VACHERON CONSTANTIN LE TEMPS DES CONNAISSEURS

FEATURE本誌記事
2020.02.03

HISTORIQUES

歴史の中に生き続けたデザインを未来へと橋渡しする継承者たち

アーカイブの再解釈から生まれる現代的な個性。これはヴァシュロン・コンスタンタンが持つ老舗ならではの特質のひとつだが、中でも一際強い光彩を放つのが「ヒストリーク」だ。2003年頃から試みられてきた“デザイン復刻版”は、その数を増やすと同時に、パーマネントコレクションの一翼を担うようになる。260年を超える歴史の証言者たちは、まさしく愛好家垂涎の存在だ。

in Tokyo
am10:37 | UTC+0900 |

 トーキョー、午前10時37分。ヴィンテージだけが持つ時代を重ねた唯一無二の風格に、他人とは異なる個性を見出した瞬間のように、生き方まで他人と異なる選択を続けてきたら、いつしか昼夜逆転の人生になってしまった。眠気覚ましに濃いコーヒーを淹れ、遅めの時間に設定したミーティングに連れ出す時計をじっくり選ぶ。今日の気分は「ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ 1955」。水牛の角と呼ばれたファンシーラグを持つ、1950年代の防水クロノグラフを現代的にアレンジしたモデルだ。2002年頃から本格的に開始されたアーカイブの精査によって、その歴史的な意義や実際のフォルムを換骨奪胎していった成果がパトリモニー(04年初出)へと帰結したことは既に述べたが、もっと直接的な副産物である「ヒストリーク」にこそ、愛好家たちは熱狂していた。最初期のリミテッドエディションとして登場した「トレド」のデザイン復刻版(03年初出/後のヒストリーク・トレド 1952)などが、ヒストリーク・コレクションの原点と言えるだろう。故ドミニク・バロンに製作が託されたグラン・フーのエナメルダイアルを持つ「クロノメーター・ロワイヤル 1907」(07年)や、新規開発された大径の手巻きムーブメント、キャリバー4400を初搭載した「ヒストリーク・アメリカン1921」(正式発表は09年)などが登場すると、これらを統合するかたちで、ヒストリークはパーマネントコレクションの一翼を担うようになってくる。そして現在では、まさしく愛好家垂涎の存在へと成長を遂げている。歴史の中で脈々と生き続けてきたデザインは、次世代へと受け継がれてゆくのだ。

ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ 1955

ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ 1955

2015年初出。写真のSSケースは19年に追加された新作。直接の原型となったのは、ヴァシュロン・コンスタンタン初の防水クロノグラフとなった1955年製のRef.6087で、カウホーンと呼ばれたファンシーラグの愛称が、そのままモデル名に採用された。パティーヌ仕上げのカーフストラップは、伊ミラノのセラピアン製。定革中央に設けられた外縫いのフラップは、鞄にハンドルを取り付ける“アタッコ”を模したものだ。手巻き(Cal.1142)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径38.5mm、厚さ10.9mm)。3気圧防水。420万円。

ヒストリーク・トリプルカレンダー 1942

ヒストリーク・トリプルカレンダー 1942

2017年初出。1942年製のRef.4240をモチーフとする本機の他、1948年製のRef.4240Lを原型とするバリエーションモデルが同時発表された。両者の違いはムーンフェイズの有無だが、クロウ(鉤爪)と呼ばれるティアドロップラグの形状も、個別に作り分けられていた。「1942」のほうが、よりふくよかな正面形状を持っており、ケースサイドに彫り込まれたトリプルゴドロン装飾とも抜群の相性を見せている。手巻き(Cal.4400QC)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径40.0mm、厚さ10.35mm)。3気圧防水。212万円。

ヒストリーク・アメリカン 1921

ヒストリーク・アメリカン 1921

2017年に追加されたユニセックスサイズ。搭載ムーブメントがレギュラーサイズと同様なため、針位置も完全に一致する。その分、ケースやダイアルの凝縮感が大きく高まった印象だ。大径ムーブメント時代の先駆けとなったレギュラーサイズの構成要素を受け継ぎながら、共に破綻のないバランスを維持している事実こそ、同社デザインチームの力量を示す。レッドの他、ブラウンのアリゲーターストラップが付属。手巻き(Cal.4400AS)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KPG(幅36.5mm、厚さ7.25mm)。3気圧防水。292万円。

ヒストリーク・アメリカン 1921

ヒストリーク・アメリカン 1921

2008年初出。ヒストリークコレクションの先駆けとなった記念碑的なモデル。当時、次世代基幹ムーブメントとして新規開発されたCal.4400 ASを初搭載したモデルとしても知られる。クッションケースの対角線上にリュウズを配した特徴的なデザインは、懐中時計用のレピーヌキャリバーを載せた往年のドライバーズウォッチが原型。ダイアルは、一般に“ブレゲスタイル”と呼ばれるアラビア数字とアップルハンドの組み合わせ。手巻き(Cal.4400 AS)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KPG(幅40.0mm、厚さ8.0mm)。3気圧防水。354万円。