世界を驚かせるグランドセイコー史上最高ムーブメント(前編)

FEATURE本誌記事
2020.08.05

Heritage Collection Mechanical Hi-Beat 36000 80 Hours

初代グランドセイコーが目指した高精度は、1960年代後半に一通りの完成を見た。それから半世紀以上を経て、メカニカルムーブメントの9S系を進化させたセイコーの設計者たちは、さらなる高精度を追求した。完成したのは、市場にあるどのムーブメントにも似ていない専用機、Cal.9SA5である。セイコーはこのムーブメントに、フラッグシップに相応しい器を用意した。

グランドセイコー SLGH002

ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours SLGH002 / Cal.9SA5
新規設計のCal.9SA5を搭載したグランドセイコーのフラッグシップモデル。立体的な造形を持つが、ケース厚は11.7mmに留まった。自動巻き(Cal.9SA5)。47 石。3 万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KYG(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。グランドセイコーブティック限定モデル。世界限定100本。450万円。「基礎設計革命」を掲げて生まれた新型ムーブメント。薄型化のために直径を大きくする、薄型化をするというトレンドを踏まえつつ、最新の時計理論に基づくユニークな機構を盛り込んでいる。また、構想段階からデザイナーが関わることで審美性も強調された。理論上は非常に優れた携帯精度を持つはずだ。直径31.6mm、厚さ5.18mm。グランドセイコーフリースプラング、デュアルインパルス脱進機搭載。

 1960年のファーストモデル以降、しばしばグランドセイコーは、飛び抜けた超高精度機を搭載してきた。好例は、69年の天文台クロノメーターやV.F.A.などだろう。こういった路線の究極が、本年の「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours」である。

 確かに往年の天文台クロノメーターやV.F.A.は傑出した高精度機だったが、あくまで既存のムーブメントの改良版であった。対して9SA5は、設計で超高精度を叩き出すべく生まれたものだった。天文台コンクールで培った高振動化の手法に、約80時間のロングパワーリザーブ、まったく新しいデュアルインパルス脱進機にグランドセイコーフリースプラング、新形状の巻き上げヒゲゼンマイと精度の追い込みが可能な可動式のヒゲ持ち。これほどのムーブメントを得たセイコーが、相応しい外装を与えようと考えたのは当然だろう。

 フラッグシップモデルらしい見た目を与えるべく、アイコンであるラグ、インデックス、そして針は太くされ、立体感も増した。にもかかわらず、ケースは11.7㎜と薄くなり、装着感は改善された。これは精度だけを誇る腕時計ではなく、あくまでもグランドセイコーなのだ。

 スイスの高級腕時計を凌駕すべく生まれた初代グランドセイコー。その願いは、「ヘリテージコレクションメカニカルハイビート36000 80 Hours」でいよいよ完成を見た、といって過言ではない。これは、日本の時計史に残る金字塔だ。

グランドセイコー SLGH002

(左)太い針とインデックス。3万6000振動/時という高振動で、これだけ太い針を回せるのは、Cal.9SA5の非凡な基礎体力があればこそ。針とインデックスはお馴染みのダイヤモンドカット仕上げ。複数の面に歪みなく施すのは極めて難しい。
(右)高級機らしく文字盤と針のクリアランスは大きく詰められた。風防はボックス型のサファイアクリスタル。ギリギリまで肩を張ることで、立体感と高い視認性を両立。

グランドセイコー SLGH002

ミドルケース。ラグを短く切ることで全長を詰めているのが分かる。ミドルケースを絞ることで、腕時計はさらに薄く見える。

グランドセイコー SLGH002

(左)メンテナンス性を向上させるため、受けは分割された。表面の仕上げには、開発地である岩手県に流れる雫石川をイメージした温かみのある曲線を施している。立体的な穴石も注目に値する。
(右)いっそう立体感が増したラグ。5つの面が歪みなく磨かれていないと、ラグの先端は左右で揃わない。