時計愛好家から愛称で呼ばれ、定番化した時計にはどんなのがある? 名作6本とそのニックネームを紹介

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2022.12.25

のちに正式に公式なモデル名に採用されたニックネームとそのモデル

 ここまで紹介した時計は、あくまでモデルの特徴を捉えて名付けられたニックネームであり、ブランドの認知があろうが、愛称にすぎない。しかし、ここで紹介する2本は、時計愛好家たちが勝手につけた呼称が、のちに正式なモデル名になってしまった稀有な例だ。

防水性能から付けられた“デビルダイバー”とブローバ「オーシャノグラフファー」

 ニックネームが正式なモデル名になる。そんな実例のひとつがブローバ「アーカイブス シリーズ オーシャノグラフファー “デビルダイバー”」である。これは、70年発売のダイバーズモデル「オーシャノグラファー」の復刻モデルだ。

 オリジナルモデルは、60年代後半から70年頃に一般的であった300フィート(約90m)の防水性能を大きく上回る666フィート(約200m)防水を実現したことで注目を集めた。また、性能を示す「666」が、新約聖書のヨハネの黙示録に登場する獣(悪魔)の数字を連想させるとして「デビルダイバー」というニックネームで呼ばれるに至った。

オーシャノグラフファー “デビルダイバー”

ブローバ「オーシャノグラフファー “デビルダイバー”」
復刻版デビルダイバーのイメージカラーのモデル。Cラインケースやレッドの挿し色の使い方、ブロック体の表記など70年代のデザインの特徴が色濃く表れている。自動巻き(Cal.8315)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径44mm、厚さ14.4mm)。20気圧防水。9万6800円(税込み)。

 デビルダイバーのニックネームと共に、オーシャノグラファーがファンの間で広く知られ、また愛されていることを示す逸話がある。復刻モデル発表の前年、ブローバはアンティークウォッチファンに対して、復刻を希望するモデルのファン投票を行った。その際に首位を獲得したのがデビルダイバーであったのだ。

 復刻モデルとなる本作は、幅が広い時分針や十字が描かれたダイアルデザイン、蓄光を備えた円柱状のインデックスといった特徴をオリジナルモデルから引き継いでいる。そのほか、オリジナルモデルに用いられた古いタイプのブランドロゴを用いるなど、デビルダイバー復刻に投票したファンを満足させる仕上がりとなっている。

ケースの形状から呼称された“キャスケット”とジラール・ペルゴのLEDウォッチ

 ジラール・ペルゴ「キャスケット 2.0」は、76年登場のLEDウォッチの復刻モデルである。オリジナルモデルはモデル名らしい名称が付けられておらず、単にリファレンス番号と素材名で区別されるだけであった。その特徴は、時間の表示方法である。上面から見るとレクタングル形状のケースを、一般的な時計の6時方向から覗き込むような位置にLED液晶画面が配置されているのだ。

 オリジナルモデルが販売されていた当時、12時方向から6時方向に向かってわずかに広がりながら、6時方向の端面が切り立ったシェイプがハンチング帽に似ているとして、ハンチング帽の別の呼び方である「キャスケット」というニックネームで呼ばれていた。ニックネームが定着した理由は、モデル名がなかったこと、特徴的な形状を備えていてインパクトが強かったこと、ニックネームがなじみのあるワードであったことと想像される。

ジラール・ペルゴ キャスケット

(右)ジラール・ペルゴ「キャスケット2.0」
現在のジラール・ペルゴがLEDウォッチをリリースするにあたり、優れた外装によって納得感や説得力を生み出す手法が取られた。荒らした面とポリッシュのコントラストは、当時の雰囲気と現代的な外観の融合である。左はオリジナルモデル。クォーツ(Cal.GP03980)。ブラックセラミックス×Ti(縦42.4mm×横33.6mm、厚さ14.64mm)。50m防水。世界限定820本。完売。

 2022年の復刻にあたってモデル名は「キャスケット2.0」となり、ニックネームは正式名称に昇格した。“2.0”の意味するところは、これは単なる復刻ではなく、アップデートされたニューモデルであるとの宣言であろう。

 本作では、ケースとブレスレットはセラミックス製に改められ、オリジナルの樹脂素材を思わせるざらついたテクスチャーと、対比的なポリッシュ部が組み合わされている。「GP」のロゴや表示・操作系の特徴を引き継ぎながら、エッジの効いたメリハリのある造形が与えられた。


ニックネームの存在は愛されている証拠

 現代であれば“インターネットミーム”のように瞬間的にニックネームが広まることもある。時計以外のジャンルにて、そのような広がりをプロモーションとして狙う例も散見される。

 しかし、ここに挙げたニックネームは60~80年代にかけて付けられ、インターネットが無い時代に定着し、現在まで残ったものばかりだ。これは、各モデルがファンによって愛され、語り継がれてきたからに違いない。各社もそれを理解しているからこそ、ニックネームの由来となったカラーリングを継続して採用し、モデルを存続、あるいは復刻し、正式名称にまで昇格させるのであろう。

 今、手元にあるモデルに広く知られたニックネームがあるならば、それで呼んでみよう。それが、多くの人に愛されてきた歴史に自分が加わることを意味するのだから。


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