セイコー国産ダイバーズ55年のヘリテージ 継承と進化のトリロジー(後編)

FEATURE本誌記事
2020.04.08

1968 Professional Diver’s

セイコーのダイバーズウォッチは年を追うごとに飛躍的に進化した。その先駆けとなったのが、1967年のRef.6215-010と翌年の後継機Ref.6159-010だ。300mの防水性能に加えて、より改善された視認性は「プロフェッショナル」の名に相応しい。2020年の再復刻に際して、そのディテールはさらに熟成した。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX011

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX011
質感を大きく高めた2020年モデル。300mの防水性能はオリジナルに同じだが、飽和潜水仕様となった。自動巻き(Cal.8L55)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。エバーブリリアントスチール(直径44.8mm、厚さ15.7mm)。300m飽和潜水用防水。世界限定1100本。セイコーウオッチサロン、セイコーグローバルブランドコアショップ限定モデル。70万円。7月10日発売予定。

 セイコー初のプロフェッショナルダイバーズウォッチが通称「300mダイバー」である。ケースはワンピースに、風防の固定方式はバヨネット式に、そして頑強なねじ込み式のリュウズを持つことで、防水性能は300mに高まった。発表は1967年のこと。翌年に高振動の自動巻きを載せて完成を見た。

 2020年モデルのベースとなったのは18年の復刻版である。素材と文字盤の色を変更したのは1965年モデルの復刻版に同じだが、そのディテールは非常に凝っている。例えば、夜光塗料を盛ったエンボスインデックス。1965年の150mダイバーは鏡面仕上げだったが、300mダイバーでは挽き目仕上げとなった。プレスで打ったインデックスに、ひとつひとつ挽き目を付ける作業は、オリジナルそのままに再現された。また、時分針もグランドセイコーよろしく、周囲をダイヤモンドカット処理することで立体感を増している。こういった手法は、そもそも視認性を高めるためのものだった。しかし、加工精度が上がったことで、最新版は、そういったディテールを高級時計らしさに置き換えられるようになった。

1968年に発表された300mダイバーは、極めて近代的な設計を持つダイバーズウォッチであった。70年に冒険家の植村直己と松浦輝夫がエベレスト登頂に携帯したことで、一躍有名になった。なお、完全なプロユース向けだったため、ケース構造はワンピース。

 細部の詰め方は逆回転防止ベゼルの感触にも明らかだ。メンテナンスをしやすくするため、セイコーは逆回転防止ベゼルの構造に従来からの板ばねを採用した。しかし、部品の精度が上がったため、感触は実に密である。また、リュウズのガタのなさも、今の高級時計風である。

 プロユースに耐え得る高性能と時計好きに訴求する質感を巧みに両立させた300mダイバー。復刻版というエクスキューズを抜きにしても、大変に魅力的なモデルだ。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX011

(左)筋目模様が目立つ文字盤。エンボスインデックスと筋目文字盤の組み合わせは非常に難しいが、セイコーは今回それを実現してみせた。文字盤に筋目を付け、塗装した後にプレスしてインデックスを浮かび上がらせている。(右)ファーストモデルに同じくインデックスはエンボス加工される。しかし視認性を高めるため、外周にはひとつひとつ手作業で挽き目仕上げが施される。なお針も真鍮製。1965年モデルと75年モデルの針はアルミニウム製だが、このモデルはオリジナル同様の質感を求めて秒針の素材にあえて真鍮を使用した。

1968メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX011

(左)本作は、オリジナル同様のワンピースケースを持つ。刻印はエッチングではなくプレス(シリアルはレーザー加工)によるものだ。ケース側面の歪みの小ささが示す通り、エバーブリリアントスチールでも高い加工精度を実現している。(右)やはりエバーブリリアントスチールの白さが際立つ筋目模様。