機械式時計復活後のグランドセイコーで絶対に知っておくべき名作モデルたち

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2022.01.03

Cal.9S55を載せたSBGR003

SBGR003

Cal.9S55を搭載した記念すべきモデル「SBGR003」。37mmのケース径や10気圧防水といった実用時計にふさわしいスペックを誇る。当時としては珍しく、トランスパレントバックを採用する。

 今回取り上げる最初の時計がこのグランドセイコー「SBGR003」である。先に述べた通り機械式グランドセイコー復興の第1弾はステンレスの「SBGR001」と金無垢の「SBGR002」であった。当時の企画担当者は、機械式を復興させるに当たって、現代的なコンテンポラリー(SBGR001)とクラシック(SBGR002)のふたつのラインを作った、と述べた。

 SBGR002は、後年発表された初代モデルの復刻版といった、過去作の直接的な再現ではないものの、直径35mmと当時でも控えめな大きさとともに、そのデザインも往年のグランドセイコーの流れを汲んだとされる、クラシカルなものであった。実際、幅の広いラグのデザインなどは初代グランドセイコーや2021年に発表された「キングセイコーKSK」を思わせるものだ。

 対してコンテンポラリーを表現したSBGR001は、まさに主力モデルとして位置付けられた。直径37mmのステンレスケースと銀文字盤の組み合わせは、当時のビジネスユースに向く時計としてはドンピシャな大きさとデザインである。

 今回取り上げたSBGR003はそのSBGR001のバリエーション違いである。筆者が見た限りでは、機械式グランドセイコー復刻が復活した後の、初の機械式の限定モデルと思われる。直径37mmのステンレスケースやブレスレットはSBGR001と同じだが、文字盤はギョシェ(と当時の資料にはある)が刻まれたベージュとなり、また裏蓋がシースルーバックに変更された。今では機械式高級時計の多くはシースルーバックを備えているが、セイコーが高級機械式時計復興の狼煙として登場させたSBGR001/002はソリッドバックだったのである。

 現在でも実用性重視でムーブメントの仕立てにも装飾的な仕上げを多用しないロレックスは頑なにソリッドバックを通しているが、他のメーカーは多くがシースルーバックを持つようになった。実用性重視と言われるIWCですらその例外ではない。しかし、SBGR001が登場した1998年の時点では、機械式時計であってもムーブメントを見せるシースルーバックよりも伝統的なソリッドバックが主流だった。シースルーバックが主体となったのは、機械式時計が実用的なものというよりも、趣味として楽しむものとなり、クォーツとは本質的に区別されることが多くなった21世紀に入ってからであろう。

 例えばドイツ・グラスヒュッテのノモス グラスヒュッテは、今でこそシースルーバックによって良く仕上げられた魅力的なムーブメントを見ることのできるモデルが大半である。しかし、登場当初はほとんどがソリッドバックであり、その宣伝文には「将来時計師がこの時計を開いたときに美しい仕上げに驚くことでしょう」とあった。セイコーの安価なラインであるセイコー5も20世紀末まではソリッドバックであったが、偽物対策もあり、20世紀末から21世紀初頭にはムーブメントを見せるシースルーバックに変更されたのであった。現代では機械式のグランドセイコーはシースルーバックが当たり前になったが、このSBGR003はその嚆矢となったモデルと言えよう。

Cal.9S55

 今となっては小さめとも言えるSBGR003の37mmという直径は、控えめな風情を醸し出している。それはアンダーステートメントな日本人の美徳を体現していると筆者は感じるのである。レギュラーモデルのSBGR001では非常に光沢の強い文字盤、インデックス、そして針がサイズの割にはむしろ強い存在感を与えているが、このSBGR003のベージュ文字盤は一歩引いた控えめな風情を与えている。この時計が販売された当時、バリバリ働くビジネスマンのツールとしては、ロレックスやタグホイヤーのようなSBGR001の輝きが好もしいととらえられていた。その一方で、このSBGR003や手巻きモデルSBGW001の落ち着いたベージュの雰囲気を好む人もまた多かったのであった。

 SBGR003の文字盤はギヨシェ模様とされており、画像などだとかなり煩雑に見える。しかし現物からは、目の詰まったパターンがむしろ控えめな印象を受ける。そして本来の反射を控えて文字盤を見やすくするというギヨシェ文字盤の効果は、ブレゲなどの往年のフランス製懐中時計を思い出させられる。本来の「ギヨシェ」は切削によるものだが、この時計の文様はプレスにより製造されている。プレスでこれだけの繊細な模様を作るメーカーの技術力が感じられるものであり、この文字盤をデザインしたセイコーの見識の高さにも敬服せざるを得ない。残念ながらこの様式は後のモデルに引き継がれなかったが、同年代の「クレドール スプリングドライブ」なども含めて、セイコーの工作能力の高さを示すひとつのランドマークとなっているではなかろうか。

 当時はケースの厚みが気になったが、現在ではコンパクトな外径にコロっとした厚みがまるで、カブトムシのような印象を与えて、むしろ可愛らしさすら感じさせる。ただ、裏蓋そのものが非常に厚いことはどうしても高級感を削いでおり、また装着感という点でも裏蓋のみが腕に当たることから、フィット感がどうしても悪くなってしまう。そのためラグを下げたデザインであっても腕上で時計がバタつくことがあり、装着感は万全とは言い難い。

 しかし、現代の時計としては比較的小径で重量も軽いことと、ソリッドさという点では特別優れているとは言えないが、よくコマの動くブレスレットもあって、実際の使用感は悪くはない。もっともIWCの、とりわけ3針の「パイロット・ウォッチ」や、多くのロレックスといった、薄い裏蓋を持つモデルの方がより腕なじみは良い。

 そうは言ってもケースとラグの隙間も当時としてはまずまず狭いし、特にインデックスや笹針の美しい磨きは、それこそはるかに高額な時計と比較しても美しく(さすがにキクチナカガワとかと比べてはいけませぬ)良い時計を持っている、と所有者に実感させる。とりわけ感心したのは、時分針が鏡面仕上げなのに対して、細い秒針の磨きは殺してあることだった。画像では分かりにくいが、これが時分針と秒針のコントラストを強調することで、それぞれが実に見やすくなっている。

 ついでシースルーバックからCal.9S55を眺めてみることにする。ぱっと見は今も昔も十二分に美しい。しかし、このムーブメントは、当時(2000年ごろ)からいわゆるマニア(オタク)の間ではあまり評判が芳しくなかった。理由はいくつかあるが、ひとつ目は先に書いた筋目模様の「トーキョーウェーブ」だろう。セイコーのトーキョーウェーブは、同じような技法で施されるオリエントの筋目仕上げが、もはやワイルドと言いたいぐらい荒々しいに比べると、目を細めたり拡大鏡で見なければ、コート・ド・ジュネーブと見分けがつきにくいほど精細に仕上げられている。

 しかし、コート・ド・ジュネーブが「磨きが浅く精細で幅が広いほどグレードが高い」とされているため、切削でどうしても深さが出てしまうトーキョーウェーブは格下とされてしまった。今思えば、何がなんでもスイスの技法が至上というわけではないし、宝飾品というよりも、実用品としての側面が強いグランドセイコーのキャラクターを考えれば、トーキョーウェーブは十二分に良い仕立てと言える。

 もっともこの時代は、なまじ機械式時計自体の製造技法などがマニアの間にも広まり、フィリップ・デュフォーなどの手仕上げを誇る独立時計師が人気を集めた時期だっただけに、そういう扱いを受けたのであろう。

 それと共に、ブリッジ(地板)に飾り仕上げが施されていない、とか、ムーブメントに用いられるネジの頭がダルといった指摘も多かった。ネジの件で言うと、当時グラスヒュッテのノモスなどは青焼の美しいネジを用いていた(今でも用いている)上に、当時はノモスの方がずっと安かった(当時のグランドセイコーが30万円以上だったのに対してノモスは10万円程度であった)のである。時計の機能・性能を考えれば、当時のCal.9S55のように見栄えがしない普通のネジを使ってもまったく問題はない。その一方で、機械式時計に趣味的・工芸的な要素が求められる度合いが強くなっていくにつれて、仕上げが批判されるようになったのは、時代の流れであろう。

 セイコーが機械式時計をさかんに製造していた1950〜60年代は、シースルーバックの時計もほとんど存在しない、機能第一の時代であった。機械式高級時計の復興にはいち早く動くことで、セイコーは現在の隆盛につなぐことができたが、2000年代当時は、ムーブメントの見栄えや消費者の嗜好性について、まだ捉えきれていなかった印象がある。

 ねじ込みリュウズが採用されていないこともあり、SBGR003はより気軽に使える時計という印象が強い。筆者の個体は歩度証明の額面ほどではないが、日に+20秒前後と比較的良い精度が出ている。もっともこの個体は近々メンテナンスに出さねばならないし、左利きの筆者は時計を右腕に装着することもあって、メーカーが想定していない姿勢で使うことが多い。そのため精度はどうしても低くなりがちになる。

 この時計に搭載されたCal.9S55の面白いポイントに、テンプの振り角を低めにとっていることにある。当時はテンプの振り角を高く取ることで、力技で精度を高める手法が主流であった。実用的な時計ではなおさらだった。それに対して、低い振り角で精度を出すことは記述的に難しいが、耐久性と長期的な安定性の面では非常に好もしい。これは機械式グランドセイコーを場当たり的な新企画ではなく、長期にわたって続けていくセイコーの決意と見ることができる。ちなみに、この様にテンプの振り角をほどほどに抑えて、テンプの振り当たりを抑えるというCal.9S55の思想は、現在ではムーブメント設計の主流になった。

 その一方で、300度以上の振り角を持つブライトリングやIWCのETA7750改良版と比較すると、筆者のCal.9S55は姿勢差では劣る(=実使用での精度も一段下がる)印象があった。また少なくとも筆者の実使用の環境で言うと、同様に振り角を抑えるという設計を持つが、巻き上げヒゲ(ブレゲヒゲ)を装備したロレックスにも及ばなかった。

 これらの、特に精度に熱意を注ぐメーカー以外と比べるならば十分に優れた精度と言えるものの、「クロノメーター規格を上回るグランドセイコー規格」を達成したと実感できる携帯精度には達していない。あくまでも通常の範疇では非常に優れた時計、に止まる印象は拭えなかった。

 これは外装などでもSBGR003が与える印象と共通しており、あらゆる部分でほどほどに優れている、という極めて日本的なバランスを感じさせられるものである。


44GSの復刻版「グランドセイコー 44GS復刻デザイン SBGW047」

 機械式時計の復刻を高いレベルで、しかし、ある意味日本的で「控えめな」風情で成し遂げたセイコーは、その後も機械式グランドセイコーを放置することなく、不断の改良を内装、ムーブメント共に加え続けた。

 外装の面では、グランドセイコー40周年記念として、多角形のベゼルと大きなアラビア文字インデックスを持つ「現代風」なモデルや(このモデルの中でも、筆者は18KWGケースに濃紺の文字盤を持つSBGR013をいたく気に入っており、いつかは手にしたいと考えている)や深澤直人氏をデザインアドバイザーに迎えた、スタイリッシュなモデルなどがリリースされた。

「9S55 10周年記念モデル SBGR037」では、ムーブメントの形式には変更がなかったものの、MEMSという手法を用いて、脱進機を軽量化・安定化させたモデルが登場した。その際にヒゲゼンマイの素材も新しいSPRON610に変更された。それ以降も改良は続き、ついにセイコーの歴史的アイコンたる10振動モデルが「SBGH001」として、新しい10振動ムーブメントであるCal.9S85を載せて登場したのであった。

 このモデルと、機械式復興初代たるSBGR001との外装の精密な比較は、以前の『クロノス日本版』に詳細な素晴らしい記事がある。それをまとめると、レーザーカットなどの当時新しい手法を駆使してどこもかしこも輝かせたSBGR001に対して、SBGH001では抑える所は輝きを控えて、コントラストと落ち着きを出す、という違いがあった。

 輝きを計算して落ち着いた風情を出すSBGH001の手法は、まさに世界が日本に期待するものであり、グランドセイコーの人気を高めるより要因となった、と筆者は考える。今となってはSBGR001の輝きもバブル時代の思い出のごとく懐かしいものではあるが……。

 10振動ムーブメントのCal.9S85で用いられた改良は、8振動ムーブメントにもすぐ取り入れられた。すなわち9S6系の登場である。ブリッジに隠れていることもあって、9S64/65と9S54/55の見た目には、すぐに分かるような差異は少ない。しかし、新しい9S6系の内部は大きく変更されていた。

 この9S6系は10振動の9S8系が高振動のために必要としたトルクを、8振動に落とすことでパワーリザーブに振り向けたムーブメントである。それによりパワーリザーブは約50時間から約72時間と大幅に延長された。また、9S6/8系の自動巻き機構もセイコー伝統ではあるが、どちらかというと廉価なラインに用いられたマジックレバーから、一般的なリバーサーに変更されたのであった。

 約48時間強、というCal.9S55のパワーリザーブは登場当時の自動巻きとしては標準的なものであった。しかし、ちょうど2000年ごろ、例えばIWCの「ポルトギーゼ 2000」やパテック フィリップの「10デイズ」といった、ロングパワーリザーブをうたった新しいムーブメントが相次いで登場した。

 以前のように1本の時計を常に使用し、仕事の休みは日曜日のみならば日曜日だけ時計を外しても、時計は止まることがなかった。しかし、働き方が変化し、週休2日が普通になり、加えて機械式時計時計を複数所有して趣味的・ファッション的に取り替えて使うようになると、週末まるまる外しても止まらない3日間(60-72時間程度)という長いパワーリザーブが求められるようになった。さらにスマートフォンの普及もあり、1本の時計を実用的に使っていた、元々時計に関心が薄い層は時計自体を着けないようになった。その一方で、積極的に時計を買う層は、何本もの時計を使い分けるようになったのである。

 再登場後のグランドセイコーは、多くの人々に「日本製の落ち着いた良い時計」と見なされていた。例えば仕事を成し遂げ、キャリアを完成させた中高年層が、その記念と以後の人生のパートナーとして購入するように、である(筆者は実際に、こういった理由で購入した人を多く知っている)。しかし、復活を遂げた機械式グランドセイコーは、そういった層よりも、複数の時計を購入する嗜好的な人や富裕層と言った、それ以前にスイスのメーカーが得意としていた領域に、必然的に切り込むことになった。

SBGW047

44GSの復刻モデル的に存在である「SBGW047」。いわゆる“セイコーデザイン”を忠実に踏襲した外装と、ザラツ研磨がその完成度の高さを物語る。裏蓋ははソリッドバック。

 そういった変化が生み出した1本が、次に取り上げる「44GS」の復刻版にあたる「SBGW047」である。機械式グランドセイコーの再興以後、セイコーは創業120周年記念モデルである「SBGW004」のような、初代グランドセイコーの復刻モデルを何度か出していた。これらはロゴやケースが比較的原点に忠実なものである。しかし、ヴィンテージのグランドセイコースタイルは、復刻モデル以外では、あくまでもデザイン上のエッセンスでしかなかった。セイコーは直接的な往年のセイコースタイルの復活を避けていた節があったように思える。しかし、原典たる44GSを詳細に調査して生まれたSBGW047は、ムーブメントこそ現代のCal.9S64を使っていたものの、極めて忠実なリバイバルと呼んで良いモデルであった。

 実物のSBGW047を見ていこう。グランドセイコーの外装に関しては、よくザラツ研磨による鏡面仕立てが取り上げられる。そして、クラシカルなグランドセイコーのフォルムを持つSBGW047では、そのザラツ研磨の面が非常に大きく取られているのが分かる。鏡面とヘアライン仕上げを混ぜたほうが、むしろ鏡面の印象は引き立つが、面が大きければ、鏡面の輝きはより強さを与えることができる。SBGW047以前のグランドセイコーは、日本的な美徳で穏当さを目指したのか、ビジネスマン向けとしては妥当だが、ロレックスやオメガを想起させないといったら嘘になりそうな無難なデザインであった。

 その点、このクラシカルなSBGW047では、広く取られたラグ上の斜面や下側が強く絞られたケースサイドといった、伝統的な「セイコースタイル」のデザインが、ザラツ研磨の効果を際立たせることとなった。

ザラツ研磨

 さらに良かったのは、この頃からセイコーがSBGW047のような復刻作を作ると同時に「現代版」を出すようになったことだ。そのため、復刻版に無理に現代的な機能をもたせる必要性がなくなったのである。例えば、SBGW047の復刻版は手巻のムーブメントCal.9S64が与えられた一方で、「現代版」は自動巻きやスプリングドライブが搭載するように、である。

 もちろん、かつての伝説的な45系のような手巻き専用のムーブメントが再び登場することが理想であろう。しかしSBGW047では自動巻き機構を取り去った手巻きムーブメントを使うことで全体が薄くなり、結果としてSBGR003の項で述べた、裏蓋の分厚さを回避できたのである。

「SLGH003」で後述するが、セイコーはその後「安全マージン」として過大に取っていた機械と外装の隙間を詰めるようになったため、最近は、自動巻きモデルであっても、以前より裏蓋の盛り上がりは抑えられた。その点で筆者は、SBGW047と同じような復刻モデルだが、ムーブメントにより薄いCal.6L35を採用した2021年の「キングセイコーKSK」を、自動巻きであっても往年の雰囲気をよく再現した時計として評価する。

キングセイコー 復刻

Photograph by Takeshi Hoshi
1965年の通称KSKを復刻したモデル。自動巻き(Cal.6L35)。26石。パワーリザーブ約45時間。SS(直径38.1mm、厚さ11.4mm)。5気圧防水。世界限定3000本。セイコーグローバルブランド コアショップ専用モデル。完売。

 セイコーはSBGW047の文字盤において、これまで頑なに守り続けてきた“Grand Seiko”のドイツ文字表記をやめ、オリジナルの44GSが使っていたブロック体に改めた。このブロック体は、1960年代の“機械的”(自動車や洗濯機、テレビなどの普及と同時期である)な時代のデザインには非常に合致しており、文字盤にスマートな表情を与えている。あくまでも個人的な要望だが、セイコーは、例えば近年のIWCといった、リシュモン系メーカーが好む教条主義的な統一ロゴにとらわれず、それぞれの時計に適した書体を用いてもいいのではないだろうか。

 SBGW047は、グランドセイコーでよく使われる笹針とは少し異なる、オリジナルに即した、上面にヘアラインを施した、鋭く、美しい針を採用した。その、全体的に古き良き時代の日本を体現したデザインと、現代の高度な技術による仕上げ、そして正確かつ信頼性の高いムーブメントの組み合わせは、趣味的な腕時計に求められるひとつの極致と言えよう。

 実際、友人にこのモデルの購入を相談されたときには即決するように強く勧めた。また筆者自身もこのモデルを入手したことで、落ち着いたシチュエーションで用いるための時計はすっかり満足してしまったのであった。個人的に社交するような場所には縁がないこともあって、筆者は持っていたパテック フィリップなどのいわゆる高級時計を手放してしまったほどである。パテック フィリップの時計は今でも別して、といってよいほど好きではあるのだけれど。

 実使用においてもSBGW047はほとんど非の打ち所がない。日差はおおむね一桁に収まり、針や文字盤に夜光塗料は施されていないものの視認性は高く、装着性も素晴らしいのひと言である。しかし、ヴィンテージのグランドセイコーに同じく、美しいザラツ研磨の鏡面は大きいため微細な傷が入りやすく、レザーストラップであることも合わせて、特に夏場などは気を遣ってしまう。そのため、実際には極上の実用性を持って入るが、気楽に着けるのはちょっとはばかられてしまう。結局、筆者はSBGW047を猫可愛がりして、ケースにしまい込んで眺めることが多くなってしまった。可愛がりすぎて箱入り娘のような扱いになってしまったのが、SBGW047の欠点といえば欠点だろうか。