ブレゲ トゥールビヨン傑作選

FEATURE本誌記事
2021.02.06

Classique Tourbillon Extra-plat Automatique 5377

ブレゲは、手巻きの基幹トゥールビヨンムーブメント、Cal.558をアレンジしてシンプルなタイプから各種の付加機能付きを開発して充実を図ってきたが、2013年のプレビューに続いて2014年に正式発表されたこのモデルは、初のペリフェラルローターを採用する自動巻きの極薄型トゥールビヨンだ。厚さわずか3mmの革新的な複雑ムーブメントCal.581DRは、次世代トゥールビヨン開発の礎として重要な役割を演じることになる。

クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5377

クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5377
ブレゲの最新技術を惜しみなく投入した厚さわずか3mmの極薄型トゥールビヨンムーブメントを収めるクラシカルなケースの厚さも7mmに抑えられ、自動巻きトゥールビヨンの部類では記録的な薄さを誇る。自動巻き(Cal.581DR)。42石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRG(直径41mm)。3気圧防水。1619万円。

最新技術を結集した新世代の先駆モデル

 創業240年を迎える2015年に向けて、ブレゲの技術陣は革新的な計画を粛々と進めていた。次世代の新型トゥールビヨンムーブメントの開発である。その初搭載がこのモデルである。ブレゲによるトゥールビヨンの新たな展開が始まる記念碑的な時計だ。

 驚きは、厚さ3㎜の自動巻きキャリバー581DR。ブレゲは薄型を実現するために、ムーブメント外周で回るリング状のプラチナ製ペリフェラルローターや、ボールベアリングを組み込んだパーツで外部から支持する香箱を導入し、トゥールビヨンについては、従来のようなキャリッジ支持部のカナを廃し、キャリッジの回転と脱進機に必要な動力を外周から与える設計に変えるなど、随所に工夫を凝らした。さらに、新素材の主ゼンマイを収めるハイエナジー香箱、チタン製テンワ、シリコン製脱進機などの相乗効果もあって、毎時2万8800振動のハイビートで最長約80時間のパワーリザーブを実現するという快挙も成し遂げた。画期的な特徴が備わる581DRの系譜は、均時差表示と永久カレンダーを併せ持つ「マリーン 5887」やスケルトンの極致「クラシック 5395」へと発展する。

 デザインにも大きな特色がある。ローマ数字のチャプターリング、ブルースティールのブレゲ針など、正統派のブレゲを演出したダイアルは、5時から11時方向へと微妙にずれており、目の錯覚を誘う。この特異なオフセンターデザインも、後のモデルへと受け継がれる新種のデザインコードになった。


Classique Tourbillon 5317

ブレゲが創業230周年を迎えた2005年のホットな話題は、まったく新しい「トラディション」コレクションの発表と、新型トゥールビヨンの登場だった。現行「クラシック トゥールビヨン 5317」の初代モデルで、当時「クラシック トゥールビヨン・パワーリザーブ」と呼ばれていたこの時計は、その名の通り、センター時分針に約5日間のロングパワーリザーブ表示を備え、さらに自動巻きという、ブレゲ唯一の稀少なトゥールビヨンである。

クラシック トゥールビヨン 5317

クラシック トゥールビヨン 5317
2005年の初出以来、ブレゲの定番トゥールビヨンのひとつに数えられるロングセラーモデル。ロングパワーリザーブに加え、発表当初から続く直径39mm、厚さ11.15mmというコンパクトなケースサイズが装着感を高める。自動巻き(Cal.587DR)。32石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約120時間。18KRG。3気圧防水。1338万円。

ありそうで、ない稀少性が最大の魅力

 ブレゲの典型的なトゥールビヨンといえば、6時位置にトゥールビヨン機構を、12時側に時刻を表示するオフセンターダイアルを配置して、両エレメントの上下と左右の対称性を重んじたデザインを持つ。これはブレゲが多用する手巻きトゥールビヨンムーブメントのコンフィギュレーションに依存する。

 そうした印象に変化をもたらしたのは、2004年初出の「クラシック トゥールビヨン・レギュレーター」だ。自動巻きで、古典的なレギュレーターのようにセンターに分針を置き、12時位置に時針を配したモデルである。そして、その進化版と呼べるのが、このロングパワーリザーブモデルだ。レギュレーターと同じくキャリバー587をベースにしながら、このモデルのキャリバー587DRでは、時針をセンターに移動して分針と同軸とし、12時位置のサブダイアルには新たにパワーリザーブ表示を担わせた。

 最大の特色である約5日間パワーリザーブはツインバレルによって実現され、指針で示される。現行の自動巻きトゥールビヨンのパワーリザーブは、右ページで取り上げた極薄型ペリフェラルローター式自動巻きキャリバー581DRの約80時間だが、シリコンのような先端素材やハイテクを用いない古典的な設計におけるロングパワーリザーブモデルは、この5317が唯一だ。また、自動巻きトゥールビヨンで、時分針が時計の中心にレイアウトされたセンターダイアルという条件を満たす点でもブレゲで無二の存在である。稀少性を求めるブレゲ愛好家にとっては見逃せない魅力的なモデルだ。


Marine Équation Marchante 5887

2017年に発表された「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」は、新生「マリーン」コレクションのプレリュードを演じる複雑時計の超大作である。極薄型の自動巻きトゥールビヨンムーブメントCal.581をベースにして、永久カレンダーと特別な均時差表示を加えたこのモデルは、1年間を通じてもう1本の独立した分針で真太陽時を常に表示するランニングイクエーションという独自の均時差表示システムを持つ。

マリーン エクアシオン マルシャント 5887
マリーン エクアシオン マルシャント 5887
永久カレンダーがダイアル上半分を占め、180°展開するレトログラード式の日付表示も特徴的。シースルーバックからは、ムーブメント外周のペリフェラルローターやボールベアリング支持のハイエナジー香箱、フランス王国の戦艦ロワイヤル・ルイの精緻な彫金などが鑑賞できる。自動巻き(Cal.581DPE)。57石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt950(直径43.9mm)。10気圧防水。2494万円。

腕に着けられる現代版マリンクロノメーター

 創業者アブラアン-ルイ・ブレゲがフランス経度委員会の会員であり、海軍省御用達時計師にしてマリンクロノメーター製作者であった歴史的背景に基づいて創作されたコレクションが「マリーン」である。このモデルは、そうした歴史に由来する名称だけでなく、トゥールビヨンはもとより、永久カレンダーと連動する均時差表示に至るまで、すべてアブラアン-ルイ・ブレゲによる発明を搭載するという奥の深い複雑時計だ。

 ベースに採用されたムーブメントは、ペリフェラルローターを採用する厚さわずか3㎜の自動巻きトゥールビヨンムーブメントのキャリバー581。前出の「クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5377」と同様に左上方向に微妙にずれたオフセンターダイアルは、5時位置にトゥールビヨンの窓が設けられ、トゥールビヨン機構を覆うように楕円形の均時差カムが重なる。サファイアクリスタルのディスクに据えられたカムの形状をスピンドル型のフィンガーがなぞることによって、永久カレンダーに連動しながら常時動き続ける真太陽時の分針の速度をコントロールするという仕組みである。トゥールビヨンと均時差の核心部を窓の中で一緒に見せて、アブラアン-ルイ・ブレゲの偉大な発明を強く視覚に印象付ける現代ブレゲの計算された設計は実に秀逸というほかない。

 正確な時刻を告げる高精度トゥールビヨンと計算不要の直観的な均時差表示が、マリンクロノメーターの腕時計化を現実のものとしたのである。

トゥールビヨン機構に重なる楕円形の均時差カムは透明なサファイアクリスタルのディスクに取り付けられ、1年で1周する。カムの内側に沿って移動しながら形状をなぞるルビーのスピンドルからの情報が差動歯車に伝わり、真太陽時を示す独立した分針の動きを制御する。2世紀を隔てた歴史的な機構と現代の技術革新との見事な融合だ。