2019 スウォッチ グループ 最前線

FEATURE本誌記事
2019.12.24

4つのテーマで見る、スウォッチ グループの今

バーゼルワールドからの離脱ばかりが注目されるスウォッチ グループ。しかし、今年のTIME TO MOVEでは、他のグループには見られないいくつかの試みが散見された。

待望の工房オープン化

多くのジャーナリストが指摘してきた通り、スウォッチ グループの露出は他グループに比べて多くなかった。その一因とされてきたのが、同グループがメディアに対して工房を非公開にしてきたことだった。加えて、一部の人にしかプロダクトを語る許可が与えられなかったことも、露出を減らす原因となった。しかしTIMETO MOVEの開催に伴い、スウォッチ グループは姿勢を180°転換した。このイベントに参加したジャーナリストは、5ブランドの工房を見て回ることができたのである(ドイツに工場のあるグラスヒュッテ・オリジナルは除く)。その中には、これまで完全非公開だったオメガの新工場(左写真)や、ジュネーブにあるハリー・ウィンストンの本社兼工場も含まれる。加えて、CEOやプロダクトマネージャー自らが、新製品を説明する歓待ぶりだ。ブレゲCEOのティエリ・エスリンガー曰く「ようやく見せるだけの体制が整った」とのこと。今後もこの姿勢が続くことを切に願いたい。

重視されるのは装着感

先日、オメガ社長のレイナルド・アッシェリマンと話をする機会があった。彼は今後の高級時計に必要な条件として、優れた装着感を挙げていた。彼の言葉が証明する通り、最近のオメガは、以前に比べて着け心地が良くなった。好例が、今年のアポロ11号 50周年記念 リミテッド エディションに採用された薄手のブレスレットだろう。こういった傾向はオメガに限らない。ブランパンは「フィフティファゾムス」に待望の軽いチタンケースを加えたほか、極めて精密なミルマインブレスレット(左写真)をヴィルレコレクションに拡充した。左右の遊びは適度で、ヘッドとブレスレットの重さもちょうどいい。装着感にうるさい人には強くお勧めしたいブレスレットだ。グラスヒュッテ・オリジナルも、新作の「SeaQ」に8段エクステンション付きのブレスレットを与えた。今や外装の改善だけでなく、装着感にまで目を向けるようになったスウォッチグループ。ここまで大きく変わるとは、正直予想もしていなかった。

トレンドはクリア塗装なし

数年前、ハリー・ウィンストンCEOのナイラ・ハイエックは筆者にこう語った。「文字盤を保護するためのクリアラッカーは吹かなくなった」。エナメル文字盤を例外として、文字盤の上には透明なラッカーを吹く(ザポナージュという)のが時計業界の常識だ。ラッカーを吹かないと、やがて文字盤は紫外線で劣化する。しかし、ルイ・ヴィトンの文字盤を製造するラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンは一部の文字盤からザポナージュを省き、ハリー・ウィンストンもそれに続いた。同社のプロダクトマネージャーはこう語る。「今や塗料の質が良くなったため、文字盤にクリアを重ねる必要がなくなった」。また、風防にUVカットのコーティングを施せるようになったことも、ザポナージュを省略できた一因だろう。ハリー・ウィンストン(左写真)はもちろん、オメガやブレゲなども今年から一部のモデルでこのプロセスを省いた。今後、ザポナージュなしが普通になると、より凝った文字盤が増えるに違いない。

メティエダールの本格的な取り組み

新技術の開発に取り組む一方、スウォッチ グループの各社は本格的にメティエダールを開拓しようと試みている。好例はブレゲだ。長らく同社は、幾何学的なギヨシェのみを採用してきたが、今年はMOPに波模様を施したり、ムーブメントにマイクロギヨシェを加えたりするようになった。また、メティエダールとは無縁と思われたオメガも、今や積極的にエナメル文字盤を採用する。もっとも、プラスアルファを加えるのがいかにも今のスウォッチ グループだ。ブレゲはMOPを彫るバイトにダイヤモンドを使う(上写真)ほか、オメガはエナメル文字盤の土台に、800℃で焼いても歪みの生じないセラミックスを採用した。新技術とメティエダールの融合は、今後のスウォッチ グループを見る上での大きなテーマになるだろう。なお、個人的にこの分野で注目したいのは、ジャケ・ドローだ。工房の拡充に伴い、今や同社は、ヴァンクリーフ&アーペルを射程に収められるだけの能力を持つようになった。