超絶クォーツ、ザ・シチズン キャリバー 0100、渾身の使用レポ!

FEATUREその他
2019.11.15

年差±1秒を実現した、ザ・シチズン キャリバー0100搭載機

ザ・シチズンに加わった年差±1秒モデル
2019年に発売されたのが、ザ・シチズン キャリバー0100搭載の3モデルである。18KWG(AQ6010-06A:中)とTiモデル(AQ6021-51E:右)及び(AQ6020-53X:左)が用意された。いずれも限定品。

 今回Cal.0100を搭載したモデルは3つ登場した。18KWGのケースと革ベルトを組み合わせたモデル(限定100本)、シチズンの誇るスーパーチタニウムの外装に黒文字盤を組み合わせたモデル(限定500本)、そして筆者が今回入手したスーパーチタニウムにMOP(マザー・オブ・パール)文字盤を組み合わせたモデル(限定200本)である。合計800本という本数を多いと見るか少ないと見るかは悩ましいところであるが、100周年という観点からすると合計1000本にしても良かったのではないかと思う。

大きな文字盤と腕になじむブレスレット

 筆者が入手したのはスーパーチタニウムのケースにスーパーチタニウムのブレスレットが組み合わされたRef.AQ6020-53Xである。直径は37.5mmであるが、数字以上に大きく感じられる理由は、時計全体に文字盤が占める割合が非常に大きく、文字盤の直径が32.5mm(設計値)もあることが原因であろう。例えば、これまでのザ・シチズンの典型的なモデルであるAQ4020-54Yでは文字盤の大きさは、見返しリングを含まない状態で28mmである。Cal.0100搭載モデルは、文字盤の大きさが時計全体の直径が41mmのIWC「スピットファイア・クロノグラフ」と同程度なのである。

エコ・ドライブ

エコ・ドライブらしからぬ文字盤
エコ・ドライブに限らず、光発電で動く時計の大半は文字盤の下にバッテリーのソーラーセルを内蔵する。光を通す必要があるため、文字盤に採用するのは透明なポリカーボネート。このモデルも薄くカットしたMOPを、ポリカーボネートの裏に張り込んでいる。

 さらにケースサイドが垂直に裁ち落とされただけでなく、ラグがケースサイドから独立したデザインになっており、加えてブレスレットに近い位置に固定されたこともあって、時計全体の中で文字盤が非常に強調された印象を与えている。また全体的にヘアライン仕上げが施されたケースに対して、鏡面仕上げの針やインデックスがきらびやかに光ることが、その印象を一層強くしている。これまでのザ・シチズンもそうであるが、ビジネスシーンによく使われるロレックスやセイコーなどは、ケースサイドからラグが連続して繋がっているものが多い。またパテック フィリップの「カラトラバ」などの流れを汲むドレスウォッチも、ケースサイドに連続した曲線的なラグを持つが、本モデルのデザインはそれらとは一線を画したものであり、どちらかというとバウハウスの流れや70年代を想起させる直線的なものである。そしてそのラグはまた水晶をイメージした角柱状の形状となっている。シースルーバックにも関わらず裏蓋の厚みを抑えたこともあって、ラグ先端は側面から見ると時計本体に対して下がった位置になっている。そのため、0100は腕馴染みが非常に良い。

 また腕馴染みという点では、細かいコマに分かれたチタン製のブレスレットも大きく寄与している。分割が細かく繊細に可動することと、高温多湿の我が国の環境を考えてある程度ブレスレットのコマの間に隙間をおいたことが、良い装着感に大きな効果をもたらしている。その代わりにコマの調整方法が、ピンの太さが十分に取れずCリング式になっているのは、実用性では問題ないとはいえ、高級時計の多くがねじ止めであることを考えれば、高級感という点では悩ましいところである。

時間を確認することに特化したデザイン

ケースサンプル
ザ・シチズン キャリバー 0100の開発にあたっては、最初の段階からデザイナーが企画に加わった。これは3Dプリンターによるケースのサンプル。デザイナーの久保いずみ氏は「本作のテーマは潔さ。あえて様々な要素を落としました」とのこと。

 外装をもう少し見ていくと、ベゼルとベゼルと接する本体の上面がポリッシュされているのに気付く。その一方でラグやブレスはすべてつや消しの仕立てとなっている。この仕上げのために時計全体が平板な表情にならず、立体的に感じられるのは素晴らしい点である。個人的な趣味としてはラグの稜線にわずかに細い面取りをしてそこはポリッシュにしたり、ブレスは中央側のコマをポリッシュにしたりするなど変化を着けたほうが良いのでは、とも考えたが、実際に装着してみると、文字盤とラグ以外がすべてつや消しになっていることで、文字盤そのものに視線が集中する。「あくまでも時計は時間を見るのが本業」というシチズンのメッセージが感じられた。

 それには本モデルのスーパーチタニウムが、旧来のプラチナコーティングと異なり、渋い色合いになっていることも寄与している。通常のスーパーチタニウムは華やかで明るめのプラチナコーティングが施されており、ステンレスよりもむしろ白色が強いものとなっている。そのためチタン製の時計であることが強調されず、日常使いではメリットでもあった。一方の0100では、むしろチタニウムであることを過度に隠すことを嫌ったのか、ステンレスに近い落ち着いた色合いとなっている。しかしポリッシュではなくヘアライン中心の仕上げとしたこともあって、よくあるステンレス時計のピカピカした輝きではなく、もっと渋い印象をもたらすことになった。それはどちらかというと現代の時計よりもヴィンテージウォッチのような印象をもたらす。

クォーツらしからぬ長くて太い針


針の取り付けも極めてシビア
正確な運針と指針を可能にしたキャリバー 0100は針の取り付けも非常にシビアである。上はOKのサンプル。下はNGのサンプルである。わずか50ミクロン(!)幅の秒インデックスに対して、正確に秒針を重ねるのは、熟練工でもかなり難しい。

 ヴィンテージウォッチのような印象は文字盤の上でも続いている。それは太く大きく、高い植字インデックスとこれまた長い目盛りのために、1970年代のクリストロンなどの高級クォーツ全盛時代のデザインを思い起こさせられるためである。国産高級時計で近年よく用いられる60年代以前を想起させる笹針ではなく、直線的なデザインの3針もその印象をさらに強めている。その一方で単純な懐古主義には陥っておらず、2019年の時計ならではの改変も多く見られる。例えばインデックスの頂上には70年代であればオニキスを置いたであろうが、0100ではそこをヘアライン処理にして視認性を改善すると共に古臭さを取り払っている。側面は非常によく磨かれた鏡面処理となっているため対比が美しく、また非常に見やすいものとなっている。

 針も往年のクォーツではシンプルなものが多いが、堂々たる長さと太さであり、分針と秒針が見事にインデックスに届いているのは視認性を高めるとともにこの時計が真摯に時計が時を計る機械として作られたことを実感させられて喜ばしいものである。クォーツ時計でここまで機械式時計に匹敵するような針を与えられたモデルがあっただろうか。その上分針と秒針は先端が曲げられており、斜めから視認したときに(実使用ではその機会は非常に多い)インデックスにきちんと合って読みやすく、また良い時計であることを実感させられるのである。

 エコ・ドライブのザ・シチズンでは文字盤に透明な板を挟んでいるが、旧来の物と比較してより薄い物を使っているのか、ロゴやインデックスが浮き上がっている様な違和感は小さくなっている。光り方を抑えられたロゴと相まって、より落ち着いた雰囲気を醸し出している。

長く使えることを意識したムーブメント

Cal.0100

年差±1秒を実現したCal.0100
年差±1秒を実現したムーブメント。水晶振動子には温度特性に優れ、経年変化と姿勢差誤差が小さいATカットを採用。そこに約8.4MHzという超高振動と一日1440回の温度補正を加えている。また、時針の単独修正機能に加えて、衝撃検知機能と、針位置自動補正機能も備える。徹底した省電力化により、光発電のエコ・ドライブで駆動する。

 搭載するCal.0100についてはこれまで『クロノス日本版』をはじめとしてその技術的な素晴らしさは語りつくされている。筆者が着目したのは3針クォーツムーブメントとしては別格ともいえる17石も用いている点である。例えばCal.0100と並ぶ高級クォーツムーブメント、セイコーの9Fでも9石であり、スペック上超高精度年差ムーブメントとして比較されるETAのロンジン「V.H.P.」のCal.288.2は0石(無石)である。必ずしも石が多ければよい、というものではない(ロンジンのムーブメントも温度補正など数々の優れた機構を備えている)が、機械式時計愛好家からの目としては、石を潤沢に用いていることはこのムーブメントが超長期にわたって愛用されることを想定しているのではないか、と期待させられるものである。
 
 ムーブメント表面のストライプパターンも美しく、また黒色の仕上げも珍しいが、筆者が特に気に入ったのは中央付近のブリッジがカットアウトされているところで、そこから精緻な歯車の動きを楽しめるのが、ブラックボックスにとどまることが多いクォーツ時計の見栄えから一歩踏み出して新しい魅力を作り出しているように思われるのである。

超高精度時計を使っているという心地よさ

ザ・シチズン キャリバー0100搭載モデル 18KWGケース

ザ・シチズン キャリバー0100搭載モデル 18KWGケース
こちらは18KWGモデル。文字盤はポリカーボネート製だが、もはや金属と質感に相違ない。光発電エコ・ドライブ(Cal.0100)。17石。838万8608Hz。。パワーリザーブフル充電時6ヵ月、パワーセーブモード時8ヵ月。18KWG(設計値/直径37.5mm、厚さ9.1mm)。5気圧防水。(設計値/直径37.5mm、厚さ9.1mm)。5気圧防水。Ref.AQ6010-06A。世界限定100本。180万円。

 筆者が日常的に使用している限りではこの時計はまったく電波時計に対してズレが起きなかったが、その点については正当な評価は少なくとも数か月以上の期間は必要であろう。ただ、日常的な使用を心がけて猫かわいがりすることを避け、雨中での使用や、子供とのキャッチボールなどの際も装着したままであったが、精度上のずれもなく、スーパーチタニウムの外装は小傷ひとつ付くことがなかった。シチズンの時計としては例外的に太く長い針による視認性も素晴らしく、先の曲がった秒針と共にインデックスにピッタリと合う様を現出させており、自分が超高精度時計を使っている心地よさを実感させてくれる。

 夜光は一見控え目であり、ドレスウォッチとして最小限に留まっている様に見えるが、他社の様に特に名称を付けて喧伝していないでも最新の物が用いられている様で、夜間の視認性が存外に良いのも素晴らしい点であった。これならば夜光がないと往々にして減点するドイツ版の『クロノス』のレビューでも認められるであろう。

数少ないマイナス点は、シースルーバックによる張り付き

気になった点としては、猛暑の日に使用した際にシースルーバックであるために裏蓋が汗で張り付いて不快になった事であるが、軽いチタン外装と前述の目の細かいブレスに助けられてシースルーバックの時計の中では良好な方であったと申し添えておく。この点については将来のガラスへのコーティングなどの技術改良に期待したい。感触を確かめるためにやむなくリュウズを操作したが、一段引き出したところの時針補正のクリック感はなかなか上々であった。時刻合わせも行ってみたが、初動の際の遊びこそあって惜しい印象ではあったが、いざ針を動かしだすとズレのないしっかりした感触であり、シチズンの確かな生産技術と開発者の時計に対する高い見識を感じさせられた。

 ただし針の遊びについては超高級手巻きムーブメントの域には達しておらず、分針を完全に正確に合わせるのには手間取ることもあったのが惜しく感じられた。何分超高精度時計だけにきっちりと合わせたくなるのである。多角形の見た目に反してリュウズも扱いやすいが、後述の精度の高さも考えるとむしろ必要がない時には操作をしない方がよいかもしれない。

文字盤の種類が増えると理想的

ザ・シチズン キャリバー0100の製作にあたって、デザインチームは文字盤で様々な試行錯誤を行った。これは文字盤のサンプル。現在ラインナップにあるのはホワイト、ブラック、そしてMOPだが、様々なバリエーションがあることが分かる。今後の展開に期待だ。

 文字盤の色合いは藤紫というべき微妙な色合いのブルーグレーで曇天からわずかに青空がのぞくような風情を感じる美しいものである。この文字盤自体は美しく素晴らしいものだが、将来の展開としては例えばマットなスターリングシルバー風やオパーリン風の仕上げなどがあれば、より冠婚葬祭にも対応しやすいかもしれない。また日常的な万能時計として10気圧程度の防水性があれば、さらに非の打ちどころがなかったと思う(乱暴に扱わなければこの時計の5気圧防水でも十分とも言えるが)。とは言え、ややドレスよりのルックスも合わせ、この時計はスポーツウォッチよりも、もう少し丁寧に扱うべきだろう。
 
 この時計はシチズンの高級機らしく10年間に3回の無料点検を受けられるが、今までの私の印象からすると、海外へ出掛けて時差補正等をする場合を除いて、事実上一度もリュウズを触らずに済んでしまいそうである。