大いなる王冠の下に ロレックス工場探訪記(前編)

FEATURE本誌記事
2020.05.20

プラン・レ・ワット――ケースとブレスレットの製造

ジュネーブ州内プラン・レ・ワット地区の拠点では、オイスタースチール、ゴールド、ロレゾール(オイスタースチールとゴールドのコンビネーション)、プラチナのケースとブレスレットを製造している。ロレックス独自の合金であるエバーローズゴールドを作る鋳造場も印象的だった。

 ジュネーブ州内のロレックスの中枢部からそれほど遠くない場所にプラン・レ・ワットという地区がある。ここはパテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンなど、名だたるマニュファクチュールが立ち並ぶところだ。2005年、ロレックスはパテック フィリップ本社から何mも離れていない場所に、ケースとブレスレットを製造する拠点を置いた。工場の敷地面積は約16万㎡で、アカシアと同じくらいの規模だ。ここでは目に入るものの多くが印象に残る。その中でも、訪れた見学者が真っ先に語りたくなるのは、ロレックス独自のゴールドの鋳造場と地下にある巨大な部品倉庫だろう。この倉庫は天井までの高さが12mあり、横幅は25m、床からは40mの深さに収納できるようになっていて、出し入れの操作はコンピューター制御で完全にオートメーション化されている。全長1.5㎞にわたってレールが敷かれた倉庫内には、収納スペースが6万カ所ある。従業員によると、1カ所のパレットを動かして在庫品を取り出し、手元に来るまでに8分かかることもあるという。技術的にトラブルが発生した場合でも作業が続けられるように、収納スペースは二分されており、一方に不具合が出ても、もう一方で対応できるようになっている。

 近未来な気分を味わえる倉庫とそのシステムに比べると、まったく対照的に古風な雰囲気に包まれるのが鋳造場だ。ここでは24Kの金や銀、銅、パラジウムなどの原材料を独自に加工して、ホワイトゴールドやイエローゴールドのほか、特許取得の特別な素材のピンクゴールドも作られる。これは色味が半永久的に持続するとされ、〝forever〞の意味から「エバーローズゴールド」と名付けられているものだ。鋳造の最初の段階で、延べ棒状態の金属は小粒の玉状に加工され、それを再び棒状に整え直してから冷却し、延伸の後に加熱して、素地の内部構造がよりきめ細かになるよう作業が進められる。素地をきめ細かに整えるのは、その先に待っている工程のために重要なのだ。ケースや裏蓋の打ち抜き、ブレスレットのコマの加工、手仕上げによる研磨は、素地の出来がものをいう。ちなみに、ロレックスではケースとメタルブレスレットは100%が手仕上げで研磨される。パーツの表面は機械でいったん自動的に研磨されてはいるのだが、最終的には研磨のトレーニングを十分に受けた従業員によって、表面に光を受けた時に想定通りの反射が起こるまで長時間にわたり手で磨かれる。この作業に従事する者をフランス語で〝ポリスール〞というのだが、スイスのフランス語圏では職業として成立していて、3年間の訓練期間を要する。

 ケースやブレスレットに関してもロレックスの方針は同じで、作業のやり方が決まっていても、それで本当に良いのか徹底的に自問し、常により良い方策を可能な限り模索し続けるのがこのブランドのやり方だ。エバーローズゴールドはその一例だが、改良を追求してきたオイスタースチールにも同社の姿勢が表れている。オイスタースチールは極めて耐性の高いステンレススティールの一種としてロレックスが長年使用している素材で、一般的に904Lと呼ばれているものを指す。多くの時計メーカーがステンレススティールとして316Lを使用してきた間にロレックスが904Lに絶大な信頼を寄せてきたのは、こちらのほうがさらに腐蝕に強いからだ。

 しかし腕時計を実際に使う者にとって、どの金属素材によりメリットがあるのか?その加工にはどのような特殊工具を使って作業が行われ、独自の合金にはどんな原材料を必要とするのか?こうした疑問に答えてくれるのが社内にある実験センターだ。ここはとりわけ化学的な事柄を扱っていて、各種オイルの使用法に加え、グリースや電解溶液について研究している。ケースとブレスレットの開発が行われているのもここだ。ブレスレットの耐久性を確認するために、折り畳み式のクラスプを10万回開いたり閉じたりする装置も置かれている。この装置でテストすることによって、100年間の使用をシミュレーションできるという。そして、電子走査顕微鏡も備えられており、金属の表面を50万倍に拡大して組成を分析することも可能なのだ。

ロレックス 工場探訪記の後編は下記URLより
https://www.webchronos.net/features/44600/


ロレックスの歴史を年表形式で解説

https://www.webchronos.net/features/28865/