時計の文字盤の種類はさまざま。お気に入りの一本を探すには

FEATUREその他
2021.06.25

文字盤で時計を選ぶ際のポイントとは

文字盤は、装飾技法を凝らした後でインデックスや針が取り付けられる。それらをおさめるケースも、文字盤と無関係ではない。

たとえば、文字盤が大きければ時刻等の情報を読み取りやすいが、文字盤の大きさはケース径に依存するため、大ぶりな時計になりやすいのだ。

ここでは、文字盤を中心として装飾以外にこだわりたいポイントを紹介しよう。

視認性が重要

腕時計は、文字盤から時刻や日付を読み取る道具というのが第一にあるため、情報の読み取りやすさ、つまり視認性の高さが重要である。

ここで文字盤の装飾とインデックス、針のコントラストをしっかり見ておきたい。できれば一方向だけからではなく、光源との位置関係を変えてさまざまな角度から、その視認性を確認したい。

目を凝らさなければインデックスや針を読み取れないのでは、快適な使用感を損なってしまうことは間違いない。色の統一性や部品の立体感、装飾が時刻の読み取りを邪魔しないか など、見るべき点は多い。

インデックスや針の夜光仕上げや、風防ガラスに無反射コーティングが施されているかどうかもチェックしよう。

文字盤ケースの大きさとデザイン

一般的なメンズ時計はケース径38〜43mm。それより少々小ぶりな35〜37mmが、ボーイズサイズとも呼ばれるサイズで近年、人気を集めている。それ以上小さくなると、基本的にはレディース用という区分になる。

ケースの素材でいえば、金属製ではステンレススティール、チタン、ゴールド、プラチナという順に高価になる。金属アレルギーに対応する素材がチタンおよびセラミックス製となる。

形状ラウンド型(円形)がベーシックであり、楕円形型もある。他には、正方形の「カレ」や長方形の「レクタンギュラー」、樽型の「トノー」などがある。

ケースの厚さは袖口の引っ掛かりを左右する。ワイシャツ、ニットなど着用する物にも影響するため、厚みも意識したい。基本的に機械式時計よりクォーツ式時計の方が薄く、総厚10.0mmを下回るものは快適な装着感が期待できる。

針の長さにこだわる

針やインデックスの形状は、視認性の確保のみならず、デザイン性をも左右する。

針の長さも見栄えや視認性に影響する。時針がインデックスに届いていないものは時間が読み取りにくい可能性があり、分針がケース内径ギリギリであれば長すぎると感じるかもしれない。

針は直線的なバトン型のものが一般的だが、形状の違いにもこだわろう。先端に偏心穴がある「ブレゲ針」や、剣の刀身のような「剣型針」、先端にかけて細くなる「ドフィーヌ針」などは、エレガントかつ視認性が高い。

また、インデックスはアラビア数字が一般的だが、クラシックなローマ数字はそれ自体にデザイン性を持つものも多い。数字の代わりにバーやドットを置くもの、くさび型や角型のインデックスなど、ブランドやモデルによってさまざまなパターンがある。

針は長さに加えて形状も意識し、インデックスのデザインも加味してトータルで見ていこう。

ブレゲ針

偏心という形状はアブラアン-ルイ・ブレゲが1783年に考案したオリジナル。当時、先端部をオープンワークとするデザインは斬新なものだった。現在は「ブレゲ針」と呼ばれている。


文字盤を鮮やかに彩るエナメル技法

文字盤についてさまざまなポイントを見てきたが、ここでもっとも芸術性の高い「エナメル」について紹介する。

エナメルの美しさの理由

クラシック 5177 グラン・フー・ブルーエナメル

新技術を搭載し、新たなエナメルの表現に挑戦したブレゲ銀座ブティック10周年記念モデル「クラシック 5177 グラン・フー・ブルーエナメル」。予価257万円。

時計におけるエナメルとは、金属製のベースプレートにガラス質の釉薬を焼き付ける装飾技法を指す。エマイユ(仏語で)、琺瑯(ほうろう)、七宝ともいわれる。

魅力はガラスの透明感や豊かな色合いを生かした、緻密な図案で、それらは芸術品を見紛うほど。

製作はすべて手作業で行う必要があり、焼成後の割れや収縮を抑える技術も要するため、時計製作での採用例は稀であり、ゆえに希少性も高く、マニアで垂涎モデルも多い。

技法上から有線七宝(クロワゾネ)、輪郭線をつくらずに異なる色の釉薬を塗り、焼き上げる七宝絵(エマイユ・パン、無線七宝とも)、素地に宣告あるいや薄い浮彫を施した上に透明な釉薬を焼き付けた透明七宝(エマイユ・ド・バス・タイユ)、金属を彫ったり腐食させてできたへこんだ部分に釉薬を焼き付ける象嵌七宝(エマイユ・シャンルヴェ)などがある。

クロワゾネ技法とは

クラシック 5177 グラン・フー・ブルーエナメル

文字盤中央にクロワゾネ技法によりヨーロッパやアフリカ大陸が描かれたパテック フィリップのワールドタイム「5231J-001」。価格803万円

「クロワゾネ」とは、エナメル装飾技法の一種であり、リボンのような金属線を輪郭線に、文様を区切るとともに釉薬の境界とする技法を指す。

この金属線は一般的にわずか0.7mmほどの金線であり、これを線画の形状に曲げて文字盤の下地に貼り付け、線の間に釉薬を流し込む。

釉薬に着色剤として参加コバルト(青)、酸化銅(緑)、酸化クロム(黄)、酸化鉄(茶)などを加えて色味を調節し、一色ごとに焼成を行う。焼成後の色は釉薬とは異なるものであり、焼成時に"割れ"もおこりうる。絵によっては十数回にも及ぶ焼成が必要であり、熟練職人の技が必要だ。

こうして完成したエナメルダイアルは、時計装飾技法のなかでも特にアーティスティックな感性が表現されたものであり、唯一無二の芸術品として希少価値が高い。


文字盤の修理は可能か

いかに緻密な文字盤でも、経年劣化により美しさが損なわれることは避けられない。

しかし、自力で修理を試みることは避けるべきだ。分解作業は問題をさらに深刻にしてしまう危険性がある。

そこでここでは、文字盤が汚れる原因を明らかにして、時計の寿命をのばすことを考えてみよう。

文字盤が汚れる原因

文字盤が汚れる原因は、湿気・カビ・ほこり・紫外線などだ。防水性能が高いモデルであっても風防内部は真空ではなく、わずかな湿気が徐々に腐食やカビの発生リスクを高めていく。

針の劣化や文字盤装飾の剥がれ、リュウズの操作中にごく微細なほこりが侵入することなどもありうる。

また日光を浴び続ければ紫外線によるダメージも蓄積していくため、文字盤の変色などの変性を起こす原因となるのだ。

文字盤再生とは

文字盤再生(リダン)は、時計修理工房が行う文字盤の修理サービスだ。

メーカーのアフターサポートでは文字盤修理に対応していない場合や、対応していても全面交換で高額な修理費が発生する場合がある。

文字盤再生では、文字盤の変色やカビ、金属板のサビなど部分的な修繕にも対応していて、修繕に合わせてカラーリングの変更を依頼することもできる。

ただし文字盤再生をした場合には、その時計は以後メーカーサポート対象外となる場合があるため注意しよう。


時計の顔ともいえる文字盤

ケースやムーブメントが時計のボディであるとすれば、文字盤は時計の顔である。

ブレスレットやストラップよりはるかに視線が注がれることの多い部分であるため、時計に愛着を持って長く付き合っていくには、文字盤の選択がカギとなるだろう。

前述したとおり、時計の"顔"はモデルの数だけある。そんななかから、自分好みの、そして長く愛用できるモデルを見つけだすためにも、わずかな差異にも気を配った妥協のない文字盤選びをすすめたい。


川部憲 Text by Ken Kawabe