた。
 僕らが着くと、さっそく茶器が出されて、皆で濃い風味のある茶を飲む。ここのおじさんは昔からの茶党で、良い葉を得るために散財しているらしい。
 なるほど良い味のがでて来たが、これも鹿谷産であるらしい。
「いい水があれば、もっと良いのだけれどねえ、松山さん」
「でも台湾も中部は、まだ水質が良さそうじゃないですか、そんな大きな工場もないし」
「良し悪しだね。産業はあった方がいいけれど、水が汚れるのは困るからね」
「時間があれば、鹿谷で茶畑を見たかったけど、今回はまた駆け足旅行なもんで」
「いつかこっちに小ぎれいな家を借りといてあげるから、ゆっくりといらっしゃい」
「走馬看花的人生、ですからね」
 走馬看花とは、文字どおり駆ける馬の上から花をめでるわけで、せっかちな行程の旅をさす。しかしこれは今の我が生活全体がそうなので、やめるわけにもいかないし。
 茶の木のある風景に、いつかゆっくりと滞在して、あの美味が生まれ出ずる工程を、観察してやろうと思う。おびただしい霧の日々を経て、葉が摘みとられ、旧式のかまどでいれられるのを見たい。
 烏龍茶は、いわゆる半発酵茶であって、我国の緑茶と、紅茶の中間に位置する。茶葉は大きなまま乾燥されて、ちりちりに縮まっていて、一見は小さいがこれが水分を与えられると、ふうわりと拡がり、数倍の体積となるのである。
 だからよく出る。なかでも茶王と呼ばれる最高位の葉は、14回も飲めるというからすごい。2、3煎で終わってしまう日本の茶とはどのあたりがちがうのだろうかと思う。
 もっともいれ方があって、手ぎわよくやらぬと、せっかくの茶王も、その風味を出しきらないようだ。作法ではなく、あくまで茶をうまくいれる方法も、体得しなければなるまい。

茶籠と呼ばれる大きく平らな竹籠へ移された、つみたての茶葉。この後、酸化や発酵など茶葉の特性に合わせた製法を施しながら、乾燥の工程まで進む。ちなみに中国茶は基本的に6つに分類され、そのうち烏龍茶は、半発酵茶のことを指す青茶に属する。