この出来栄えで衝撃の価格! 新しくなったティソ「シュマン・デ・トゥレル」の凄さを検証

FEATUREその他
2023.03.15

検証②:サイドからのぞくマニュファクチュール

 次に、サイドから時計を眺めてみよう。ベゼル、ミドルケース、裏蓋で構成されるスリーピース構造を持つが、自動巻きムーブメントを搭載したモデルとしては、比較的薄型に見える。だが、実際の厚さは11.22mmと特段薄くはない。デザイン上の工夫によって見た目の薄さを実現しているのだ。

シュマン・デ・トゥレルの風防

緩やかに湾曲したドーム型サファイアクリスタル風防は、時計全体にクラシカルな印象をもたらしている。サテンとポリッシュに磨き分けたミドルケースは、見た目の薄型化にも寄与している。

 ケースサイドはサテン仕上げを基調としているが、その下段にポリッシュ仕上げの層を与え、さらに裏蓋に向かって傾斜をかけている。これによって、サテン仕上げが際立ち、ケースが薄く見える。言葉にすれば簡単だが、これを実現させるためには、ケースへの複雑な加工と細かな磨き分けが必要となり、自ずとコストもかかる。

 ケースの縦の長さ、つまり12時側のラグ先端から6時側のラグ先端までの長さが短いことにも注目したい。着用者の手首回りのサイズと、腕時計のケースの大きさには相性がある。何を良しとするかは最終的に個人の主観に委ねられるが、乱暴に言えば、太い手首には大型の腕時計、細い手首には小型の腕時計が合うだろう。

シュマン・デ・トゥレルのラグ

短く切り詰めたラグは、手首での収まりの良さにつながる。ケースの輪郭をはっきりと浮かび上がらせるエッジは、シャープさを保ちながらも適度に丸められており、優しい肌触りを実現している。

 筆者は、手首の幅に対して、腕時計がどのくらいの面積を占有しているのかが重要だと考えている。すなわち、ケース径が大きくても“ケースの縦”が長くなければ、細い手首でも意外と収まりが良かったりするのだ。

 新しいシュマン・デ・トゥレルには、3種類のケース径が用意されている。大きいものから直径42mm、39mm、34mmだ。これらに共通する“縦の短さ”は、着用者自身の手首のサイズによってではなく、好みによってケースサイズを選択する余地を与えてくれている。

 さて、ダイアルに目を移してみよう。ダイアルに柔らかな印象を与えているのが、緩やかに湾曲したドーム型サファイアクリスタル風防だ。そのままダイアルの外周をよく見ると、ダイアルそのもの、そしてその上のインデックスや針までもがカーブしていることが分かる。これらの意匠が組み合わされることで醸成されるレトロ感は、20世紀半ばの機械式腕時計黄金期を想起させる。

 高い硬度を持つサファイアクリスタルをドーム型に切り出すのは簡単ではない。もちろん、ダイアルやインデックスに同じ曲率のカーブを与えることも、それらに干渉しない程度に針に曲げを入れることにも相応のコストがかかる。同社が至高のクラシックウォッチを作り上げるために、いかに妥協のないディテールを与えているかが分かるだろう。

検証③:妥協なき細部の作り込みとその意味

 その他にも、本作には優れたディテールが多く盛り込まれている。まずは、6時位置に配されたデイト表示の窓枠だ。同価格帯では、単に四角形の穴が開いているだけということも珍しくはないが、本作には額縁のような斜めに切り立った処理が施され、デイト表示にくっきりとした輪郭を与えている。

シュマン・デ・トゥレルのダイアル

斜めにカットされたデイト表示の窓枠。細かな部分だが、ここも本作では抜かりなく処理されている。主張の強い金属製の枠を取り付けるのではなく、ダイアル自体に加工を加えることで、クラシカルなデザインに調和させている。

 まるで非防水仕様のアンティークウォッチかのような、薄くエレガントなリュウズも本作の特徴だ。リュウズ内部に用いるパッキンを大胆にも省略することで、リュウズ自体の薄型化も実現している。とはいえ、水に浸けたりしなければ大抵のシーンでは問題のない5気圧防水を確保しているため、過度な心配をする必要はない。

シュマン・デ・トゥレルのリュウズ

引いたリュウズのクローズアップ。リュウズ内部にパッキンを設けないことでリュウズヘッド自体を薄く仕立て、よりクラシックに見せている。対して、ケース側のチューブを太くすることでリュウズに安定感を与えるとともに、チューブ内にパッキンを設けることで日常生活に十分な5気圧の防水性を持たせている。また、リュウズ側の付け根の形状にも防水性を高める工夫を見ることができる。

 ベルトは、レザーストラップまたはステンレススティール製ブレスレットが用意されている。5連リンクで構成されたブレスレットは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げを交互に織り交ぜることで、落ち着きの中に程よいエレガンスを漂わせる。

シュマン・デ・トゥレルのブレスレット

ステンレススティール製ブレスレットは、5連リンクで構成されている。ケース同様にサテンとポリッシュで磨き分けられ、地味にも華美にも寄り過ぎることなく、上品に仕上がっている。短く可動域の大きなコマは、着用者の手首に滑らかに沿う。

 コマのひとつひとつが短く、可動域も大きいため、着用者の手首に合わせたベストな調整ができるだろう。コマの裏側はサテン仕上げで統一されており、汗ばんでもべたつきにくい仕様である。

 クラスプは両開き式を採用し、ブレスレットを閉じた状態での連続性を持たせている。着脱のしやすさでは三つ折れ式に軍配が上がるが、両開き式のメリットは、手首内側のちょうど真ん中に、短いプレートが当たる装着感の良さだ。

シュマン・デ・トゥレルのクラスプ

両開き式のクラスプは、プッシュボタンによって解除することができる。短めのプレートは着用感の向上にもつながっている。微調整機構は備わっていないが、閉じた際にはクラスプとの一体感を見せる。

 本作のベルトには、いずれの素材にも、工具を用いずにワンタッチでケースから取り外すことのできるインターチェンジャブルシステムが備わっている。操作は簡単だ。バネ棒から垂直に伸びるレバーをぎゅっと内側に押し、ベルトを引けばケースから分離させることができる。

 繰り返しになるが、新しいシュマン・デ・トゥレルには、豊富なバリエーションが用意されている。ダイアルのデザインとカラーリング、ケースのサイズとPVD加工の有無、ベルトの種類を含め、全部で15ものリファレンスが存在する。自分の好みに合わせて、幅広いラインナップから選ぶことができるのも大きな魅力だろう。

 中でも注目したいのは、34mmケースのモデルだ。近年、メンズ/レディースの垣根は徐々に曖昧になりつつある。ケースは小径だが、ラグ幅は18mmに設定されているため、男性が着用しても華奢な印象にはならないだろう。

シュマン・デ・トゥレルのケースバック

39mmケースモデル(左)と34mmケースモデル(右)の裏面比較。同じムーブメントが搭載されているため、小径な後者の方がムーブメントの迫力を感じやすい。ベルトの付け根に見えるのは、インターチェンジャブルシステムのレバーだ。これによって、指先の操作だけで簡単にベルトを脱着することができる。なお、シースルーバックから見たところ、ムーブメントのスペーサーは、この価格帯ながらも金属製が採用されているようだ。

 女性にはもちろんのこと、小径なモデルを好む男性や、ヴィンテージウォッチ愛好家の普段使い、さらにはパートナーとのシェアウォッチとしても十分に活躍することは間違いない。加えて、裏蓋いっぱいに広がるムーブメントは、42mmや39mmケースモデルにはない凝縮感をもたらしている。


デザイン、スペック、ディテールがもたらす圧倒的な満足感

 新しいシュマン・デ・トゥレルには、針の仕上げからダイアルやケースの造形、ベルトに至る細部まで、一貫してクラシカルなデザインと実用性を高める工夫が取り入れられている。加えて、信頼性の高い汎用ムーブメントをベースとしたパワーマティック 80を搭載し、その数値上のスペックは現代の高級機に勝るとも劣らない。

 豊富なバリエーションが用意され、選ぶ楽しみもある。さらに販売価格はいずれも11万円台に収まり、年々高騰する腕時計の販売価格を考慮すると、驚くほどの値頃感だ。ランニングコストも低く抑えられ、ブランドのコンプリートサービス料金は、本記事執筆時点で税込み2万4200円。その中には、消耗部品の交換も含まれている。まさに“コスパ最強”と呼ぶにふさわしい。

 創業から170年にわたり時計製造に向き合ってきた歴史と、スウォッチ グループ傘下のサプライヤーの力が結集して作り上げられるティソの腕時計。同社の職人たちが黙々と歩き続けた「小さな塔のある小道」に滲む想いは、「シュマン・デ・トゥレル」コレクションに託されて、世界中に届けられることだろう。

シュマン・デ・トゥレル

新しいシュマン・デ・トゥレルには、全15リファレンスがラインナップされる。ケースサイズやダイアルデザイン、カラーリングの豊富な選択肢から、自分の好みのモデルを探し出すのもまた一興だ。(右)11万8800円(税込み)。スペックは左および中(トップ画像)と同じ。



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