海外ジャーナリスト的「上半期に発表された時計」ベスト5 H.モーザー、F.P.ジュルヌなど/ピーター・チョン編

FEATURE本誌記事
2020.08.30

ピーター・チョンが大規模国際時計見本市を問う

異常事態が続く2020年の国際時計見本市

2020年は、さまざまな意味で異常な年だった。新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより、業界は大きな打撃を受け、その結果、すべての時計フェアは中止された。そしてウイルスの蔓延によりほとんどすべての政府が国境を封鎖し、人々をロックダウンする目前に、「LVMHウォッチウィーク-ドバイ」だけが擦り抜け生き残った。

 ドバイで開催されたLVMHのショーは1月17日に開催され、ブルガリのイベントが主で、ウブロとゼニスも斬新な発表を行った。また、ドバイに経営陣が住む、特にH.モーザーとMB&Fは、サイドショーで斬新さを披露した。これらから、H.モーザー「ストリームライナー・フライバック クロノグラフ オートマティック」とMB&F「フライング T」が登場した。

 2019年10月に「ウォッチズ&ワンダーズ」への名称変更を発表した「SIHH」は、差し迫ったパンデミックに対応し、2月27日に2020年の開催中止を発表した。翌日、バーゼルワールドも2020年開催の中止、2021年1月の再開催を発表した。

 バーゼルワールドは、そのあまりにも長きにわたる傲慢さと日和見的な態度に対し、ここ数年非難を浴びてきた。多くの出展社は展示費用だけでなく、そのサポート構造の独占体質にうんざりしてきていた。例えば、スウォッチ グループは2019年にバーゼルワールドを撤退し、「Time to Move」という独自のショーを開催した。2020年も「Time to Move」を開催の予定だったが、パンデミックにより中止することになった。

 ブライトリングも撤退し、2020年に地域のノベルティ・サミットを開催することを選択した。セイコーのブランドも、4月下旬の開催はかなり遅すぎるという理由で、2019年12月までにバーゼルワールド2020を撤退した。セイコーは3月に東京でのサミット開催を選択したが、後に中止されることとなった。

 この段階で、2020年開催予定のすべてのショーは中止となり、すべての目は2021年に注がれている。その頃、バーゼルワールドは2021年1月に予定され、ウォッチズ&ワンダーズ2021の開催日に関するニュースはまだなかった。

 次の激震は2020年4月14日に起きた。ロレックス/チューダー、パテック フィリップ、ショパール、シャネルが、共同リリースによりバーゼルワールド2021からの離脱を表明したのだ。これは大きな発表だった。バーゼルワールド離脱という彼らの決定は、バーゼルワールドのマネージメントの決定に不満があるということだ。

 我々はバーゼルワールドの死亡証明書に署名されたも同然であるとある記事に書いた。先のロレックス/チューダー、パテック フィリップ、ショパール、シャネルの共同リリースの冒頭には、ウォッチズ&ワンダーズは2021年4月開催予定で、これらの5つのブランドはウォッチズ&ワンダーズに隣接して新しいショーを開催するだろうと書かれている。

 4月17日、LVMHグループのタグ・ホイヤー、ゼニス、ウブロもバーゼルワールド2021からの離脱を発表した。

 そして、それは確かにバーゼルワールドの終焉を意味した。直後の5月7日に、バーゼルワールドを運営しているMCHグループがバーゼルワールド2021年の中止を発表した。世界最古の時計ショーに何が起きたのか。ただ、彼らがおそらく別のかたちで戻る方法を検討しているという短い約束だけが聞こえてきた。

 その直後、ウォッチズ&ワンダーズは最後の一斉射撃を浴びせた。メジャーなメゾンの多くが、2020年のジュネーブのショーの元の日程に合わせて、デジタル版のライブ配信を実行したのだ。予想通り、景気の低迷により、各ブランドは時計学的に最も興味深い時計の発表には消極的で、ほとんどのメゾンはダイアルとケースのバリエーションのリリースを選択した。

 例外は、2017年にコンセプトとして示された超薄型ドレスウォッチである「アルティプラノ アルティメート コンセプト」を商用リリースしたピアジェと、複雑な「レ・キャビノティエ」シリーズのヴァシュロン・コンスタンタンである。


選者のプロフィール

Peter Chong/ピーター・チョン

時計情報サイト「Deployant」の共同創業者兼編集主幹。A.ランゲ&ゾーネの世界的なコレクターとしても名を馳せる。主著に『The Pour le Mérite Collection』など。